インバウンドコラム
2017年、736万人の中国人が日本にやって来ました。訪日外国人客総数が2869万人ですからその約4分の1を占める中国人旅行者ですが、実は中国旅行市場全体でみたら、ほんの一部にしか過ぎません。2017年に海外旅行へと出掛けた中国人海外旅行者数(延べ人数)は1億2900万人! 中国では海外旅行がこれまでにない盛り上がりをみせているのです。
この巨大な中国マーケットを理解し、より多くの訪日客を迎えていくために、やまとごころ中国事業部のWang Xuanが、中国旅行市場の全体動向、業界の旬の情報や、マーケティング事例などを紹介していきます。
第1回目となるコラム『中国ビジネス新事象』では、国慶節の期間に話題になったキャンペーンについてお届けします。
「幸運錦鯉」になれ!
中国で話題の国慶節キャンペーン
「国慶節」といえば、中国では春節(旧正月)に次ぐ大型連休として認知されています。最近は、インバウンドに熱心な日本企業による、「国慶節キャンペーン」の取り組みも徐々に定着。日本でも「セールスイベント」の一つとなってきたように感じています。
国慶節の時期である10月初旬に銀座を歩き回った際には、多くの百貨店、ショッピングモールやブランド専門ショップなどに赤い色のPOPが溢れており、特に今年は盛り上がっている印象を受けました。実は、日本での国慶節のイベントが盛り上がりをみせた裏には、中国の決済大手Wechatpay(ウィチャット・ペイ)とAlipay(アリペイ)の働きかけがありました。
アント・フィナンシャルサービスグループが提供するオンラインおよびモバイル決済サービスのAlipay(アリペイ)の発表によると、今年の国慶節の時期に日本で使われたチャイナ・マネーによる取引件数は、世界3位でした。
<関連記事>:国慶節期間のアリペイ取引件数、日本は世界3位! 銀座、道頓堀、関空などで取引増加
上記の関連記事にあるようにAlipayの日本での取引が盛況だったとはいえ、国慶節の時期に中国本土で動いたチャイナ・マネーに比べたら極わずか。中国本土では2億IMP(広告がユーザーに表示されたインプレッション回数)を達成した「幸運錦鯉」という販促イベントが、マーケティング業界最高峰の代表作になるといわれるほど、大きな話題を呼び、取引件数も桁外れに多くなりました。
中国市場の今を伝える当コラムの第1回目として、Alipayのキャンペーンがなぜ中国でそこまで話題になったのか。その手法などと共にご紹介していきます。
「幸運錦鯉」とは
「錦鯉」は中国語で、「幸運」「ラッキー」「運勢アップ」の象徴。その言葉の意味にかけ、「幸運錦鯉になれ!」=「一番幸運な人になろう」が、このキャンペーンの趣旨です。
また、このキャンペーンのキャッチフレーズも非常にシンプルで、「10月7日までにWeiboのAlipayアカウントにアップされたキャンペーンについての投稿をWeiboでシェアすると、抽選チャンスを差し上げます。抽選で、世界中から集めた豪華賞品を一人の方に全部あげちゃいます!」というもの。要は、国慶節期間限定の抽選イベントなのです。
抽選イベントは中国でもよくありますが、Alipayの「幸運錦鯉になれ!」キャンペーンの1本目の投稿が9月29日に発表されると、24時間以内で200万人以上にシェアされました。
▲「幸運錦鯉になれ!」キャンペーンのスタートを知らせるAlipayによるWeiboの第一回目の投稿は、またたく間にシェアされていった。右下の赤囲み内の数字は左から、シェアした人の人数、コメントをした人の数、いいね!をした人の数
なぜ200万人もシェアするのか
なぜ、これほど短時間でこれだけシェアされたのか。それは、世界15の国と地域の200社以上のアリペイパートナーから集められた、驚愕するほどの豪華賞品そのものに尽きます。(※もちろん、きちんと設計されたマーケティングもありますが、具体的な手法は後半でご紹介します)
商品の顔ぶれを見ると、iPhone XS携帯や2人分のアメリカへの往復航空券、高級ホテル3泊、アメリカでの2カ月間分のパイロット操縦訓練プライベートレッスンなど。1年間ぐらい、お金を使わずに世界一周旅行をしながら暮らせるのではないかというほどの、賞品が揃っていたのです。
▲上記は、幸運錦鯉キャンペーンの賞品リストの一部
日本からの協賛もいくつもあり、大丸百貨店による東京への無料往復航空券、ホテルマイステイズの無料宿泊券、サマンサタバサでブランドバッグ1つをプレゼント、資生堂やミキハウス、フォレストドラッグも賞品を提供していました。
キャンペーンの結果
わずか1週間の国慶節キャンペーンでしたが、その結果、310万人がWeiboで情報をシェアし「幸運錦鯉」抽選イベントに参加、“2億インプレッション”という記録を達成したのです。抽選結果は10月7日に発表され、北京在住の26歳の女性が当選。彼女は「幸運錦鯉」として一躍脚光を浴び、一晩で70万人のフォロワーを獲得したそうです。
理性的に考えると、当たるのは「300万人分の1」というとてつもなく低い当選倍率なのに、なぜ、このキャンペーンがここまで成功できたのか。また、ここでまで成功させるのに、どのぐらいの予算をかけたのか。
これについては後編でご紹介します。
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