インバウンド特集レポート
設置負担別、国内のWi-Fi設置の取り組み事情
Bの「訪日外国人の動線を意識した、さらなる整備促進」について言及しよう。
30メートル程度しか届かないWi-Fiのアンテナを日本国中張り巡らすのは現実的ではない。やはり人気の観光スポットなど、訪日外国人が多く集まる場所が効果的だ。
しかし日本の場合、Wi-Fiの設置および運用の負担を誰がするのかが、定まっていない。香港や台湾のように公共的価値の高い場所は、政府が率先して負担するケースが多い。欧米等も同じ傾向だ。
一方、商業施設はそれぞれが各自負担だ。これはアジアも欧米も同じ考え方。
アジアのカフェや商業施設では、入り口に大きく「Free Wi-Fi」と書かれてあり、旅人を立ち寄らせようと頑張っている。これはお店が設置や運営の負担をして、利益につなげる投資という位置づけ。
日本では、個店というよりもエリアという広い考え方で普及が進んでいる。
①海外と同じように施設側が負担するケース
Wi-Fi事業者がエリアを巻き込んだ導入を進めているなか、NTT東日本が着々と成果を上げている。彼らが導入を進める「光ステーション」は、光回線を利用しているため、通信速度が速いのが特徴だ。東日本各地に営業所があり、その地元の自治体に提案する戦略を取る。
2年前に山梨からスタートして、東日本エリアで協業が進み、現在では4万7000APとなっている。
自治体に費用負担とならず、外国人を迎えたい施設側に費用負担をお願いするビジネスモデルだ。
無料のWi-Fiにアクセスするには、専用のIDとパスワードが必要で、観光案内所、観光施設で明記されたカードを受け取る。その際にパスポートの確認が必要だ。訪日外国人向けに2週間無料サービスとなる。
山梨県の場合は、地元と連携して営業活動をしていたため、高い普及率となった。山梨モデルといわれるような先進事例となった。
山梨県はウェブサイトによる観光情報の発信を精力的に行う一方、発信した情報を外国人観光客などにも見てもらうためのインフラ整備として、2013年末までに県内の無料Wi-Fiスポットを1,000ヵ所とする「やまなしFree Wi-Fiプロジェクト」を2012年1月11日に始動。2年間で達成の予定が、2013年の6月に半年も前倒しの達成となった。既に来年末までに2,000ヵ所の目標で動いている。
産官民協働による「やまなしFree Wi-Fiプロジェクト」の立ち上げにあたり、NTT東日本山梨支店が主要メンバーとして、毎週のように会議に参加し、また地元の観光協会や各種組合加盟の店舗オーナーに対しても説明会等を繰り返し行い、地元とともに盛り上げてきた。このような地道な活動が実を結んだのだろう。
②設置を補助金活用して運用を自己負担
一方、設置費用は補助金を活用して、運用面を施設側が負担するやり方がある。浅草の仲見世商店街の事例だ。
もともと外国人観光客から人気のエリアだが、仲見世商店街は8月8日、面倒な登録手続きや利用者認証が不要で無料の公衆無線LANのWi-Fiのサービス提供をはじめた。設置費用は全国商店街振興組合連合会を通じた経済産業省の補助金約400万円を活用。同振興組合が全長約250メートルの仲見世商店街に10基のWi-Fi中継機器を設置した。運用費は、今後は商店街費から賄う予定だ。
浅草仲見世商店街振興組合は、「老舗の観光地で、曜日を限定せず常設のWi-Fiを導入したのは全国で初めて」としている。
浅草のような既に多くの外国人が来ている場所なら、設置しようというマインドは高い。しかし、まだ外国人が多くないエリアの場合、施設としては設置に向けて投資しづらい環境だ。
③日本人に来店促進の機能としてWi-Fi活用
そこで、外国人に限定せずに、日本人にも楽しんでもらえるサービスを展開するのが、セブンスポットという名前のFree Wi-Fiだ。イトーヨーカ堂やセブンイレブンで展開している。
『AKB48』と組んで、お店のWi-FiのAPに来るとオリジナル画像がゲットできる仕組みにして、来店者増に役立った。系列のコンビニや商業施設で活用されている。そこに行かないと受けられないサービスとして新しい試みだ。
2年前の2,000APが、3,100APにまで急速に伸びている。
④自治体が負担して既存のAPを活用する
次に自治体が負担するケースとして1つ紹介しよう。
まず神戸市が今年度の全事業予算2,000万円で組み立てたWi-Fiプロジェクト。観光目的の訪日外国人向け公衆無線LANサービス「KOBE Free Wi-Fi」が7月31日よりスタートした。観光案内所でログイン用のカードが配られ、無料で利用できる。パスポートなど外国人であることを確認できる書類が必要となる。
外国人旅行者は、神戸市内の主要な観光スポットや移動時に利用できるのが、いっきに3,000ヵ所のAPになった。さらにauのWi-FiのAPも利用できる。
これは『ワイヤ・アンド・ワイヤレス』がもともと持っているAPを活用する仕組みだ。
カードにはIDやパスワードが記されており、「Wi2」「Wi2premium」「wifi_square」というSSIDのアクセスポイントに接続してから、ブラウザでログインすると、ひとつのIDで、1週間利用できる。
「KOBE Free Wi-Fi」の利用動向をもとに、今後の観光振興策に向けたレポートの発行も予定されている。取得したデータは、個人は特定できない形で処理され、レポートに活かされると神戸市の担当者。
サービスは今年度末までで終了する。
⑤番外編として、利用者の負担によるサービス
ちょうど、数日前にWi-Fiに関連する新しいサービスの情報が飛び込んできた。
NTTドコモが、訪日外国人に向けて公衆無線LANサービスを提供する「docomo Wi-Fi for visitor」のトライアルを開始したというリリースだ。まずは試験提供として、8月20日~2015年3月31日の期間限定で提供される。
「docomo Wi-Fi for visitor」は訪日外国人に向けたサービスで、ドコモが日本国内の約15万ヵ所で提供している「docomo Wi-Fi」を、1週間、3週間といった期間限定プランで提供する。トライアルでの料金プランは、1週間プランが900円(税抜、以下同)、3週間プランが1300円となっている。
専用Webサイトは日本語のほか英語、中国語(繁体、簡体)、韓国語での表示に対応しており、訪日前に申し込める。決済方法はクレジットカードで、申込時に支払うシステムだ。
以上のようにWi-Fiの設置及び運用に関して、誰が負担するのかスタンスが異なるが、各エリアではさまざまな取り組みが既にはじまっている。
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