インバウンド特集レポート

小都市旅行とグルメで進化する2025年の韓国市場、日本人と変わらないスタイルへ

2024.12.11

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訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に訪問先の一極集中や、受け入れキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。

 

インバウンド市場動向、2024年振り返りと2025年予測

 

インターパークトリプル 企画・マーケティング担当
キム・ジュヒョン

 

 

FIT旅行者ニーズから見る、日本の小都市旅行トレンドと松山の躍進

筆者は韓国人の海外個人旅行(FIT)をサポートする「TRIPLE」という旅行アプリの企画を担当している。世界200以上の都市における観光地、グルメ情報を提供しているTRIPLEは、サービス開始から8年間、韓国内で1000万以上のダウンロードを達成した。今回はこのTRIPLEのデータをベースに2025年のトレンドを予想する。

日本は依然として韓国人に人気の旅行先である。2024年は1月〜10月まで日本を訪問した韓国人は約720万人で、2023年同期と比べ30%も増加した。

TRIPLEの利用者が最も多く旅した海外都市トップ3にも大阪、東京、福岡が並ぶ(「東京」には近郊の箱根、横浜、鎌倉が含まれ、「大阪」には京都、神戸、奈良、「福岡」には由布院、別府、北九州が含まれる)。ただ、2024年はこれまで見られなかった特徴的なデータが目立ったため、その傾向と事例を何点か取り上げてみたい。

2024年はすでに何度も日本を訪問したリピーターを中心に、小都市旅行へのニーズが目立つ1年だった。

「TRIPLE」でも、ユーザーの要望により、松山、熊本、高松の旅行コンテンツをオープンした。その中でも松山の人気は顕著だった。TRIPLEがサービスする世界200以上の都市の中で、一時的ではあるが人気都市の12位まで上昇したこともある。

なぜ松山がこれほど人気だったかというと、「韓国人に嬉しいサービス」(専用クーポンブックや無料空港バスなど)が充実しており、「韓国人観光客に優しい都市」というイメージを作り上げることができたからである。小都市だからこそできる観光客フレンドリーなサービスを考案し、それを素早く導入した結果、SNSでも松山は旅行しやすい、韓国人必訪都市として口コミが広がった。つい最近まで名前すら知られていなかった松山がここまで注目されたのは、他の地域がベンチマークすべき事例ではないかと思う。

 

直行便で行ける「宮古島」が注目を集める

「直行便」というキーワードはとても強力だ。2024年に注目された新規直行便の就航地は宮古島だった。2024年5月にジンエアーが宮古島に新規就航して以来、宮古島関連の検索トレンドは、ネイバーとグーグルでも急上昇。これにより、沖縄への関心も高まり、2024年7月にはTRIPLEで沖縄への旅行を計画した月間アクティブユーザー数が前年同期に比べ40%以上上昇し、ピークを迎えた。

同時に、旅行インフルエンサーのSNS投稿を通しても、宮古島の美しい自然と青い海の景色が多く紹介された。新規直行便の就航とSNS上の口コミが上昇効果を見せた事例であろう。

 

ローカルのように旅するスタイルが人気

前述のように、大阪、東京、福岡は相変わらず韓国人に人気の旅行地トップ3である。ただ、以前と比べると、旅行のパターンが変化した。すでに有名な観光地ではなく、「路地」「隠れ家」「地元の人が通う名店」などのキーワードが浮上したのである。代表的な観光地を巡る旅ではなく、現地人のように隠れ家レストランで食事したり、路地裏のこじんまりとした雑貨店で買い物をするというニーズが目立つ。

東京でも新宿、渋谷、六本木などの定番の場所ではなく、大塚駅から都電荒川線に乗る、清澄白河のカフェを巡る、銀座のウィスキー専門のバーに行く、または100年以上の歴史を持つ洋食屋さんでランチするなどと多様化している。

韓国と日本のトレンドがSNSを通してリアルタイムで発信されている今、日本のZ世代に人気のスポットやお店、ブランドは、時差なく韓国でも流行っていて、その逆もまた同じである。

 

韓国人旅行者の高まるグルメ志向

また、韓国内でグルメへの関心が高まっているため、日本旅行でも現地で楽しめるグルメへの関心がいっそう高まるだろう。以前は「寿司」「牛カツ」「ラーメン」「とんかつ」程度だったとすれば、今はファインダイニング、ミシュラン名店、現地の隠れたレストランなど、さらに専門化されるものと見られる。例えば日本式焼肉(日本人は韓国焼肉を食べに渡韓するが)、高級寿司、炉端焼きなどにシフトする傾向にある。2024年Netflixで公開された料理サバイバル番組「白と黒のスプーン〜料理階級戦争〜」が大人気となったのも、韓国人のグルメへの関心がその理由だろう。

ところで、ここ2〜3年間で、もはや韓国語になってしまった日本の言葉がある。「おまかせ」だ。お寿司のコース料理が韓国で大人気になり、「おまかせ」という言葉が一般名詞化したのである。一人1万〜3万円ほどのプチ贅沢なコースが人気となり、その後、焼肉のコースを「韓牛かせ」、ワイン飲み放題を「ワインかせ」と呼ぶなど、様々な「〇〇かせ」が誕生した。

筆者が東京に住んでいたころ、近所のお惣菜屋さんで、ごま油で和えたものはなんでも「ナムル」で「生ハムのナムル」など訳のわからないメニュー名に笑ったことがあった。卵黄をのせたものは大体「ユッケ」で、「サラダユッケ」を見た時にも驚いた覚えがある。「エビギョプサル」や「鴨ギョプサル」など「〇〇ギョプサル」に至ってはもう違和感すら感じなくなったが、それと同様に韓国でも「おまかせ」が現地化しているのである。

2025年もドル高により相対的に円が安く、日本旅行に対するニーズは持続するものと予想される。また、リピーターを中心に小都市中心の旅行が増え続けるだろう。第二、第三の松山や宮古島が出てくるのを楽しみにしたい。日本にはまだ海外に知られていない魅力的な旅行先がたくさんあるので、自治体や観光事業者にはそれを知らせる努力をしてほしいと思う。

 

著者プロフィール
ソウル生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科、博士課程満期退学。留学時代に日本全国を旅する。帰国後、韓国人のアウトバウンド旅行をサポートするアプリ「TRIPLE」(航空、宿泊、アクティビティの予約に加え、旅行のしおり作成や道案内も提供)のグローバル企画を経て、海外旅行客の韓国インバウンド旅行アプリ「TRIPLE Korea」の企画・マーケティングを担当。

 

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