インバウンドコラム

経済回復へ向けウィズコロナに方向転換、入国規制緩和進む東南アジア・オセアニア

2021.09.22

印刷用ページを表示する



各国でワクチン接種が進む中、ワクチン接種完了を条件に外国人の入国・入境を受け入れる動きが活発化してきた。国内の目標ワクチン接種率をクリアしたら再開するという国もあれば、国内の接種率プラス相手国のワクチン接種率も考慮するという国もあるが、いずれも「ゼロコロナ」ではなく「ウィズコロナ」に方向転換し、経済回復に向けて舵を切る形となる。

今回は、これまでに厳格なロックダウンや規制を実施してきたアジア、オセアニア地域における、入国規制の緩和状況をまとめた。

 

シンガポール、8月から入国規制を一部緩和。新規感染者は増加傾向

シンガポールのリー・シェンロン首相は、コロナと共生する「新常態」を目指す方針を示し、8月20日に香港・マカオからの隔離なしの入国を認めたほか、9月8日からはドイツとブルネイのワクチン接種完了者を対象に「ワクチントラベルレーン」を設け、隔離なしの入国を認めるなど、入国規制を一部緩和してきた。同国では総人口の約8割がすでに必要回数のワクチン接種を完了している(9月17日時点)。

アジアのなかでもとりわけ厳しいロックダウンを実施してきたシンガポールだが、8月下旬から新規感染者が急増し、9月19日には1012人が陽性となった。政府は9月17日、医療のひっ迫を防ぐため、無症状や軽症の人を対象に自宅療養に切り替えると発表した。ただし、対象となるのはワクチンを2回接種済みの70歳未満で、基礎疾患のない人に限る。同国ではこれまで、検査で陽性結果が出た場合は軽症でも病院や指定施設で看護していた。

 

マレーシア、9月16日より国内版トラベルバブルを開始

マレーシアでは9月19日、1万4954人の新規感染者が確認された。8月には2万人を超える日が続いていたが、ピークアウトしたものとみられる。

マレーシア政府は16日より移動規制を緩和し、ランカウイ島でワクチン接種済みの観光客の受け入れを再開した。外国人観光客の受け入れ再開については未発表で、まずは国内の観光客に限定し、年内に40万人の来訪と、1.65億リンギット(約43.4億円)の観光収入を目標に掲げている。初日の16日には、国内各地から約3200人がランカウイ島を訪れた。

マレーシアで1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の68.9%、必要回数の接種を完了した人は57.8%(9月19日時点)。マレーシア政府は、年内に全成人へのワクチン接種完了を目指している。

 

インドネシア、11月にも国境再開へ

インドネシアのブディ・グナディ・サディキン保健相は9月14日、ワクチン対象者の7割が1回目の接種を完了すれば、11月には外国人の受け入れを再開することを明らかにした。同国では、初回接種を優先する英国のモデルを参考にしており、入院患者や死者が減少している。現在入国できるのは、外交ビザや就労ビザを持つ外国人に限られているが、ブディ保健相は、対象者の7割が2回目の接種を完了すればさらに国境制限が緩和されると述べている。同国の1日の新規感染者は、5万人を超えていた7月のピーク時から急速に減少し、9月19日の新規感染者は2234人だった。

インドネシアのルフット海事・投資担当調整相は17日、国内の感染状況の改善に触れ、バリ島で10月にも外国人観光客の受け入れを再開する可能性を示唆した。バリ島で観光客を受け入れる対象国には、韓国や日本、シンガポール、ニュージーランドなどを挙げ、ワクチン接種を完了していることが条件となる。政府は観光の早期再開を目指し、バリ島のあるバリ州でワクチンを優先的に供給している。

インドネシアで1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の29.0%、必要回数の接種を完了した人は16.5%となっている(9月18日時点)。

 

香港、広東省・マカオからの入境者を隔離なしで受け入れ開始。34日連続で市中感染ゼロ

香港は9月15日、強制隔離なしでの入境を認める新スキーム「来港易」を開始した。これにより、中国の広東省およびマカオの住民は、一定の条件を満たせば強制隔離なしで入境することができる。入境人数の上限は、1日あたり2000人。香港では、34日間連続で市中感染がゼロとなり(9月20日時点)、陽性者は全て空港での輸入例となっている。

香港で1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の58.7%、必要回数の接種を完了した人は52.9%(9月19日時点)。

 

オーストラリア、「ワクチンパスポート」を試験導入へ

オーストラリア政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種証明となる、「ワクチンパスポート」を試験導入すると発表した。同国のモリソン首相は、成人の80%がワクチン接種を完了した時点で海外渡航を解禁する方針を示している。同政府は複数の主要国との間でワクチンパスポートの試験導入を検討していると発表し、シンガポール、日本、韓国、英国、米国や近隣の太平洋諸国を相手国の候補に挙げている。これまで厳格なロックダウンを実施してきた同国だが、今後は「ゼロコロナ」ではなく、「ウィズコロナ」に舵を切る方針だ。一方、国内の新規感染者は、デルタ株の影響によって8月から急増し、9月に入って過去最多を更新している。

シドニーを州都とするニューサウスウェールズ州では、10月中旬に都市封鎖が解除される見通し。また、ビクトリア州の州都メルボルンでは、ロックダウン措置が10月26日ごろに解除される見通しとなった。ただし、ビクトリア州内の16歳以上の2回目のワクチン接種が70%に達することが条件となる。政府の方針に伴い、オーストラリアのカンタス航空は、12月中旬からワクチン接種率の高いシンガポール、アメリカ、日本、ニュージーランドなどへのフライトを再開する。

オーストラリアで1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の59.1%、必要回数の接種を完了した人は38.0%(9月19日時点)で、成人の80%がワクチンを完了するのは11月末ごろと予想されている。

 

フィジー、年内に外国人観光客を受け入れへ

南太平洋の島国フィジーは、今年中に外国人観光客の受け入れを再開する方針を示した。具体的な日程はまだ確定していないが、入国の条件には、ワクチン接種を完了し、PCR検査の陰性証明を提示すること、そして国が定める「グリーンリスト」の国からの渡航者に限られる。グリーンリストに含まれているのは現時点で、オーストラリア、ニュージーランド、日本、カナダ、韓国、シンガポール及び米国の一部。日本からは2019年実績で約1万5000人がフィジーを訪れている。

フィジーは国民総生産(GNP)の約4割を観光業が占めているため、新型コロナウイルスの感染拡大で経済が大きな打撃を受けた。フィジーの新規感染者は、7月をピークに減少傾向が続き、9月20日の新規感染者は121人だった。

フィジーで1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の64.0%、必要回数の接種を完了した人は38.5%(9月14日時点)となっている。

 

タイ、バンコクの外国人受け入れを巡って政府と都知事で意見分かれる

タイ政府の新型コロナウイルス感染症対策センターは19日、新規感染者が1万3576人だったと発表した。タイの感染者数は8月中旬にピークを迎え、その後減少傾向にあるが、依然として高い水準が続いている。

タイ政府は、10月1日から国境再開の第2弾として、バンコク、チェンマイ、チョンブリー、ペッチャブリー、プラチュワップキーリーカンの5都市で外国人観光客の受け入れを再開する予定だった。ただし、アサウィン・バンコク都知事は9月20日、バンコクの観光を再開して観光客を受け入れるには新型コロナワクチン2回接種率が7割に達することを含め3つの条件をクリアする必要があり、実現は11月半ばになるとの見方を示した。

タイ政府は今年7月以降、世界的なリゾート地プーケットを皮切りに、スラートターニー、クラビ、パンガーで、外国人観光客を隔離なしで受け入れており、今後も受け入れ都市を拡大していくほか、隣国とのトラベルバブルも進めていく予定。ただし、入国者はワクチン接種証明と搭乗の72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明書を提示する必要がある。

同政府はこれまで、厳しい行動制限を行なってきたが、経済への打撃が大きく、規制緩和によって経済再生との両立を目指す方針に切り替えた。一方、入国規制を緩和することで、国内の感染状況が悪化するのではないかという懸念の声もあがっている。

タイで1回目のワクチン接種を終えた人は総人口の41.5%、必要回数の接種を完了した人は21.5%で(9月19日時点)、タイ政府は年末までにワクチン接種完了者を70%まで引き上げることを目標としている。先行して外国人観光客を受け入れたプーケットでは、2万5,000人の住民を対象に大規模な検査を実施する計画だという。

 

最新記事