インバウンド特集レポート

全8市町がグリーン・デスティネーションズのラベル獲得。日本「持続可能な観光」地域協議会が歩んだ3年間の取り組みと成果

2024.03.29

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世界的に注目が高まるサステナブル・ツーリズムの潮流を受け、2021年7月に発足した日本「持続可能な観光」地域協議会が、活動開始から3年が経った節目に報告会を開催した。

この協議会は、呼びかけ人であり代表幹事を務める岩手県釜石市、そして北海道弟子屈町、北海道虻田郡ニセコ町、長野県小布施町、京都府宮津市、徳島県三好市、熊本県阿蘇郡小国町、鹿児島県大島郡与論町の8つの市町が、国際基準を活用した持続可能な観光地域づくりを目指して知見や情報を共有しながら互いに高め合うことを狙いとした広域連携組織だ。

各市町に、国際基準に関連する実務を担うサステナビリティ・コーディネーターを立てて活動を行ってきた。その結果、加盟する8つすべての市町が、GSTC認定の国際認証団体グリーン・デスティネーションズ(本部オランダ)のアワードやラベル獲得といった目に見える成果を達成できた。

今回の報告会には8市町の首長や代表者が集い、この3年間の実績の共有と、2024年度以降の活動継続についての議論がなされた。

 

100年先も発展する地域に、観光庁が考えるサステナブル・ツーリズム

活動報告に入る前に、観光庁外客受入参事官室の飯島一隆氏より、我が国の観光の現状とサステナブル・ツーリズムの本質的な意味についてプレゼンテーションがあった。

日本における定住人口1人あたりの年間消費額は130万円とされるが、これをインバウンド観光客による消費額で換算するとわずか8人分でまかなえる。2012年から2019年にかけ、訪日外国人旅行者数は約3.8倍、彼らによる消費額の推移は約4.4倍と、右肩上がりに伸び続け、コロナ禍で一旦は激減したものの2023年より大幅に数字が戻りつつある。少子高齢化による人口減が深刻な我が国では、観光における消費を創出し、とりわけ消費額の大きい外国人旅行者の誘致に力を入れることは経済成長戦略の柱となる。

数字は順調に伸びているが、観光振興は本当に地域のためになっているのだろうか。観光による「光」の面もあれば「影」の面もある。旅行者数や消費総額といった数字だけで計るべきではない理由の1つが、オーバーツーリズムだ。北海道美瑛町では、美しい風景写真を撮るための私有地への立ち入りが問題となった。神奈川県鎌倉市では、人気アニメに登場する踏切付近で立ち止まる観光客たちが道を塞ぐ。京都では混雑により地域住民がバスに乗りたくても乗れない状況が続いている。

このような事例から、観光庁は「持続可能な観光」を「地域が50年先、100年先も発展していくために必要な、観光地域づくりの経営マネジメント」と定義する。観光は地域づくりのための手段であり、最終的には地域に還元されるものでなくてはならない。そのためには、「経済的に成長できる」「社会文化的に好ましい」「環境的に適性である」という3つの条件がバランスよくクリアされていることが望ましい。

この考え方を広げるため、観光庁は国際基準GSTCに準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)を開発した。そして、新たな『観光立国推進基本計画』では、「持続可能な観光地域づくりに取り組む地域」数を2025年までに100地域、そのうち50地域を「国際認証・表彰地域」にするという目標値が掲げられている。

協議会の取り組みが、観光庁の目標とも方向性を同じくしていることが確認された。

 

先駆的な8市町の取り組みをバックアップする3つの共通プログラム

続いて、過去に釜石市でサステナビリティ・コーディネーターとして活動し、現在は事務局員も務める久保竜太氏より、協議会の過去3年間の活動について報告がなされた。


▲2024年2月に都内にて行われた、8市町の首長や代表者が集った報告会の様子

日本「持続可能な観光」地域協議会は、岩手県釜石市を代表とする8市町が連携して「内閣府地方創生推進交付金」へ合同申請し、3カ年計画の広域連携事業として2021年に採択されている。3年間の活動の中で、8つすべての市町が、国際認証団体グリーン・デスティネーションズの表彰制度『グリーン・デスティネーションズ・アワード』やストーリーコンペティション『Top100 Stories』のラベル獲得という誇らしい成果も達成できた。

そこに至るまでの協議会の取り組みとしては、3つの共通プログラムがあった。

1. 持続可能な観光に関する研修会や専⾨家派遣のコーディネート事業
2. 持続可能な観光の取組みに資する交流・コミュニケーション促進事業
3. 会員自治体のプロモーション事業

持続可能な観光の国際基準や認証制度に関する専門技術の導入を主なコンセプトとし、専門人材であるサステナビリティ・コーディネーターの各市町への配置から活動がスタートした。そして、地域の実情に応じた取り組みを行う8市町に対し、地域間連携を促す支援を一体的に行うというのが共通プログラムの位置付けだ。

1つ目としては、持続可能な観光の国際基準を学ぶGSTC(Global Sustainable Tourism Council)公式サステナブル・ツーリズム・トレーニング・プログラムを全市町で実施した。2021年度に全体で約80名、2022年度には全体で約90名が受講した。各地域のニーズに応じた専門家派遣もコーディネートした。

2つ目に、本取り組みにおいて中心的な役割を担う8市町のサステナビリティ・コーディネーターを集めた合同研修会を開催した。2021年12月に北海道ニセコ町で、2年目は鹿児島県与論町で、3年目は徳島県三好市で行った。三好市会場での合同研修会は、2024年に『Top100 Stories』へエントリーする市町の選出にも重要な役割をもつ時間となったため、後半で詳しく紹介する。

3つ目は、プロモーション基盤の構築としてWebサイトやパンフレット、事例集を作成したほか、コンテンツマーケティングを導入し、集客につながるコンテンツづくりを行った。

8市町すべてが国際的なアワードを受賞

これらの活動の末、十分といえる成果が出せた。グリーン・デスティネーションズのストーリーコンペティション『Top100 Stories』において、2021年に8市町のうち3市町が、2022年に2市町が、2023年には7市町が選出されたのである。また、より上位の表彰制度『グリーン・デスティネーションズ・アワード』において、2022年に釜石市がシルバー賞を、2023年にニセコ町がシルバー賞を受賞している。

『Top100 Stories』では、世界中の観光地から、持続可能な「グッド・プラクティス・ストーリー」を募集し、多面的な評価基準に基づく審査を通じて100地域のストーリーを選出する。「観光地管理」「自然と景観」「文化と伝統」「コミュニティ」「環境と気候」「ビジネスとマーケティング」の6部門に分かれた各市町のストーリーの中から、2023年に選出された具体例を2つ紹介する。

「観光地管理」部門で選出された北海道弟子屈町は「鉱夫の山から、旅行者の山へ」と題し、経済を立て直すため「エコツーリズム」に取り組むストーリーを提出した。2000年代に入って急激に旅行者数が落ち込み、地域人口は減り、廃屋が増え、町はすっかり疲弊していた。しかし弟子屈町にはかつて硫黄炭鉱で栄えた火山がある。それを特定自然観光資源に指定し、立ち入りを制限した上で認定ガイド制度を創設した。作り上げたトレッキングツアーは人気となり、麓の温泉街にも再び活気が戻っている。

「自然と景観」部門で選出された鹿児島県与論町は、「星空ツーリズム」のストーリーが評価された。マリンレジャー客が大半を占めていた与論では、夏季以外のオフシーズンの誘客コンテンツが必要だった。そこで新たな観光の目玉として「星空」に着目し、和歌山大学と連携し、星空ガイドの育成や星空を見やすい環境づくりの一環としての光害対策などを進めた。地域にあった天文文化を掘り起こして再び磨き上げることで、失われつつあった星空文化の保全と新たな価値創出を実現した。

その他、京都府宮津市と徳島県三好市が「文化と伝統」部門にて、岩手県釜石市が「コミュニティ」部門にて選出されている。各市町のストーリーは、グリーン・デスティネーションズ・ジャパンのWebサイトにて日本語で読むことができるので、ぜひご覧いただきたい。また、これらを含む世界各地の観光地のストーリーは、グリーン・デスティネーションズのWebサイト(英語)に掲載されている。

2023年に『Top100 Stories』に選出された7市町、そして表彰制度『グリーン・デスティネーションズ・アワード』シルバー賞を受賞したニセコ町は、エストニアで開催されたグリーン・デスティネーションズの授賞式で表彰された。

 

活動の核を担ったサステナビリティ・コーディネーターたちの存在

8市町の国際的な表彰制度への挑戦とその実績の裏には、紛れもなく各市町のサステナビリティ・コーディネーターの活躍があった。彼らは国際基準や認証制度等の知識やノウハウを持つ人材として配置され、地域のサステナビリティの現状診断と施策立案に取り組むプロセスを通じて、地域を「持続可能な観光地」にしていく役割を担う。

基本的に地域内から適任者が選出されることがほとんどだが、地域外から着任したケースもあり、各市町ごとに配置の方法はさまざまだ。その地域のことを深く知り、調整力やコミュニケーション能力が高く、プロジェクトマネジメントに長けている。あらゆる調整ごとをこなしながら事業者や住民たちを巻き込み、より大きな市町の計画や条例を把握し政策を立案していく。官民の間でコーディネーターとして動き回る柔軟性と、幅広い視野が求められる。


▲三好市で行われた「サステナビリティ・コーディネーター合同研修会」の様子

2023年の『Top100 Stories』へのグッド・プラクティス・ストーリー提出前の時期に開催した三好市での合同研修会では、各市町が構想してきたストーリーに対する磨き込みを行った。    

実務を通じて理解を深めてきた8市町のコーディネーターを3グループに分け、それぞれのストーリーにあるサステナビリティの要素や解釈について、互いに評価し、意見交換を行った。フィードバックを通じて、気付きや発見を得て、ストーリーやテーマを転換する市町もあった。

お互いにサポートし合いながら共通の目標達成に向けて併走するという協議会の存在意義がもっとも発揮された場面だった。

 

魅力的な地域であり続けるための次のステップ

ここまでの道のりは簡単ではなかったが、協議会による横の連携と支え合いを活用して磨き込みができたことで、結果として全8市町がグリーン・デスティネーションズのラベル獲得という実績をあげることができた。しかし協議会としては、認証や表彰を取るというゴールだけを重視しているわけではない。取得までの過程において、地域のサステナビリティを国際基準に基づいて評価・分析することができ、強みや弱みが明らかになってくる。それをどうマネジメントすれば持続可能な観光地域づくりにできるかを考えながら取り組むことこそが、国際基準を活用することのメリットだと捉えている。


▲各市町の首長や代表者から感想が述べられた

成果を出し地域間連携も密になってきたところで、協議会の立ち上げ期間の事業費として活用してきた内閣府地方創生推進交付金は3年間をもって終了となる。今後の事業継続のための新体制の構想の発表が最後にあった。8市町の首長や代表者からも、当協議会の現実的な必要性と未来に向けた希望がそれぞれの言葉で語られ、報告会は締めくくられた。

今後の活動にあたって1つ大きな発展の形として、一般社団法人サステナビリティ・コーディネーター協会(JaSCA)が立ち上がった。協議会の事業により活動を始めた各市町のサステナビリティ・コーディネーターが中心となり、職務の標準化やネットワーク構築に取り組むほか、実務研修や国際認証・表彰の取得サポート、協議会の事業で実施した合同研修会など一部のプログラムの事業化などを行う。

また、同協会はグリーン・デスティネーションズと契約を結び、2023年11月から日本代表事務所「グリーン・デスティネーションズ・ジャパン」として、認証や表彰に関するサポート窓口となった。これまでグリーン・デスティネーションズの各種認証・表彰制度への手続きは、オランダ本部の事務局と英語で直接やりとりする必要があったが、今後は日本代表事務所を通して、日本語での情報提供や支援が可能となった。国内で認証・表彰地域を増やしていくためには強力な追い風となる。

8市町における国際基準を活用した持続可能な観光地域づくりへの取り組みは、3年間の活動を経て、これまで前例のなかった分野で具体例を作り上げた。この8市町が先導して実証し、磨き上げた知見を全国の市町村にも広げ、日本全体の持続可能な観光地域づくりを底上げしていくステージへと移る。ここまでの成果をどのような動きに繋げていくのか、今後の動きにも注目していきたい。

 

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