インバウンド特集レポート
日本にしかない独自の文化だから面白い
これまで見てきた外国客のサムライ人気。でも、一般の日本人の感覚からすると、少しベタすぎて、本当に面白いのか?そんな疑問がないではない。外国客相手には、もっとクールで、エキサイティングで、アメージングなことではなくて、いいのだろうか?
だが、そういうことではないようだ。
「サムライや城は日本にしかない独自の文化だから面白い」。
クリス・グレンオフィシャルサイト
http://www.chris-glenn.com/
そう明快に答えてくれたのは、オーストラリアのアデレード出身のクリス・グレンさんだ。彼は名古屋のFM局のDJだが、日本のサムライ文化や城、甲冑が好きで、インバウンド観光アドバイザーとしてさまざまな地域の観光PRに関わっている。
1968年生まれのクリス・グレンさんは、85年に交換留学生として来日。帰国後、オーストラリアでラジオDJやコピーライターとして活躍し、92年再来日した。その翌年、名古屋のFM局ZIP-FMでミュージックナビゲーターとしてデビューし、現在、日曜朝9時〜13時の「RADIO ORBIT」を担当している。
昨年刊行した自著『豪州人歴史愛好家、名城を行く』(宝島社)によると、彼の趣味は、戦国時代の歴史や甲冑武具の研究、城めぐりなど。これまで訪ねた城の数は、日本全国400カ所にも及ぶという。また甲冑師にも弟子入りしている。外国人でありながら、筋金入りのサムライ文化の担い手といえる彼は、テレビ朝日『ワイドスクランブル』や毎日放送『知っとこ』などのテレビ番組にも出演。日本の文化や歴史の魅力を国内外に伝える活動を勢力的に行っている。
甲冑を身につけ、侍に扮して地元の観光PRを行うクリス・グレンさん
クリス・グレンさんの所属事務所のパスト・プレゼント・フューチャーの加藤由佳さんは、彼がサムライ好きになった理由をこう説明する。
「彼が日本文化に興味を持ったのは、日本びいきだった祖父の影響が大きい。祖父から聞く日本の話や家にあった民芸品や伝統工芸品を見て育ち、16歳で日本留学。サムライの世界に引き込まれたのは、担任の先生に渡された吉川英治の『宮本武蔵』を読んだのがきっかけだ。彼にとって、城はサムライたちが生きた場所、戦った場所であること、また軍事施設でありながら美しさもある。こうした城の建築美、建築技術、軍事施設としての機能性など、さまざまな点に魅力を感じたようだ」。
外国人の視点とはどういうことか
訪日旅行市場が盛り上がるなか、クリス・グレンさんは自身が案内役をつとめる歴史ツアーを企画するほか、自治体や観光施設に対してアドバイスをしたり、講演を行っている。
彼が最も大切なポイントとして挙げるのが「外国人の視点を理解する」ことだ。
その点について、彼にメールで質問した一問一答を紹介する。
―クリスさんは日本の観光PRをするうえで「外国人の視点」が大切というが、外国人と日本人の視点でいちばん違うところはどこか。
「以下のふたつのポイントがある。
・日本に関する知識
当然のことだが、日本人と外国人とでは、日本に関する知識は雲泥の差がある。そのため、日本人の知識ベースで書かれた、観光施設などの紹介文を翻訳しただけでは、通じないことも多々ある。多くの日本人には、その認識が完全に抜け落ちている。
・曖昧さを嫌う
観光パンフレットなどを見ていると、日本人は曖昧な表現や美しい言葉を並べることで、なんとなく良さげに体裁を整えているように感じる。だが、それでは外国人には何が言いたいのかわからないことが多い。外国人相手の場合は、なるべくストレートな表現で伝える必要がある」
今年4月上旬、彼が制作した名古屋城本丸御殿英語版サイトが立ち上がった。ここでは、外国人の知識や好みを考えて、彼が英文テキストの執筆を担当している。
名古屋城本丸御殿
http://www.nagoya-info.jp/en/hommaru/
―では、「外国人の視点」を理解するために、日本人はどうすればいいか。
「そのためには、以下のことをトライしてほしい。
・逆を考える
自分が海外に行ったとき、困ること、見たいモノ・コト、事前に知りたい情報、欲しいもの、体験したいこと、食べたいものを考えてみれば、日本に来る外国人が何を欲しがるかが理解できると思う。
・外国人に聞いてみる
外国人向けのサイトやパンフレットなどの制作に、外国人がひとりも携わっていない、あるいは外国人にリサーチもしないでつくられていることが多いのには、本当に驚く。もっと外国人と話して、リアルな声を聞いて、ニーズをつかむという作業に努めるべきだ」
クリス・グレンさんは、今日の日本の外国人向け情報発信の現状は、相当深刻な事態にあると指摘する。これは多言語化以前の問題で、そもそも発信者たちは、外国人の日本に対する素朴な疑問にどこまで向き合ってきたかが問われているのだ。
その意味でも、外国客の心をつかんだサムライ人気は、日本人が自国の文化や歴史をあらためて見直す契機になるだろう。訪日旅行市場に関わる多くの人が、日本の文化を外国人にもわかりやすく説明するスキルを身につけていくことは、今後の日本のインバウンドさらに発展させていくうえで欠かせないステップになると思う。
Text:中村正人
最新のインバウンド特集レポート
-
香港の日常に溶け込む「日本」、香港人の消費行動から見えるその魅力とは? (2024.09.30)
-
地方を旅する香港人旅行者の最新トレンド、柔軟な旅スタイルで新たな魅力を発掘 (2024.09.06)
-
酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは? (2024.08.30)
-
専門家が語る、深化する中国人旅行者のニッチ旅のトレンド。地方誘致の秘訣とは? (2024.08.29)
-
最高の旅を演出する「スーパーガイド」表彰で、通訳ガイドを誇れる職業に (2024.06.24)
-
お好み焼き、カレー、ラーメン…一見すると普通のツアーに参加者が大満足。10日で150万円の特別な訪日旅行の中身 (2024.05.31)
-
大阪万博まで1年、深刻化するバス・タクシー人手不足の現状と解決策、ライドシェアの効果は? (2024.05.16)
-
失敗事例から学ぶ観光DXの本質、成果を出すため2つのポイント (2024.04.24)
-
全8市町がグリーン・デスティネーションズのラベル獲得。日本「持続可能な観光」地域協議会が歩んだ3年間の取り組みと成果 (2024.03.29)
-
歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業、住民主体の地域づくりの足掛かりに (2024.03.22)
-
「守るべきは屋根の下のくらし」京都 美山かやぶきの里が模索する、持続可能な地域の在り方とは (2024.03.14)
-
【対談】被災した和倉温泉の旅館「加賀屋」が、400人の宿泊客を避難させるために取った行動とは (2024.03.14)