インバウンドコラム
新型コロナウイルス感染症の拡大で史上初の1年延期となった今回の東京オリンピック。収束には程遠い状況下で行われ、8月8日に幕を閉じたが、オリンピック関係者を外部と遮断する「バブル方式」を導入し、ほとんどの会場は無観客で開催するという異例の事態となった。世界のメディアは今回の東京オリンピックをどのように報じたのだろうか。今大会に対する各国メディアの評価や、限られた行動範囲内で日本を垣間見た五輪関係者の声などをまとめた。
大会の成功をたたえる一方「感染が心配だった」、無観客に「残念」との声
東京五輪については、無観客開催となったことへの無念や、開催期間中の国内での感染者数増加に対し、感染を心配する声も聴かれたが、一方で大会の成功をたたえる報道もみられた。
オーストラリアの公営放送局ABCは、「開催決行に驚いた」とした上で「日本の感染者数が日に日に増加し、自分が感染しないか常に心配していた」と伝えた。一方で、「結果的には全ての競技が円滑に進み、コロナ禍での大会成功はたたえられるべきだ」と評価している。
ドイツの放送局ドイチェ・ヴェレは、「感染拡大が深刻な中、感染対策が厳しく行われ、安全に大会が開催されていたと思う。ただ、観客がいなかったことがとても残念だった」と伝えた。ドイツの有力紙フランクフルター・アルゲマイネ(電子版)は、大会前は反対意見が多かったことに触れた上で、「(大会が開催されたことが)選手にとってどれほど助けになったかについて、日本人が誇らしく思えるようになるまでに数年を要するかもしれない」と指摘した。
米紙ワシントン・ポストは、「コロナ禍で、アスリートやボランティアがほろ苦い思いで閉幕を迎えた」「日本は、あらゆる批判があったにもかかわらず、パンデミックの最中でもオリンピックが開催できることを証明した」と報じた。
ブラジル紙の記者は、「無観客での開催はやむを得ない」とした上で、「もし開催地が日本以外の国だったら、今回の五輪開催は不可能だったのではないか」と評価している。
イギリスの公営放送BBCは、「オリンピックらしい見事なものだった」とした上で、「オリンピックの開催が正しかったのかどうか、これからも議論は続くだろう。今後はオリンピックの開催都市を見つけること自体が難しくなるかもしれない」と今後の課題を指摘した。
五輪関係者が外部と接触しない「バブル方式」へのコメントも
選手が外部と接触しない「バブル方式」に対し、米紙ニューヨーク・タイムズは「社会と切り離され、閉所恐怖症のような状態になることが多かった」と指摘。一方、同紙電子版では、五輪関係者の陽性率が0.02%だったことに言及し、バブル方式が「少なくとも短期的には機能したようだ」と評価した。
なお、2週間の隔離期間について、英紙ガーディアンの記者は次のように綴った。「密閉された部屋から通路へと移動し、アプリで撮影・追跡され、身を縮めていた14日間の隔離生活が終わった」「(その間)五輪会場以外に行った場所はホテルにあるコンビニだけだった」。その後、隔離期間を終えて街に出た記者は日本の人々の様子を観察し、「東京五輪を取材した中で、最初に特筆すべき点は、この街の人々は、(私たちのような)特に重要ではない訪問者が押しかけたにもかかわらず寛容で忍耐強かったこと」と記し、日本人の礼儀正しい国民性を強調。「東京の人々の配慮と親切心は、この過酷な時代に必要なものを示す教訓だ」としている。
東京五輪の問題点も明らかに、コロナ禍での五輪開催を疑問視
一方で、東京五輪開催にあたっての問題点も明らかになったほか、五輪開催そのものに対して懐疑的な声も多く聞かれた。
フランスの主要紙ル・モンドは、大会期間中に拡大した新型コロナ感染について、「政府の対応が追いついていない」と厳しく批判。「東京五輪で明らかになったのは政府と国民の溝だろう」とも指摘した。
ブラジル紙の記者は、ボランティアで英語が通じる人が少なかったという点を指摘し、「せめて英語できちんと案内をしたり、質問に答えたりしてほしい」との声や、「日本はテクノロジー先進国だと思っていたのに、いくつかの会場のインターネット環境が良くなかった」との声があがった。
CNNは、五輪に反対するデモについて紹介し「五輪は人々の命と生活を犠牲にしている」と伝えている。NBCのスポーツキャスターは「(コロナ禍で)大会が開催され、予定していたイベントが全て行われたことは偉業だ」と語った。しかしながら、開催都市となった東京に対する一定の評価はありつつ、 IOCだけが利益を得るという構図に疑問を感じている米メディアは多かったようだ。開催都市が得た収益はほぼなく、五輪開催後に感染拡大が続く状況の中、「日本の納税者はこれから大きな代償を支払うことになる」との指摘もあった。
前々回開催のイギリス、次回オリンピック開催国の反応は?
2022年に冬季オリンピックを控えた中国の環球時報は、「コロナ禍での開催は素晴らしく、予想を上回る盛り上がりを見せた」と報じ、2022年の北京五輪を「必ず成功させる」と強調。国営新華社(英語版)は、「従来の五輪とは大きく違うものとなったが、人類のスポーツへの情熱と参加者の友情や団結は、決して消えることはなかった」とたたえた。
2024年に夏季五輪を開催するフランスのマクロン大統領は8日、ツイッターで「日本の皆様、オリンピックの成功、おめでとうございます。前代未聞の状況下でしたが、皆で素晴らしい時間を過ごすことができました」と日本語で投稿し、「今度は2024年にパリでお会いしましょう!」と呼びかけた。
前々回2012年の開催国だった英国のジョンソン首相も「非常に困難な時期にあっても、スポーツとオリンピック・ムーブメントには人と人、国と国を結びつける力があることを示した」と日本語でツイッターに投稿した。
行動範囲が限られる中、五輪で脚光を浴びたのは“コンビニ飯”
今大会では、海外から訪れた五輪関係者の行動範囲が限られる中、注目を集めたのが日本のコンビニエンスストアだ。カナダの国営放送CBCの記者はコンビニのおにぎりの開封に悪戦苦闘する様子をツイッターに投稿。これに対し、日本のツイッターユーザーから、応援のリプライが殺到するなど、盛り上がりを見せた。別のCBC記者は、コンビニのたまごサンドサンドイッチやカフェラテを絶賛。米ニューヨークタイムズ紙の記者もたまごサンドイッチやロッテのアイスクリーム「COOLISH」の写真をコメント付きで投稿し、話題を呼んだ。
米ニューヨークタイムズは「メダルに値する食事を見つけたとき」というタイトルで日本のコンビニの素晴らしさを報じた。記者は、「ホテルからプレスセンターまで徒歩10分の距離に3つのコンビニがあるが、それらが私を誘惑しなかった日はほとんどない」「アスリートでさえ、たくさんの商品が詰まったコンビニ袋を提げているほどだ」と綴っている。
今大会では、メインプレスセンター(MPC)での食事が外国人記者たちの間で不評だったようで、その代わりに“コンビニ飯”が脚光を浴びる形となった。一方で、日本のコンビニの問題点として「信じられないほどの量のプラスチック包装」を挙げ、時代と逆行する日本の過剰包装に対して驚きの色を示すメディアもあった。
自動販売機も人気、実用品から伝統工芸品まで豊富なラインナップ
MPCにあるオフィシャルショップに併設されていた自動販売機も人気だったという。全部で5台ある自動販売機には、タンブラーやトートバッグといった実用的なものから、だるまやこけし、招き猫といった伝統工芸品など、様々なランナップが揃い、中には商品を買い占める外国人もいたようだ。
コンビニや自動販売機以外で各国の外国人から注目を集めていたのは、日本のトイレ。清潔な上に、温水洗浄便座(ウォシュレット)や「音姫」といった、外国のトイレでは見られない機能に驚きを隠せなかったようだ。日本のトイレの機能を記事にして発信する記者や、ウォシュレットの動画をアップした選手もいる。選手が撮影した動画には「日本の技術をリスペクト」「日本のウォシュレット最高」といったコメントが寄せられた。米紙USAトゥデイの職員も、羽田空港で使用したトイレの画像をツイッターで発信し、音姫や壁に備え付けられたコントロールパネルを見て「(まだほとんど見ていないけれど)今までの東京で一番クールだったのは…トイレです」とコメントした。
選手村で高まる日本食への関心、日本のお菓子もSNSで話題に
約700種類の食事が提供されたという選手村では、日本食に対する関心が高まった。米代表選手は選手村の食堂で餃子を食べたシーンをティックトックにアップし、「今まで食べてきた中で一番美味しい餃子」とコメント。ラーメンや春巻きを食べる姿も投稿している。別の選手は、かっぱ巻きやツナ入りの寿司を食べて「美味しい!」と感想を述べた。選手村食堂で提供された、日本メーカーのお菓子も人気で、選手たちが果汁グミやアポロチョコレートなどをSNSで紹介し、話題を呼んだ。
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