インバウンド特集レポート
訪日外国客のレンタカー利用が急速に伸びている。大都市圏やゴールデンルートに集中しがちな訪問先の地方への分散化には、二次交通としてのレンタカー利用の促進は有効だ。先行する沖縄県や北海道の受入事例や予約サイトの動向から利用者の特性を解析。今後の課題や見通しを探る。
目次:
羽田空港の外客レンタカー利用が増えている
利用件数全国一は沖縄県
利用の多国籍化が進む北海道
レンタカーのネット予約は富裕層が多い
「インバウンドの実験室」香港
羽田空港国際線ターミナルの到着フロアは、いつも多くの外国客でにぎわっている。レンタカーを予約した外国客が最初に向かうのは、ゲイトに向かって右側にあるカウンターだ。
羽田空港国際ターミナルのレンタカーカウンター
リムジンバスの発券所の隣に、ニッポンレンタカーやオリックスレンタカー、トヨタレンタカー、Hertz、日産レンタカー、Times Car RENTAL、Europcarの合同カウンターがある。ここで予約の照会をすませると、1階の「乗車レーン」まで歩き、レンタカー会社の用意した車に乗せられ、各社の営業所に向かう。
ニッポンレンタカーの外国客向け「ご利用ガイド」(英語版)
羽田空港の外客レンタカー利用が増えている
ニッポンレンタカー羽田営業所の佐藤大助サブマネージャーによると「外国客の利用が目立って増えてきたのは、2014年3月30日の国際線の増便の頃から。最近では香港や韓国を中心に毎月70組以上の利用があり、特に1~2月の旧正月のシーズンは香港客が多く、直近ではタイ客も増えている」という。
外国客がレンタカー利用の手続きをする際、パスポートと国際免許証の写しが必要だ。「手続きは10分程度で国内客と変わらない。ただし、外国客は羽田で乗って成田や関空などで乗り捨てるケースも多いので、返却の日時と場所を確認する。乗車前に事故の場合の連絡先や営業所の近くのガソリンスタンドのMAPなどをお渡しする」(佐藤サブマネージャー)。
ニッポンレンタカーサービス販売促進部国際営業課の白井祐子主任は「外客向けのサービスには、24時間対応のカウンター通訳サービス(英中韓タイ語)や多言語化カーナビ(英中韓)、ETCカードのレンタルがある。なかでも重要なのがカーナビの多言語化だ。この2年で急速に普及した。新車を発注する際も必須になっている」と説明する。
ガソリンの給油の間違いは要注意ポイント
同社の国籍別の利用状況は、1位香港、2位韓国、3位台湾、4位タイ、5位アメリカまたはオーストラリアの順。対前年度比で約2倍増の勢いだ。件数でいうと沖縄県と北海道が多いが、最近では首都圏をはじめ関西や中部地区からの利用も1.5倍に増えているという。
外国客の利用期間は平均約4日、単価も約4万円と国内客より長くて高い。平日利用が多いのも特徴だ。人気の車種は「家族やグループ旅行が多いため、ワゴン車だ。プリウスなどのハイブリッド車やアイサイトの使えるスバル車など、日本オリジナルの車種を選ぶ傾向がある」(白井主任)そうだ。
首都圏における国内客のレンタカー利用は圧倒的にビジネス利用だが、外国客はレジャー利用が中心。最近の若い世代の免許証取得比率の減少で国内市場が縮小していくなか、レンタカー各社は外国客の取り込みを強化している。
利用件数全国一は沖縄県
外国客のレンタカー利用件数が全国一なのが沖縄県だ。一般社団法人沖縄県レンタカー協会によると、過去2年の県内の外国客のレンタカー利用件数は以下のとおりだ。
2013年度(13年4月~14年3月)
3万6919件(台湾1万1138件、韓国1万1937件、香港1万1670件ほか)
2014年度(14年4月~15年3月)
8万5323件(台湾2万8096件、韓国2万7764件、香港2万3463件ほか)
この1年で2.3倍増の勢いで増えており、国籍別比率は、台湾(33%)、韓国(33%)、香港(27%)で全体の9割を占める。協会関係者によると、この急激な伸びは「沖縄県を訪れる外国客の急増にあり、円安や台湾、韓国、香港などの近隣諸国からのLCCをはじめとした新規就航や増便が相次いだことにある」という。
※沖縄県の統計によると、2014年度に沖縄を訪れた外国客は98万6000人と過去最高で、前年度比57.2%増と全国平均を超えている。国内客も含めた観光客総数が716万9900人(これも過去最高)で、外客比率は約14%と他県に比べて高い。
OTSレンタカーを運営する沖縄ツーリストの中村靖常務取締役は「外国客のレンタカー利用が顕著になったのは11年頃から。今年は前年度比で1.6倍の勢いだ。沖縄は台湾からのフライトが1時間、ソウルから約2時間、香港から2時間半という好位置にあることが大きい」という。
外国人運転用ステッカー(沖縄県)
同社の外国客に対するレンタカー利用促進の取り組みは早かった。06年台北事務所を設立し、将来の需要を見越してレンタカー予約の受付を開始。
その後、予約サイトの多言語化を進めると、台湾や香港から繁体字版サイト経由で予約が入るようになった。07年には臨空豊崎営業所に4か国語対応のドライブシュミレーションを設置し、09年には全国初の4か国語対応のカーナビを導入している。
もっとも、外国客のレンタカー利用の急増にともない、県内での事故や渋滞が指摘され始めている。琉球新報2015年6月13日は「2014年度の事故件数は2901件で、事故率は3・4%」(「外国人増で対策強化 県レンタカー協、事故防止へ注意喚起」)と報じている。沖縄タイムス2015年6月16日は、事故の背景に海外と日本の交通ルールの違いがある(「標識読めない、慣習違い…外国客のレンタカー高い事故率」)と指摘する。
中村取締役は「これだけ利用が増えると事故が増えることは予測される。ミラーを擦ったり、交差点で左折や右折のルールを間違えたりといったケースが多い。今後は防止策に力を入れていく必要がある。ただし、外国客がもし事故を起こしても、自動車保険は国内客同様、手厚い安心パックに入っているし、JAFのサポートも充実している」と話す。
前述の琉球新報の記事も「(県レンタカー)協会では本年度から、英語版に加え、繁体字と韓国語版のドライブマップを新たに作製、運転上の注意点や県内の事故多発交差点などを紹介し、注意喚起を図っている」と事故防止の取り組みを紹介している。また外国客の運転する車を一目で判断できるようにステッカーも導入された(沖縄タイムス2015年8月8日)。
全国に先駆けて外国客のレンタカー利用が進む沖縄県だけにさまざまな課題も出てくるが、その解決にあたる官民の取り組みは、これから全国で受入態勢を整備していくうえでのひな型になるだろう。
中村取締役は、今後レンタカー事業者が取り組むべき方向性についてこう語る。
「これからはただ車を貸すだけでなく、お客様に地元で喜んでお金を落としてもらうしくみをつくらなければならない。当社ではカウンターでWifiルーターの貸出や県内の主要観光施設のチケットの販売を行っている。
また『沖縄もっとトリップ 北部東海岸エリア編』(英中韓)というドライブマップを作成し、国道58号線の走る西海岸だけでなく、東海岸にも足を伸ばしてもらうよう働きかけている。最近では、これまで少なかった外国客が東海岸の泡瀬漁港(沖縄市)の海鮮食堂にさしみを食べに行く話などをよく聞くようになった」。
『沖縄もっとトリップ 北部東海岸エリア編』
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