インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
Project M, Inc. 代表取締役 森井 恵子
宿泊費高騰、人員不足など課題が見られるも、ますます高まる日本人気
米国からの訪日客数は2024年1~11月累積で248万6100人と、前年同期比で33.5%増、そして年間累計過去最高であった2023年の204万5854人を上回り、記録を更新している。
併せて、米国の一般消費者、メディア、旅行業界の間でも訪日旅行は2024年も大きな注目を集めた。米国の大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が2024年10月に発表した読者投票ランキング「リーダーズ・チョイス・アワード」の「世界で最も魅力的な国」において日本が第1位に、米国の大手カリナリー雑誌の『フード&ワイン』が2024年4年に発表した「Global Tastemakers」では、東京が「Top International Cities for Food and Drinks」に選ばれた。
米国の富裕層向け大手ツアーオペレーターを含む旅行会社各社からも、世界各国の中で最も問い合わせが多くビジネスにつながっている国の一つが日本である、というコメントも出ており、東京、京都を中心とした日本国内宿泊費用の高止まりや日本国内DMC、通訳を含むサービス人員不足が引き続き課題となっている中でも米国からの訪日旅行需要は引き続き高まっている。
2025年の米国市場で押さえておきたい6つのトレンド
この流れは2025年も続くと考えられるが、今後の重要課題としては、引き続き、「日本における旅行消費額の増加」と「地方誘客」という2点が挙げられる。
「消費額増」については、高付加価値旅行層の中でもトップ数パーセントを占める超富裕層対する積極的な需要喚起や情報提供、旅行コンテンツの高付加価値化や日本滞在期間の長期化、「地方誘客」については、地方におけるコンテンツ新規造成やストーリー化、磨き上げが必要となる。これらを具体化する上で、米国における新しい旅行トレンドもヒントとなるだろう。ここでいくつか紹介する。
1)Slow Tourism(訪問地でゆっくりと時間をかけて現地の文化や食、自然を体験)
2)Quiet Luxury(新しいラグジュアリーのセグメント)
3)Learncation(Learn x Vacation。明確なテーマを持った良質の「学びの旅」)
4)ウェルネス(Health is the new wealth。健康であることが、新しい富裕の要素)
5)クルーズ需要
6)中南米市場
プライベートジェット等を活用する超富裕層は旅行にかける支出が突出して高く、旅行地での消費額増加・経済効果が見込まれるが、この層がゴールデンルートに加え、地方での現地体験にしっかりと時間をかけることで、一層の旅行消費増、地方誘客が見込める。
新しいラグジュアリーセグメントであるQuiet Luxury層とは、例えば、金銭的に十分余裕はあるが、あえて大手チェーンのハイエンドホテルには泊まらず、パーソナル・カスタム対応可能、ローカルコミュニティーとのつながり、こだわりのデザインやコンセプトを持つブティックホテルに宿泊する人たちのことを指す。日本の地方のハイエンドホテルや旅館などには良いターゲットになる可能性を秘めている。上記2つの流れを踏襲する形で、学びの旅やウェルネスをテーマにした体験・商品造成も地方誘客や旅行の長期化が期待できる。
また、2024年同様、クルーズについては高級豪華クルーズの人気が高い。あるクルーズ運航会社によると、2026年の日本周遊商品の需要が高すぎるため、2027年の商品も予約を開始したという声も聞かれている。クルーズは寄港地での旅行消費・地方誘客の観点から重要なセグメントと考えられる。
さらに、メキシコや中南米における訪日需要は引き続き高まっている。2024年1~11月のメキシコからの訪日客数は13万9800人、2023年同時期から約67%増と急増している。米国市場に比べまだ非常に小さい規模だが、中南米には米国に劣らないレベルの富裕層も多く、多世代家族旅行などが多いため、ポテンシャルの高い市場として中長期的な販売戦略に盛り込んでおきたい市場だ。
「スピード」「差別化」「顧客視点」が重要に
米国・中南米からのインバウンドビジネスを伸ばしていくためには、日本の旅行会社・DMCのスピード感ある対応やコミュニケーション、分かりやすく使いやすい英語ウェブサイトの構築が今まで以上に欠かせない重要なポイントとなる。
加えて、場所や施設を売るのではなく、「そこで何が体験できるのか」といったソフト面の訴求や、他の同等の施設や地域との明確な差別化が重要で、自社サービスや商品・観光資源が米国人ターゲットの目線からみて魅力的なのかについて、客観的に検証・評価・改善することも引き続き重要になる。
著者プロフィール 米国ロサンゼルスを拠点とする広告会社Project M, Inc.代表取締役。日系ゴルフ会社米国法人駐在員を経て米国ロサンゼルスで広告会社を設立。最新の北米市場情報や、広告・エンターテインメント媒体各社との密接な関係を活かし、米国富裕層市場を中心に、包括的で発展性のあるメディア・マーケティング戦略とクリエイティブソリューションを提案。日本政府観光局、東京観光財団等の米国における各種訪日観光需要喚起広告事業に関し通年15年以上の実績を持つ。その他中央省庁の有識者評価事業、富裕層向け各種メディアイベント、日本食文化魅力発信事業等も手掛ける。 |
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