インバウンドコラム
コロナウイルスの感染拡大は世界的に広がり、レジャー・娯楽産業を中心に、観光業も自粛や休業を余儀なくされています。今回取り上げる大分県湯平(ゆのひら)温泉で旅館山城屋を営む二宮謙児氏もそのひとり、昨今の情勢を熟慮したうえで、4月末までの休業に踏み切りました。ただ休業に踏み切ったことを前向きにとらえ、今だからこそできることへ、新しい挑戦をはじめています。ここでは二宮氏に、ここ数カ月で始めた新たな取り組み、またこれから始める新たな挑戦についてお伺いしました。
—現在の事業概要、取り組み全般について教えてください。
大分市市内から1時間ほど西に行ったところ、湯布院からも20分ほどの場所にある湯平(ゆのひら)温泉で全室7部屋の「山城屋」という旅館をやっています。外国人観光客の割合は約8割で、韓国が一番多く半分程度を占め、次に多いのが香港です。その後、台湾、中国、シンガポール、タイなどの東アジア、東南アジアが続き、欧米の方も時々いらっしゃいます。
—新型コロナウイルスの拡大を受けての現在の観光客や訪日客の状況について教えてください。
外国人のお客様の減少は、1月下旬頃から始まりました。加えて2月以降は日本人のお客様も減少し、2月は対前年同月比50%、3月は対前年同月比20%程度まで落ち込みました。4月の外国人観光客はゼロです。
なお、昨今の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の懸念を熟慮し、4月3日から4月末までは一時休業しています。
—コロナによるお客様減少の影響を受けて、直近でできるとして始めた取り組み、これから行おうとしている取り組みを教えてください。
日帰り利用向けの立ち寄り湯+食事プランの作成
お客様の減少を受けて、2月下旬からは昼間の立ち寄り湯とランチ・カフェを始めました。
これまで、国内は福岡からのお客様が多かったのですが、大分市や別府、地元など近隣の方から「日帰りで利用できれば…」という声はありました。ただ、宿泊するお客様の対応で忙しく、手が回っていませんでした。
宿泊客の減少を受けて、すぐに立ち寄り湯と食事提供を始めたところ、近場の方が来てくださるようになりました。
さらに、毎週日曜日に来て温泉を楽しむ方など、リピートしてくださる方もいて、今回の取り組みをきっかけに、今までになかった需要の掘り起こしに繋がったと感じています。
補助金を活用し自社HPのリニューアル、100言語以上に対応
回復時期の反転攻勢に備えて、自社ホームページのリニューアルを行いました。
最大の特徴は100言語以上対応の自動翻訳機能です。その他にも出来るだけ動画を多く掲載し「どこの国、地域の方にも分かりやすく」を目指しました。
具体的には、交通アクセスや駐車場から旅館までの案内、館内での過ごし方、大分県内の主な観光地のPR動画の紹介などです。
ホームページのリニューアルは、大分県の「宿泊施設受入環境整備支援事業費補助金」を活用しました。低予算でのリニューアルでしたが、これからの旅館にとって最低限必要な「スタンダードモデル」を目指したつもりです。
旅館を疑似体験できる動画コンテンツの配信
また、「お客様目線」で旅館を疑似体験していただく動画も作成しました。
私自身がカメラを持って「お客様」となり、家内が館内を案内する様子を撮った動画です。露天風呂もお客様目線を徹底し、お湯につかって撮影しました。
実はこれは、ランチで利用したお客様との会話の中で出てきたアイディアです。いまは自粛で旅行が出来ない方に、動画を通じて山城屋を「疑似体験」してもらいたいという思いと、いつかは本物を体験しに来てもらいたい、という期待も含めての取り組みです。
—観光客の需要が回復したときに向けて今検討や準備していることがあれば教えてください。
共同アカウント開設、ブランド力向上に地域で取り組む
中国版TwitterといわれるWeiboでの積極的な情報発信を始めました。
私が会長を務めるインバウンド推進協議会OITAを通じて、大分県内の他施設と共に共同アカウントを開設しました。翻訳や発信などの運営は、大分市内の旅行会社で、協議会の運営にも協力いただいている中和国際(株)に行っていただきます。
共同アカウントを開設したのは、一つの施設だけの情報ではなく、大分県という地域全体で情報を発信することで、大分県自体のブランド力を高めること、また複数の企業が記事を配信することで、情報の鮮度が常に保たれることもメリットです。
依然として重要な中国市場へ向け、現段階は将来の訪問を見据えた種まきとして情報を発信し、回復期には、より誘客に繋がる情報にするなど、発信する内容を工夫しながら、継続して積極的かつ効果的に情報発信を行っていく予定です。
ドローンによる空撮で、街の魅力を発信
また、ドローンを活用した立体的な視覚効果を狙った動画撮影にも挑戦します。
特に、山城屋のある湯平温泉は湯布院町にありますが、「湯布院」と聞いてイメージする街並みとは全く異なり、山に囲まれた場所です。
その魅力が伝わるのは、空撮による写真や動画が一番だと思っています。
また、山城屋を訪れるお客さんの多くは外国人観光客です。
特に土地勘のない外国人には動画による説明が一番分かりやすいため、ドローンで撮影した映像は今後、HP上でも展開していく予定です。
—今回のような危機に直面し、お客様の見直しなど何か検討していることがあれば教えてください。
新たに始めた「立ち寄り湯とランチ」は、県内の隠れた需要として今後も期待できることが分かったので、回復期においても継続して行う予定です。
今回のコロナウイルス感染症による打撃からの回復は長期戦になると踏んでいますが、そのなかでも一番最初に戻ってくるのは、国内観光。特に近隣のお客様の取り込みは大切だと考えます。
また、インバウンドについては、特定の国や地域に偏ることのリスクを回避する意味でも、出来るだけ幅広い国々からの集客を促す必要があるため、そのために必要な言語対応(自動翻訳)やSNS(facebook等)は積極的に活用していきます。
—最後に、観光同じような状況にある観光事業者の方たちへ一言メッセージをお願いします。
私の好きな言葉に「幸運は準備のできた者に見方する」(パスツール)というものがあります。お互い大変な状況ではありますが、来るべき回復期へ向けて「準備」はしっかりと行っていきましょう。その努力は必ずや報われるものと信じています。
(執筆:二宮謙児氏 取材 編集:堀内祐香)
旅館山城屋 代表 二宮謙児氏
1961年大分県生まれ。 大分県信用組合勤務を経て、有限会社山城屋代表。
インバウンド推進協議会OITA会長。経営する山城屋は、外国人客の受け入れを進めて、客室稼働率ほぼ100%を達成。完全週休2日制の導入、盆・暮れ・正月の休みを実現し、15年「九州未来アワード」で審査員特別奨励賞受賞。トリップアドバイザーの「日本の旅館部門2017」で満足度全国3位にランクインした。著書 に『山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』
やまとごころ編集部では、新型コロナウイルス拡大による大打撃のなかでも、「今」着手できることや、アフターコロナに向けて準備する観光事業者の取り組みを募集しています。
ご協力いただける方は、やまとごころ問い合わせフォームより「やまとごころ.jpについて」を選択しご連絡ください。おって編集部よりご連絡いたします。
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