インバウンドコラム
これまで、厳格なロックダウンを実施しながら感染者を抑え込んできたオーストラリアとニュージーランドだが、8月以降はデルタ株の影響で新規感染者が右肩上がりに増え、現在では「ゼロコロナ」戦略を断念し、「ウィズコロナ」へと方向転換している。両国ともにワクチン接種が急速に進み、完全接種率が6割に届こうとしている中、具体的にはどのような戦略を掲げているのだろうか。両国が発表した段階的な規制緩和策も交えて紹介する。
オーストラリア、都市部でワクチン接種が急速に進み、規制緩和の動きが活発に
オーストラリア政府のハント保健相は10月20日、全国のワクチン接種対象者(16歳以上)のうち、接種完了者が70%に達したと発表した。オーストラリアでは8月以来、感染力の強いデルタ株による第3波が起きていたが、大都市のシドニーやメルボルンでは急速にワクチン接種が進み、ロックダウンや厳格な在宅規制を解除している。
ニューサウスウェールズ州(州都:シドニー)の新規感染者は、9月上旬のピークを境に減少を続けているが、ビクトリア州(州都:メルボルン)では9月上旬から増加傾向が続いている。10月24日の新規感染者は、全国で2万8432人のうち、ニューサウスウェールズ州が4820人、ビクトリア州が2万3164人で、ビクトリア州が全体の8割以上を占めている。
ニューサウスウェールズ州では、ワクチン接種完了者が成人人口の80%を超え、10月18日から行動制限が緩和されている。オフィスでのマスク着用義務が解除されたほか、自宅や屋外で集まる際の人数制限が緩和された。また、小売店やパブ、ジムではワクチン接種完了者を受け入れることが可能になり、ナイトクラブは着席での飲酒を再開。結婚式の出席人数制限も解除された。
同州のペロテット首相は、18歳以上の州民を対象に、観光業界支援プログラム「ステイ・アンド・リディスカバー」の50豪ドル(約4200円)分の宿泊バウチャーを配布する方針を明らかにした。宿泊バウチャーは試験的に開始した後、来年3月に州全土で本格展開する予定となっている。
地域によってワクチン接種率に大きな差
オーストラリア全土のワクチン接種完了率が70%に達するのは11月下旬で、80%に達するのが12月下旬と予想されていたが、ニューサウスウェールズ州等では急加速でワクチン接種が進み、大幅な前倒しで目標を達成する見込みとなっている。一方で、デルタ株による大規模な感染拡大に至らなかったクイーンズランド州(州都ブリスベン)や西オーストラリア州(州都パース)では、ワクチン接種の進みが遅く、州によってワクチン接種率の達成状況に大きく差が出ることが懸念されている。
豪政府 ワクチン接種完了率に応じて、4段階の緩和策を設定
オーストラリア政府は8月にワクチン接種率に応じて以下4段階のフェーズを設けた「オーストラリアのコロナ対応の移行に向けた国家計画」を策定、規制緩和や他国との往来の再開を目指すことにした。8月の段階ではフェーズAだったが、10月14日にニューサウスウェールズ州、10月19日はオーストラリア首都特別地域がフェーズBに移行、10月29日にはビクトリア州が移行する予定だ。
フェーズA:ワクチン接種の準備及び試行
引き続きウイルスを強力に抑制し、地域社会での感染を最小限に抑えることを目的とする。このフェーズでは、ワクチン接種を加速させ、国境を閉鎖し、感染状況よってはロックダウンが早期に短期間行われる可能性がある。
フェーズB:ワクチン接種の移行期(ワクチン接種完了率が成人人口の70%)
低レベルの規制を講じ、効果的な追跡を行って新規感染者、重症化、入院、死亡率を最小限に抑える。一方、ワクチン接種を完了した住民に対する制限の緩和、ワクチン接種を受けた帰国者数の上限を拡大、隔離の手配と施設の空き状況により学生ビザおよびビジネスビザ保有者の入国を上限を設けて認めるなどの緩和策が適用される。
フェーズC:ワクチン接種の強化(ワクチン接種完了率が成人人口の80%)
基本レベルの規制を講じ、効果的な追跡を行って新規感染者、重症化、入院、死亡率を最小限に抑える。このフェーズでは、ワクチン接種率を最大化し、状況に応じて高度にターゲットを絞ったロックダウンのみを行い、ワクチンのブースター接種を継続する。ワクチン接種を完了した住民に対する国内の全規制の免除、ワクチン接種を完了したオーストラリア人の帰国人数の上限を撤廃、新たな候補国(シンガポール、太平洋)への無制限の渡航バブルの拡大などが適用される。
フェーズD:完了期(ワクチン接種率の最終段階)
このフェーズでは、新型コロナウイルス感染症を他の感染症と同様に扱う。国際的な国境を解放し、ワクチン接種者の人数制限と隔離措置なしで入国者を受け入れ、ワクチン接種をしていない旅行者に対しては、飛行機および到着時の検査を実施して受け入れるなどの緩和措置が適用される。
11月1日以降、サウスウェールズ州とビクトリア州で入国規制を緩和
サウスウェールズ州とビクトリア州は、11月1日以降、ワクチン接種を完了したオーストラリア人、永住者、およびその家族を対象に、14日間の隔離なしで入国を認めると発表した。オーストラリアは昨年3月から、世界的にみても厳格な水際対策を続けてきたが、国内のワクチン接種完了率が上がってきたことで、ついに入国規制を緩和する。
また、同政府はニュージーランドとのトラベルバブルの再開や、シンガポールとのトラベルバブルについて交渉を進めているという。10月19日からは、ワクチン接種証明の発給を開始し、ワクチンパスポートアプリのダウンロードもできるようになった。
NZはオークランドで感染拡大続き、ロックダウン措置を2週間延長
ニュージーランド保健当局は10月25日、新型コロナウイルスの市中感染者が109人だったと発表した。1日あたりの新規感染者としては、過去2番目の多さとなった。同国は「ゼロコロナ」戦略を掲げ、一時は新型コロナウイルスの封じ込めに成功したかのように見えたが、その後デルタ株が流行し、「ゼロコロナ」戦略を断念。最大都市のオークランドでは感染が拡大し続け、8月中旬から2カ月以上にわたって厳格なロックダウンが続けられているが、封じ込めには至っていない。アーダーン首相は10月18日、オークランドのロックダウン措置を2週間延長すると発表した。
対象者のワクチン接種完了率90%で新制度へ移行
一方、ニュージーランドのワクチン接種は急速に進み、必要回数のワクチン接種を完了した人は総人口の60%(10月25日時点)となっている。ロックダウンに依存しない制度の必要性が高まるなか、アーダーン首相は10月22日、対象者(12歳以上)のワクチン接種完了率が90%に達した段階で、新たな制度へ移行する方針を発表した。この「COVID19プロテクション・フレームワーク」という制度では、各地域の状況に応じて、「緑」「オレンジ」「赤」の3段階からなる信号システムを導入する。緑やオレンジの地域では、公共施設、学校、小売店、オフィスなどが営業できるが、赤の地域では人数制限や社会的距離の確保の規制を課すほか、企業には在宅勤務を求める。しかし、どの地域でも、ワクチン接種証明の提示を義務付けることで、飲食店やジムの利用、イベントの開催などが可能になる。
感染拡大の続くオークランドで対象者のワクチン接種完了率が90%に達した段階で、オークランドのみ先行して「赤」へ移行し、その他の地域については、全ての地域で接種完了率が90%に達した段階で「オレンジ」へ移行する方針を示している。オークランドにおける対象者の接種完了率は、すでに80%を超えている(10月25日時点)。
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