インバウンドコラム
11月1日、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計により、新型コロナウイルス感染症による死者が500万人を突破したことが明らかになった。パンデミックが始まって1年7カ月が経ち、先進国ではワクチン接種が進んだことで死亡率が下がってきたが、一方で再び感染が拡大している地域もある。今回は、ワクチン接種を条件に国境を再開し始めた欧米諸国の状況を中心にお伝えする。
米国、11月8日から入国者にワクチン接種を義務付け
米国では11月8日より、国外から米国へ入国するほぼ全ての渡航者に対し、新型コロナウイルスのワクチン接種完了を義務付けた。これまで出発前3日以内に取得した陰性証明書の提示のみで入国が認められていた空路による渡航者は、陰性証明書のほかにワクチン接種完了証明書も必要になる。
米国では2020年3月以降、厳しい入国制限を行い、多くの国・地域からの渡航者を入国禁止としてきたが、11月8日以降はこれが全て解除される。ワクチンの種類は米国内で接種が進むファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン製などに加え、アストラゼネカ製も認めるとしている。また、18歳未満の子供や、ワクチンの接種率が10%未満の国からの渡航者などについては、接種義務が免除されるという。この措置に伴い、米政府は昨年3月から国境を閉鎖してきたメキシコとカナダからの入国者に対しても、ワクチン接種完了を条件に11月8日から入国を認めた。
米企業のワクチン義務化、2022年1月よりスタート
米政府は11月4日、従業員が100人以上の企業を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種の義務化について、2022年1月4日から導入すると発表した。同日までにワクチン接種を完了していない従業員は、最低週1回は感染検査をしなければならないとし、違反した場合は1件当たり最高で1万4000ドル(約160万円)の罰金が科される。対象は、国内労働者の3分の2以上に上る。
義務化の発表を受け、野党・共和党や一部の業界団体から反発の声が上がっているほか、一時差し止めや期限の延長を求める大規模なデモが各地で起きている。10月29日を期限に市職員のワクチン接種を義務化したニューヨーク市では、11月1日に消防職員およそ2300人が病欠扱いで欠勤。抗議の意思を示すためだったと見られている。こうした状況が長期化した場合、市民生活に影響が出るのではないかと懸念されている。
ワクチン義務化をめぐり全米各地で訴訟も
米南部ルイジアナ州ニューオーリンズの連邦高裁は11月6日、バイデン米政権が大企業などにワクチン接種を義務付けるとした新たな規定に対し、一時的な差し止めを命じた。裁判所は「義務化には法令上および憲法上の重大な問題があると考えるに十分な理由が示された」とし、政府には8日午後までに必要な書類を提出するよう求めている。義務化を巡っては全米各地で複数の訴訟が起こされている。これに対し司法省の報道官は、OSHA(労働安全衛生庁)の規定は職場の安全を維持するうえで「必要不可欠」な手段だと反論。労働省も法廷で主張する準備は整っているとした。
米疾病対策センター(CDC)は2日、米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンについて、5〜11歳の子供への接種を推奨すると発表した。米国の一部の地域ではすでに子供への接種が始まっている。CDCのロシェル・ワレンスキー所長は、記者会見で「臨床試験で確認された副反応は軽度だった」と述べ、ワクチンの安全性を訴えているが、副作用などへの懸念から、子供への接種を当面控える親も少なくないという。
英国、高リスク指定国をなくし、入国規制を緩和
英政府は11月1日、新型コロナウイルスの水際対策でイングランドへの渡航が制限されていた赤(高リスク国・地域)のリストから、残りの7カ国全てを除外した。この措置により、政府指定の宿泊施設で10日間の自主隔離を求められる渡航者はいなくなる。ただし、赤の国・地域の対象については、3週間ごとに見直しを行う。また、赤以外の国・地域から入国する場合は、特定の国・地域のワクチン接種完了者を対象に、渡航前検査、入国後8日目以降の検査と、10日間の自主隔離を免除する措置がとれられている(ただし、入国後2日目の検査の予約と受検、乗客追跡フォームの入力は引き続き必要)が、この対象の国・地域が大幅に増加し、同日時点で135を超えた。
英国、10月より新規感染者再び増加、希望者へ3回目のワクチン接種
新型コロナウイルス対策の行動規制を大幅に撤廃した英国では、10月に入って新規感染者が再び増加し、1日当たりの新規感染者が3カ月ぶりに5万人を超える日もあった。一方で、ワクチン接種が進んだこともあり、入院を必要とする重症者や死者は比較的低水準で推移している。英政府は、冬季には新規感染者が10万人に達する可能性があると指摘し、対象者に3回目のワクチン接種を受けるよう呼びかけている。
英国の医薬品規制当局は4日、米製薬大手メルクが製造した新型コロナウイルス経口治療薬「モルヌピラビル」を承認したと発表した。新型コロナウイルスの増殖を抑えるための飲み薬の承認は、これが世界初。「モルヌピラビル」は感染の初期段階で効果があり、感染後なるべく早く服用することが推奨されている。EUや米国の当局も承認審査に入っており、年内にも実用化される見通し。
欧州各国、再び感染の「震源地」に。感染者が過去最多
欧州では再び新型コロナウイルスの感染者が急増している。世界保健機関(WHO)によると、ロシアや中央アジアなど、旧ソ連諸国を含む欧州管内53カ国の10月最終週の新規感染者数の合計と死者数の合計がともに世界の約5割を占めたという。これを受け、WHOは欧州が再びパンデミックの「震源地」になったと警鐘を鳴らしている。
新規感染者はワクチン接種率の低い東欧に加え、ワクチン接種が進んでいるドイツでも急増。ドイツでは11月8日、直近7日間に確認された新型コロナウイルスの人口10万人当たりの新規感染者が過去最多を更新した。ドイツの保健相はワクチン未接種者の間で大規模な流行が発生していると指摘し、政府は希望者全員に3回目のブースター接種をする方針を示した。
オランダでも感染が急拡大し、医療体制がひっ迫する中、9月末に撤廃した新型コロナウイルス対策の規制を再導入している。店舗を含む公共の場でマスク着用を再び義務化し、美術館・博物館やジム、レストランのテラス席などでワクチン接種証明もしくは検査の陰性証明の提示を義務付けている。また、週の半分は在宅勤務にするよう推奨している。
同じく感染が再拡大するフランスでは、ワクチン接種もしくは48時間以内の陰性結果を証明する「衛生パス」の飲食店などでの提示義務を、来年7月末まで延長すると決定した。
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