インバウンドコラム
今年秋のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に「スポーツツーリズム」が今までにない盛り上がりを見せている。そんな中、九州ではソフトバンクホークスが外国人の集客を強化している。
訪日外国人専用シート「ハローシート」新設
そんな機運の2019年、ソフトバンクホークスは積極的に攻めに入った。3月29日の開幕戦から訪日外国人専用シート「Hello Seats」を外野席3塁側(レフト)に設置。最大100席を販売、専用の入場ゲートを設け、英語・韓国語・中国語に対応可能なスタッフを配置し、白と黄色の多言語による使用方法解説付き「ジェット風船」をプレゼントしている(※1)。販売は予約サイト「KLOOK」で行っている。
プロ野球に限らず、サッカーなどでも、外国人選手を登用すると、その選手の活躍をみる観戦ツアーが組まれたり、個人旅行商品が造成される。
私自身も2004年からロッテ、巨人、オリックスで活躍したイ・スンヨプ選手の観戦チケットを、韓国のオンライントラベルエージェント・九州路で悪戦苦闘しながら販売したのを垣間見てきた。また、台湾の旅行博や現地イベントなどでは、陽岱鋼選手が日本およびご当地へのプロモーションとして、フォーカスされていた。最近になって、現地のツアーアクティビティサイトやチケット販売サイトで複数のプロ野球チームのチケットが販売されている。
ソフトバンクでは、2015年まで在籍した、韓国のイ・デホ選手など話題の選手がいないなかでも積極的に取り組んでいる。
※1 ジェット風船の特典は日本国以外のパスポート、もしくは在留カードの提示が必要
外国人旅行者に向けての「ヤフオクドームツアー」
プロ野球の各チームは「バックヤードツアー」や「スタジアムツアー」などの名称で野球場の裏側をみせるガイド付見学を行っている。
ソフトバンクホークスでは、今までのコースに加え、さらに一歩踏み込んだ外国人旅行者向けのツアーを造成。英語、韓国語、中国語の通訳を帯同でき、旅行者の行動時間帯にあわせた設定がなされている。
帰国前にも参加できる朝8時45分スタートの「OHAYOUコース」、夜の時間を有効に使うことができる「OYASUMIコース」、「ドーム満喫コース」など、ブルペン・プレスカンファレンスルーム・ダグアウトを見学し、フィールドでの写真撮影や、ホークスビジョンを使った大画面の演出などを行っている。
加えて、ドームの屋根を間近に見学し、約30mの高さからドーム全体を見渡せる「アドベンチャーコース」が完成。参加者は桜をイメージしたオリジナルグッズがプレゼントされる。
申込みは専用サイトから英語、韓国語、簡体字、繁体字に対応している。
私自身も「満喫コース」と「アドベンチャーコース」を体験したが、どの場所もSNS映えする写真を撮影でき、ドームのトリビアを存分に知ることができる。日本人ガイドに各言語スタッフが同行する形で、外国人でも十分に楽しめる。
台湾、韓国を中心にしたプロモーション
外国人向けのチケットやドームツアーを販売して約4カ月。販売状況はどのような感じなのだろうか。
「ハローシート(観戦チケット)は、7月からの夏休み期間は定員の6割ほどが販売できています。台湾5割、韓国3割、その他中国、香港、欧米という構成比です。7月15日のチケット販売は、初の100名を超えました。特に日本ハム戦は王柏融選手の影響でしょうか。台湾に人気がありますね。ヤフオクドームツアーはまだまだこれからといったところです。ただ、専用シート以外でも外国人の姿をみかけることもあり、社内のスタッフも“インバウンド”を意識するようになりました」と2018年に創設されたインバウンド推進室の淵郁子さんは話す。
開幕時、台湾のyoutuberや韓国ブロガーを活用してシートとドームツアーのプロモーション、インスタグラムの広告配信を手がけてきた。
5月12~13日に台湾桃園球場で開催された台湾のプロ野球チーム「ラミゴモンキーズ」とパ・リーグパフォーマーの交流パフォーマンスイベントにあわせて、ソフトバンク独自で台湾のメディアを訪問し、数社のメディアで露出がなされた。
5月31日には隣接する商業施設「マークイズももち」と、台湾メディアを招聘したファムツアーを行い、ドームツアーや野球観戦、松田選手のインタビューなどを行った。
6月中は、ハローシートの外国人ゲストが、ドーム7番ゲート近くにあるソフトバンクのマスコットキャラクター「ふうさん」の巨大椅子の写真や、試合中の風景の写真や動画などをSNSで拡散してくれた場合に、限定グッズ(ふうさん貯金箱、2018チャンピオンリング)をプレゼントするキャンペーンを行った。
毎回8割ほどの外国人ゲストがこのSNSキャンペーンに参加し、開幕7試合目にあたる6月14日には、用意していた限定グッズ300個がすべて配布し終わるほどに拡散できた。着実に口コミで広める方策が功を奏した形だ。
6月1日には、韓国プロ野球界のレジェンドで、今年からファームのコーチ陣を指導する「コーチングアドバイザー」に就任したキム・ソングンさんのファンクラブメンバー対象のツアーが開催された。ハローシートで一緒に野球観戦した後、グラウンドに降り、ビジョンを利用してのウエルカム、懇親会と参加者は感激しきりだったという。今後このレジェンドにフォーカスした仕掛けも考えている。
6月下旬には、韓国のなかでも特に福岡との直行便、船便が多い釜山エリアで、現地旅行代理店向けのプロモーションを実施。その結果、キム・ソングンさんのツアーも手掛けた観光kのランドオペレーター「ツアー・クラシック」が旅行商品を造成するなど、団体旅行商品にも弾みがついた。
「野球」だけでなく、エンターテインメントとして通年楽しめる施設に
台湾、韓国は野球が人気のスポーツとして注目され、プロもある。しかし、その他の国では野球が一般的ではなく、ルールや楽しみ方がわからない人も多い。実際に私もベトナムや中国、ネパールの留学生を野球場へ連れていくと、「とてもきれいな施設ですね」と感心するものの、「なぜ右(一塁)へ走るのですか」などの質問が相次ぎ、複雑な野球のルールを説明しても、なかなか理解は難しかったのを思い出す。
ヤフオクドームでは誰もが楽しめるエンターテインメントビルの建設が2020年春オープンを目指して進んでいる。Major League Baseball(MLB)から公認ライセンスを許諾されたエンターテイメントレストランや外国人旅行者も楽しめる最先端のデジタル技術やVRなどの体験型アトラクション、王貞治ベースボールミュージアムなどが展開される予定。この空間では、野球自体に興味がなくても、存分に楽しめる構成になっている。
2019年の外国人向けの取組は、「このエンタメビルへの布石であり、ヤフオクドームの認知度を上げる最初のステップ」(インバウンド推進室)だそう。
ヤフオクドーム単体ではなく、近隣の商業施設やホテル、外国人に人気の福岡タワーなど福岡のシーサイドエリアが通年で楽しめることを周知し、リピーターを育てるための地域携も計画があり、今後の動きにも期待できそうだ。
(株式会社やまとごころ九州支部 帆足千恵)
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