インバウンドコラム
シンガポールでは2021年9月より段階的に入国規制の緩和を進め、4月6日からはワクチン接種者であれば誰もが入国前のPCR検査も不要で入国できるようになりました。シンガポール在住者からは、ようやく海外旅行が自由にできるようになったことや、シンガポールにも外国人観光客が本格的に戻ってくることに対して、喜びの声が広がっています。
一方日本も、5月末からシンガポールを含めた4カ国を対象に実証実験を行い、6月10日からは98カ国・地域を対象に観光客の受け入れも始めました。コロナ前の2019年は、日本を訪れたシンガポールの旅行者数は49万2300人で、訪日旅行者数は11位。訪日旅行者の7割がリピーターで、1年に何度も日本に訪れるシンガポール人も少なくありません。
ここでは、早くから旅行が再開しているシンガポールの現在の海外旅行の動向、他国の観光局の取り組み、日本の入国規制緩和を受けた訪日旅行の動きについて紹介します。
▲6月25日に開催されたSake Matsuri、日本酒好きのシンガポール在住者が集まった
4月からの大幅な入国規制緩和で海外旅行需要が急増するシンガポール
シンガポールの入国規制緩和について、2021年9月から、VTL (Vaccinated Travel Lane)制度が導入されました。これは、ワクチン接種完了、PCR検査結果が陰性であれば、提携国間で旅行ができる、というものです。最初はドイツ、ブルネイから始まり、ヨーロッパ諸国、北米豪、アジア諸国、中東へと旅行できる国が増えました。
さらに、2022年4月には大幅な規制緩和が行われました。まず、1日からはワクチン接種完了者はシンガポール入国時の隔離免除、26日からはシンガポールに入国の際にPCR検査が不要になりました。実質、シンガポールは海外旅行が再開したといえます。
こちらは、シンガポール政府が発表している「シンガポール在住者の海外出国者数」の推移をまとめたものです。
▲シンガポール在住者の海外出国者数のデータをもとに筆者作成
2021年10月から徐々に出国者が増え、11月、12月には右肩上がりで増加しました。その後、12月後半からオミクロン株によって新規の航空券が購入できなくなりましたが、2022年1月中旬から販売が再開され、出国者数は3月から4月にかけて大きく増加しています。行先は隣国のマレーシアやタイの他、韓国や豪州、ヨーロッパなどで、バケーションで旅行している人が多かったようです。4月のチャンギ空港の旅客者数は、コロナ前の約40%の水準まで回復したとの発表もありました。
ちなみにシンガポールと隣接するマレーシアとは、4月1日から陸路の旅行が可能になりました。6月8日の発表によると、週末の金〜日には、1日約26万人が陸路を利用しており、ピークアワーには渋滞も発生したそうです。
規制緩和で活気が戻る国内、国際イベントも再開
最近は、欧米豪や、アジア諸国からの旅行者を街中でよく見かけるようになりました。日本からの出張者や旅行者も増えています。日本の場合、シンガポールに入国する際はPCR検査は不要ですが、日本へ帰国時にPCR検査を受ける必要があります。
シンガポールはコロナ感染拡大初期から政府の管理・規制が徹底していたことで、よく知られていたと思いますが、現在はほとんどの規制が緩和されました。
・屋内でのマスク着用義務以外は、特に規制無し(屋外でのマスク着用は任意)
・シンガポール国内で外出する際の人数制限及び、ソーシャルディスタンスルールの撤廃
・アルコールの販売・消費の時間制限の撤廃(飲食店で22:30以降もアルコール消費が可能になった)
・ライブパフォーマンスが再開(飲食店内での音楽パフォーマンスなど)
・イベントが再開(ショッピングモールなどの催事が可能になった)
かつては、マスクを着用していない際は罰金、就労ビザを持つ外国人が感染症対策規則に違反した場合は就労ビザの剥奪、などと徹底して管理されていたシンガポールですが、現在では規制緩和にともなって、コロナ前の生活に戻ってきています。
シンガポールで開催される国際的イベントである自動車レースのF1は、10月に3年ぶりの開催も決まっていますし、観光系のイベントでは、シンガポール最大の旅行博NATAS Holidaysが8月12日〜14日に開催されます。
国家間の観光連携進む、韓国と豪州の取り組み
続いて、シンガポールにおける各国の取り組みについて、韓国とオーストラリアの事例を取り上げます。
韓国は、2021年11月15日から2国間の旅行が再開しました。同日、シンガポール観光庁(STB)と韓国観光公社(KTO)は、二国間観光を促進するための2年間のパートナーシップを提携。さらに、シンガポール発の最初の便には、シンガポールのセレブリティと旅行会社を招待し、ファムトリップを実施しました。
▲引用:シンガポール観光局プレスリリース
韓国はシンガポール人にとっても次に旅行したい国の一つで、インフルエンサーやメディア、そして一般の旅行者が観光旅行へ行く様子がSNS上で話題になりました。韓国観光公社(KTO)は今も積極的な情報発信を続けており、例えば、ショッピングモールのOOH広告なども配信していました。
▲3月にチャンギ空港直結の商業施設JEWELにて筆者撮影
次に、韓国同様シンガポール在住者に人気の旅行先の一つであるオーストラリアの取り組みです。2019年には46万4700名がシンガポールから訪問しており、オーストラリア国別訪問者数では第6位です。そして、オーストラリアへのリピート旅行者はなんと85%以上です。つまり、シンガポール市場は、オーストラリアにとって重点市場の1つになります。
シンガポールとオーストラリア間は、2021年11月21日から旅行が再開し、オーストラリア政府観光局は「Yours to Explore」キャンペーンをローンチしました。これは、次の休暇にオーストラリアで素晴らしい体験と目的地が待っていることを想起させるものです。
▲引用:オーストラリア政府観光局
このキャンペーンを通じて、航空会社、州・準州政府観光局、シンガポール市場の旅行会社・OTAなどのパートナーシップと、情報発信、旅行商品の販売を実施しています。
依然として高い日本旅行ニーズ、日本食で旅の気分を味わう人急増
日本旅行については、シンガポールを含めた98の国と地域の観光客受入が発表されてから盛り上がっています。2022年5月にイギリスの調査会社YouGov’s DestinationIndexが実施したアンケート結果によると、次に行きたい旅行先として、日本は49%の票を獲得し、圧倒的な1位として選ばれています。コロナ前から日本はシンガポール人にとって人気の旅行先でしたが、さまざまな調査結果を見ても、日本は依然として人気の旅行先として上位を維持しています。
シンガポール人がコロナ前から変わらず注目するのは、日本の四季と日本食です。この2年間というもの、海外旅行もままならず四季を感じる機会がなく、旅行に代わって国内で味わえる日本食に夢中になりました。
団体旅行解禁、訪日ツアーへのニーズは?
旅行会社はすでに日本旅行商品を造成し、販促を開始しています。例えば、シンガポールの大手旅行代理店EU Holidaysは6月に自社の店舗でジャパンフェアを開催しました。筆者も観光レップとして参加しましたが、会場には、日本旅行を計画しているシンガポール人が集まり、日本旅行に関するセミナーに参加し情報収集をしたり、カウンターで商品を購入する人を見かけました。EU Holidaysでは、すでにツアーの400人以上が予約をしているとの情報も入っています。
以前から北海道はシンガポール人に最も人気の1つでしたが、特に今人気を集めているのは年末の北海道のツアーです。前述したように訪日シンガポール人の7割がリピーター層なので、ゴールデンルート上の旅とは違った地方旅行や、地元の人の日常に触れたり、地域の人がするような本物の体験を望んでいます。地元でのハンズオンの体感や、地元ならではの食も人気コンテンツです。
シンガポール人の次の旅行シーズンは、スクールホリデイのある11月中旬〜12月ですが、現在、旅行会社を訪れる人からは11月中旬〜4月頃の商品に関する問い合わせが多いそうです。直前に航空券を購入すると価格がとても高騰するため、早めに旅行商品を購入する人が増えており、すでに訪日旅行の計画が進んでいます。
日本の入国規制緩和を受けた旅行会社の反応は?
筆者が把握する限りでは、観光客受け入れ再開のニュースが発表された直後は、断片的な情報しかない中で困惑モードが漂っていたような感じでしたが、先日旅行会社主催のジャパンフェアに参加した際には「旅行会社経由でないと、日本旅行にいけないので、相談に来た」という方もいました。旅行会社は8月、9月の日本旅行を販売しており、すでに購入者がいるとの情報もあります。この時期に旅行する人は、子連れよりも、夫婦や友人同士が多いのではという現地旅行会社の見立てもあります。
一方、シンガポールの訪日旅行者の約9割は個人旅行客です。彼ら、彼女らの中には、日本へは団体旅行しかできないので、個人旅行ができる国に目を向けている人は少なくありません。しかし、日本は個人旅行客もじきに受け入れるだろうという期待も高まりつつあるので、正式に個人旅行客の受け入れが開始されたら、日本旅行の需要がさらに高まるでしょう。
観光再開に向け旅行博や航空路線再開、今後観光事業者ができること
今後のスケジュールでは、8月に開催される旅行博NATAS Holidaysに合わせて各旅行会社は年末のプロモーション商品を販売します。したがって、今からでもシンガポールの旅行会社に連絡をとって、商品造成のサポートやプロモーションの準備をすることで、最初の訪日プロモーションの波に乗ることができるでしょう。
一方、特に個人手配の旅行者の中には、この先の状況がわからないので旅行直前に手配をする人も多いと想定されます。年末の旅行シーズンに向けて今から情報発信等をはじめることで、旅行者の集客にも繋げられると思います。
シンガポールLCCのScootは8月1日から成田〜シンガポール線を新規開設、関空~シンガポール線を9月1日から再開すると発表しました。遅かれ早かれ、日本は海外からの個人旅行者の受け入れも始まるはずです。日本を安心安全に、そして快適に旅行できるような情報のアップデートと、訪日需要を喚起するための情報発信が大事になってきます。それらの取り組みが、訪日インバウンド回復が期待できるいま、必要ではないでしょうか。
Vivid Creations Pte Ltd, Cheif Marketing Officer
宮川 元希
Vivid Creationsは2009年シンガポールで設立したマーケティング会社。日系企業や政府機関のシンガポール現地のマーケティング活動を支援。CMO兼訪日インバウンド事業責任者。自治体を対象にシンガポール市場のレップ業務を担当。旅行会社・メディアのファムトリップや訪日プロモーションの実績多数。JNTOシンガポール事務所や自治体・民間企業の訪日プロモーションも請負っており、シンガポール現地の観光事情に精通する。
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