インバウンド特集レポート

日本旅行人気が続くシンガポール、100万円超の高付加価値旅行商品も販売

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本格的なインバウンド再開から1年が過ぎた。円安と旺盛な海外旅行需要、日本人気などに支えられて訪日客数は急速に回復、インバウンド消費も大きく伸びた1年だった。2023年を振り返り、2024年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。

 

2024年インバウンド動向予測 

Vivid Creations Pte Ltd, Cheif Marketing Officer
宮川 元希

 

訪日客数2019年比2割増に迫る、半年後の海外旅行計画も進む

2022年10月に個人の訪日旅行が解禁されると、シンガポールからの訪日旅行者数は瞬く間に増加した。2023年1月〜11月累計は47万7600人で、対2019年比では21.9%増を記録(JNTO推定値)。これはアジアの中で最も大きな増加率だ。

これほどまでにシンガポールからの旅行者数が増えた理由は3つある。第一に、海外旅行を待ち続けていたシンガポール人のリベンジ旅行、次に過去38年で最大の円安・シンガポールドル高、そしてコロナ前から続く圧倒的な日本の人気である。

また、2023年のシンガポールの旅行者の消費額の増加も著しい。観光庁の「2023年7~9月期の全国調査結果(1次速報)の概要」によると、訪日外国人旅行消費額の総額は2019年同期比では17.7%増だったが、シンガポール市場の総額では、99.6%増えている。この数年間、シンガポールでは物価の上昇が著しい。エコノミスト誌が発表した、2023年版「世界の生活費が高い都市ランキング」では、シンガポールとチューリヒ(スイス)が1位となった。そんなシンガポールに住む人々にとって、円安・シンガポールドル高とも重なり、日本旅行は割安に感じられる。

シンガポールの旅行者は、4〜5つ星ホテルに宿泊を好み、買い物や食事、そして体験に消費をする傾向がある。そして、訪日旅行者のうちリピーターが約7割であり、1割は10回以上も訪日している。9割が個人旅行、1割が団体旅行を占める。

旅行会社の話を聞くと、すでに半年以上先の旅行の計画を立てているという旅行者も多いようだ。年に2〜3回は海外旅行をするシンガポール人にとって、旅行は欠かせないものであり、航空券の高騰を目の当たりにし、早めに航空券を購入する人が増えている。2023年11月上旬に開催されたシンガポール航空のフェアでも、2024年9月30日までの航空券が割引価格で販売された。

 

旅行博では、旅行会社の売上30%増に、航空路線が需要の足かせに

2023年8月に開催されたシンガポール最大の旅行博NATAS Holidaysでは、約10万人の来場者があり、旅行会社は売上が最大30%増加したと報告している。旅行会社の話によると、日本は安定して人気の旅行先である一方、ランドコストの高騰により、ツアーの価格を値上げせざるをえなくなっているという。また、さらに多く日本へ団体ツアーを送客したいが、航空券の席が大きな足枷となっているという。ある大手の旅行会社は、この冬の九州ツアーは完売しており、もっと座席が欲しかったと述べている。そういった影響もあり、日本よりも安く行ける中国や台湾、香港・韓国も、2023年に人気の旅行先だった。

シンガポール航空は、2023年10月1日の東京/羽田 – シンガポール線を皮切りに、冬季運航スケジュールでは日本の5つの主要空港での運航便を新たに追加し、東京/成田、大阪、名古屋、福岡からシンガポールへの運航便数を新型コロナウイルス感染拡大以前のレベルにまで回復させると発表した。パンデミック前の水準に回復することから、2024年以降もシンガポールからの訪日旅行者が増えることが期待できる。

 

地方誘致進むシンガポール、100万円超の旅行商品販売の実績も

弊社は今年度、シンガポール市場向けに高付加価値の旅行を推進したいという自治体や事業者からの問い合わせが増えており、シンガポール市場が高付加価値旅行の点で注目を集めていると実感している。2023年は、JNTOや地方自治体の事業で、富裕層向け情報発信やイベントの開催、旅行会社の招請事業などを実施した。

実際に旅行会社と開催したセミナーでは、100万円以上の商品を販売し、その場でツアーが購入されることも目の当たりにし、シンガポールの購買力と訪日旅行への関心をよく感じられた。

量より質の観光を求める自治体や事業者にとって、シンガポールは無視できない重要な市場である。JNTOも推し進めている「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客」の実現に向けて、2024年以降もシンガポール市場の重要性は拡大していくだろう。

 

著者プロフィール
Vivid Creationsは2009年シンガポールで設立したマーケティング会社。日系企業や政府機関のシンガポール現地のマーケティング活動を支援。CMO兼訪日インバウンド事業責任者。自治体を対象にシンガポール市場のレップ業務を担当。旅行会社・メディアのファムトリップや訪日プロモーションの実績多数。JNTOシンガポール事務所や自治体・民間企業の訪日プロモーションも請負っており、シンガポール現地の観光事情に精通する。

 

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