インバウンドコラム
世界中で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が加速し、入国制限を緩和する国が徐々に増加する中、ワクチンパスポートを導入する動きが高まっている。中でも代表的なのが、世界の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)が提供するデジタル渡航認証アプリ「IATAトラベルパス」だ。このアプリひとつで新型コロナウイルス感染症の検査結果や、ワクチンの接種記録などを一元管理できるため、コロナ禍の海外旅行で必須のアイテムになると見られている。今回は、IATAトラベルパスをめぐる世界の動きを紹介する。
IATA、EUのデジタルワクチン接種証明書を世界基準にするよう、各国に呼びかけ
IATAはこのほど、ワクチン接種完了を証明するEUの「EUデジタルCOVID証明書」(以下DCC)と英国の「NHS COVIDパス」を、IATAトラベルパスにアップロードすることができるようになったと発表した。これにより、DCCとNHS COVIDパスを有する渡航者は、IATAトラベルパスを介して電子版パスポートの作成や、ワクチン接種証明をインポートすることができるようになった。また、渡航先の入国要件の情報にアクセスすることもできる。
IATAは「多くの国がワクチン接種証明書の基準を模索している」とし、ワクチン接種証明書の正当性を迅速に確認するために、WHOに世界基準を策定してほしいと要請している。現状では、航空会社や各国の入管、政府がデジタルのワクチン接種証明書を認識、確認するのに時間がかかり、海外旅行の妨げとなっているためだ。WHOが世界基準を策定しない場合は、すでに実証済みのEUデジタル証明書「DCC」を世界基準にすべきとの見方を示している。また、8月28日には、DCCの規格をデジタルワクチン接種証明書の世界基準とするよう各国政府に要請した。
サウジアラビア、9月末からIATAトラベルパスの運用を開始
IATAによると、GACA(サウジアラビア民間航空局)が、IATAトラベルパスの運用を開始することを発表した。この措置は9月30日から開始され、当面は新型コロナウイルス検査の陰性証明書として活用し、最終的にはワクチン接種証明にも適用の幅を広げていくという。
ベトナム、インドネシア、インド、台湾でIATAトラベルパス試験導入の動き
現在、世界70社以上の航空会社がIATAのアプリを試験的に運用しているという。シンガポール航空が世界に先駆けて試験導入したが、最近では東アジア、東南アジアでも試験導入の動きが見られる。
ベトナム航空は8月12日、ハノイ発成田着の便で初めてIATAトラベルパスを試験導入した。これにより、搭乗者は指定された検査施設での検査や陰性証明書の取得、そして搭乗手続きを円滑に進めることができ、時間の節約や接触機会を減らすことにつながることが確認されたという。
インドネシアのガルーダインドネシア航空は、8月30日から9月13日までの期間、ジャカルタと羽田を結ぶルートで、IATAトラベルパスを試験導入すると発表した。
インドでは、LCCのインディゴ航空が8月20日から、同国で初めてIATAトラベルパスの試験導入を開始。また、同国のスパイスジェットも23日から試験導入を開始した。
台湾のチャイナエアラインは8月30日から、ロサンゼルス、オンタリオ、サンフランシスコ、ニューヨーク、バンクーバー、フランクフルト、ロンドン、シンガポールの8路線の台北行きの便でIATAトラベルパスの試験導入を開始している。同じく台湾のエバー航空は、9月からパリ便の台北行きで試験導入を開始する。
オーストラリア、カンタスグループがIATAトラベルパスの導入を表明
オーストラリアでは、カンタスグループ(カンタス航空およびジェットスター航空)が、国際線の運行が再開された際に、IATAトラベルパスを導入すると表明した。アプリを利用しない乗客は、搭乗の当日に空港でワクチン接種証明書や陰性証明書を提出できるが、事前に搭乗が可能かどうかを確認することはできないとしている。
日本、年内にワクチン接種証明書のデジタル化へ
日本の加藤官房長官は8月26日、ワクチン接種証明書のデジタル化について、年内を目処に実現を目指したいと発表した。また、海外渡航だけではなく、国内の旅行や飲食、イベントなど、多岐にわたる分野での活用を視野に入れていることを明かしている。
ANAは5月24日〜6月6日の期間で東京とニューヨーク、ホノルルを結ぶ路線でIATAトラベルパスを試験導入し、JALも6月15日〜8月25日の期間で東京とホノルル、シンガポールを結ぶ路線で試験導入した。
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