インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
doq Pty Ltd アカウントプランニング スーパーバイザー 須多 康太
消費単価と滞在日数が長い豪州、日本にとって重要な市場に
2024年を振り返り、豪州市場は日本の観光業界にとってさらに重要な存在になったと言えるのではないだろうか。訪日客数は大きく伸び、2024年の訪日客数は11月末時点で総計80万7800人に達し、2019年比で47.1%増加している(JNTO推計値)。2025年には訪日客数が100万人を超える可能性も指摘されている。
自治体側も豪州市場の重要性を認識しており、2024年5月にじゃらんリサーチセンターが発表した調査では、今後注力すべきターゲット市場として「豪州」が「米国」を抜いて第2位に選ばれた。これは、消費単価の高さと滞在日数の長さが、地方への誘客に適した市場と評価されたためだろう。また、豪州の世帯所得が年々増加傾向にあり、高い消費額が期待できること、さらに実績として滞在日数が長く地方周遊が多いことが背景にある。
2024年は筆者の現地の友人たちも多くが日本を訪れており、熊野古道や伊勢志摩など地方観光を楽しむ様子が見受けられた。観光立国推進基本計画(2023年度〜2025年度)の目標の1つとして、地方での宿泊数や観光消費額の増加を掲げていることを考えると、豪州市場は日本においてさらに重要な存在になっていくことが期待される。
万全な受け入れ体制よりも、オープンな心で迎え入れる
ニセコや白馬のようにオーストラリア人観光客が多い地域では、受け入れ体制が非常に整備されており、英語メニューを備えたレストランも多く、滞在に不便を感じないほどだ。もちろん言語対応が整っていることに越したことはないが、私は過剰に対応する必要はないと考えている。
その理由は、オーストラリア人の大らかな人柄にある。彼らは物事を前向きに受け入れる傾向があり、サービス水準に対しても寛容だ。豪州での生活の中でも、例えばカフェやレストランで注文と違うものが運ばれてきても、「No worries!」と軽く受け流し、むしろ楽しむ様子をよく目にする。
筆者自身も現地で買い物中に英語がうまく伝わらないことがあるが、彼らは丁寧に話を聞いてくれるどころか、覚えたての日本語で話しかけてくれることも少なくない。彼らが日本文化を愛し、敬意を持って接してくれているのを強く感じる。
たとえ言語対応が万全でなくても、オープンな心で迎え入れることが何よりも彼らを喜ばせる。豪州市場を取り込むうえで大切なのは、形式的な準備以上に、オープンに迎え入れる姿勢であると言えるだろう。
著者プロフィール 兵庫県出身、シドニー在住。リクルートを経て、楽天グループ旧Voyaginにてインバウンドソリューション事業の統括を担当。博報堂スタートアップスタジオにて、大手企業の新規事業開発のコンサルティングに従事した後、 doqに参画。行政案件を中心に、プロジェクトマネジメントを担当。 業務実績に観光庁、JNTO、環境省、東京都、岐阜県、青森県、せとうちDMO、TCVB等。 |
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