インバウンドコラム
2026年、日本のインバウンドは年間4000万人を超える見通しとなっている。訪日客数や消費額といった指標を見れば、日本の観光は「回復」から「成長」の局面に入ったと言えるだろう。
一方で、私自身、各地の現場を歩く中で、観光の“光”と同時に“影”がより鮮明になってきていると感じる場面が増えている。一部地域ではオーバーツーリズムが顕在化し、人材不足、人件費や資材費の高騰、現場オペレーションの限界など、複合的な課題が重なり始めている。
観光は本当に、全国一律に「良くなっている」のか
重要なのは、こうした状況が全国一律ではないという点である。観光客が過度に集中しているエリアがある一方で、インバウンドをまだ十分に取り込めていない地域も少なくない。また、同じ地域であっても、時期や時間帯によって状況は大きく異なる。
こうした中で、いま改めて立ち止まって考えるべき問いは、「その地域にとって、観光とは何なのか」「観光によって、何を実現したいのか」という点ではないだろうか。
観光客が増えれば、地域全体が自動的に豊かになるわけではない。観光による経済効果を実感する人がいる一方で、混雑や生活環境の変化に負担を感じる住民が増えているのも現実である。現場では、観光に対する住民の受け止め方が二極化しつつあるという声も多く聞かれる。
この摩擦をどう減らし、観光を「歓迎され続ける存在」にしていくのか。その責任は、行政や地域住民だけに委ねられるものではない。観光産業に関わる事業者一人ひとりが、自らの立場で向き合うべき課題でもある。
「人が足りない」という声の、その一段奥にあるもの
現場でよく聞かれるのが、「人が足りない」という声だ。私自身、最近の取材や相談の場で、この言葉を耳にしない日はほとんどない。しかし、その背景を丁寧に見ていくと、「そもそも何をやめるかが決まっていない」という構造的な課題に行き着くことも少なくない。
たとえば、ある宿泊施設では、人手不足が深刻化する中で、受入客数や提供サービスを一度見直す決断をした。稼働率の最大化を追うのではなく、スタッフの持続性や現場負荷を優先し、業務内容を整理した結果、すべてが解決したわけではないものの、売上や満足度を大きく落とすことなく、運営の安定につながりつつあるという。まだ試行錯誤の途中ではあるが、「やめること」を決めることで、観光を続けられる形に近づこうとしている事例だ。
観光は、足し算で拡大し続けるだけでは持続しない。何を守り、何を手放すのか。その判断を先送りにしないことが、これからの観光産業には求められている。
4000万人時代に問われているのは、量ではなく設計だ
4000万人時代は、単なる数値目標の達成ではない。日本の観光が「量」から「質」へ、「成長」から「持続」へと本気で舵を切れるかどうかが問われる局面だと、私は考えている。
やまとごころとしても、今後は現場の声やデータに基づき、観光が地域にとって本当に価値ある存在であり続けるための論点整理と情報発信を、より一層強化していきたい。
観光は、地域や社会がどの未来を選び取るのかを映し出す鏡でもある。2026年が、日本の観光にとって「立ち止まり、考え、次の一歩を選び取る一年」になることを願っている。
著者プロフィール:
株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔
兵庫県神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。アクセンチュア株式会社を経て、2007年に国内最大級のインバウンド観光情報サイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、観光事業者・自治体向けに各種サービスなどを提供。内閣府観光戦略実行推進有識者会議メンバーほか、国や地域の観光政策に携わる。国内外のメディアへ多数出演。近著の『小さな会社のインバウンド売上倍増計画 』(日本経済新聞出版)をはじめ累計10冊出版。
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