インバウンドコラム
9月20日に開幕したラグビーワールドカップ2019(以下、RWC2019)。日本は格上のアイルランドやスコットランドを相手に勝利をおさめ、プール1位で決勝トーナメントに進出。決勝トーナメント初戦の南アフリカ戦で敗退したものの、感動的なプレーは日本中に感動の渦を巻き起こし、国内でも大きな盛り上がりを見せた。
RWC2019は全国12都市で開催されたが、九州地区では福岡、大分、熊本の3会場が選ばれ、各地域でさまざまな準備をして対応してきた。今回はその様子をレポートする。
開幕直後から急激に盛り上がるラグビー熱
福岡はもともと少年ラグビーも盛んで、日本代表の福岡堅樹選手を輩出した福岡高校や東福岡高校をはじめとしてラグビー強豪の高校も多いことから、関係者の間では注目度も高かった。福岡県内のラグビーファン及び関係者が運営する、店舗や施設・企業を紹介する地域情報サイト「Fan Fun Find RUGBY MAP」も立ち上がっていた。それ以外にも、1年以上前から博多駅前広場で大型ビジョンをみながらラグビー選手やOBがルールを解説するなどで事前イベントも行っていた。しかし、盛り上がりにはいまひとつ欠けていたように思われる。
そんな中、開幕直前に福岡市内に歓迎フラッグや大型のビジュアルなどが掲示され、日本が開幕戦から快進撃を続けると、ラグビーのノーサイドの精神や素晴らしさが伝わって、一気に熱をおびた。10月20日の南アフリカ戦で日本が敗退後も、多くの人が魅力を語り合っている。さらに、九州各都市の市民の気持ちを高揚させたのは、今までにみたことのない欧米系の外国人旅行者の姿だ。
▲福岡市川端通商店街で掲示される大きなフラッグ
今までになく姿を見かけるようになった欧米豪系旅行者
ご存知のように、九州の外国人入国者数は韓国からの入国者数が半分程度、中国、台湾、香港、東南アジアで90%以上を占め、欧米豪圏からの入国が極端に少ない。
だが、福岡、熊本、大分で試合が開催されるようになると、欧米系の旅行者の姿が多くみられるようになった。2012年に福岡で開催された世界中の35歳以上のラグビー愛好家による国際大会「ゴールデンオールディーズラグビー」、2016年のライオンズ国際大会の際もここまではなかった。
実際に10月2日の博多の森球技場で行われた「フランスVSアメリカ」戦の会場では、両国だけでなくイタリアやイギリスなどのヨーロッパからの旅行者の姿も目立った。会場の4割近くが欧米系の外国人のように思われた。
▲日本vsスコットランド戦が行われた10月13日17時頃の博多駅ファンゾーン
パブリックビューイングを行う博多駅前広場に開設されたファンゾーンでは、日を追うごとに入場者も外国人も増えてきた。10月12日の「アイルランドVSサモア」戦では、上からみるとアイルランドのチームカラーである緑一色に埋め尽くされた。日本が8強入を決めた10月13日のスコットランド戦の際には、入場規制がかかり、長蛇の列ができた。
9月28日の熊本市中心部のファンゾーンは、歴史的な勝利を収めた「日本VSアイルランド」戦ということもあって、ほぼ満杯になった。
▲日本vsアイルランド戦が行われた9月28日の熊本市中心部のファンゾーン
ここではファンゾーンの収容人数について考えてみたい。
博多駅前のファンゾーンは1300人、熊本は約3500人、大分は駅近くに設置された2カ所のファンゾーンで約6600人がキャパシティーとなっている。
大分ではこのほか、駅前広場やアーケード街をうまく利用し、テレビにスピーカーをつけ、座って観ることができる場所もいくつか準備された。
それと比べると、明らかに博多駅のファンゾーンは狭かったのではないかと思われる。ここで外国人旅行者と地元との交流が生まれやすいことを考えると、もう少し広いスペースの確保が必要だったのではないか。
ラグビー開催に向けた交通動線と案内の取組
試合会場へは、九州のどの会場も周辺で交通規制を行い、公共交通機関やタクシーを利用のうえ、シャトルバスや徒歩で向かうようになっており、試合回数を増すごとに混雑が解消されていた印象がある。
福岡では、地下鉄の福岡空港駅の構内や空港内で案内スタッフが稼動。福岡空港駅からのシャトルバスでの待ち時間が15分ほどになることもあったが、試合時刻が近づくにつれ解消された。会場周辺では、ボランティアスタッフが歓迎の挨拶をしながら案内を行い、帰りにはハイタッチをしながら見送るシーンもあった。外国人旅行者も喜んで応じている人も多かった。
一方、大分でも大分駅前からシャトルバスが運行されたが、試合前より試合後の道路の混雑状況がひどく、スタジアムから大分駅に向かうシャトルバスの運行が深夜にまで及んだこともあったという。しかし、市民も車ではなく公共交通機関やバスを利用するなど徐々に改善がなされていったそうだ。
期間限定の観光案内所や情報案内は可能な限りの取組がなされていた。試合の前日からは福岡空港構内や地下鉄駅の各所で、臨時の観光案内所が開設された。博多駅前広場には9月20日から10月13日まで「博多駅おもてなしステーション」として、観光案内所や福岡のコーヒーショップ、九州のビールを提供するバーなどが常設された。
観光案内所には準備された行政や民間が発行するMAPや情報誌が並んでいた。あわせて福岡市の観光情報サイト「よかなび」や、福岡の外国語情報誌「Fukuoka Now」でも特設ページが開設され、飲食店の情報なども掲載された。実際に、外国人旅行者がどのようにこれらの情報を利用したのか、これから分析と共有を重ねていくことになる。
▲左:博多駅前の「博多駅おもてなしステーション」 右:福岡市や商工会議所、民間などがさまざまな情報MAPを制作。訪日客にどのくらい届いているのか
訪日客に「楽しんでもらうために」みえてきた課題
各エリアで国内外の旅行者に地域の魅力を楽しんでもらおうと数多くの施策やプロジェクトに取り組んできた。
九州全体では「祭りアイランド九州」を開催。9月28~29日に熊本市での九州各地の祭り集結をスタートとして、各地の祭りを周遊してもらおうという企画だ。(10月7日公開の記事「ラグビーW杯に湧く日本列島。海外からのラグビーファンも日本各地へ」でスコットランド人が訪問したのがこのことと思われる)
福岡では、通常11月上旬に開催している、博多駅周辺の寺社仏閣を期間限定でライトアップするイベント「博多旧市街ライトアップウォーク」を、ラグビーの開催期間にあわせて10月11日〜14日に行った。
▲左:9月28日に熊本市中心部で開催された祭りアイランド九州 右:博多旧市街ライトアップウォーク2019の東長寺。外国人客も多く訪れた
このように開催期間にあわせて、祭りやイベントを行うことも多かったと思われる。事前に情報が届き、楽しんでもらえたらと願うばかりである。
ラグビーW杯日本大会の期間中は、博多駅周辺の寺社仏閣エリア、大濠公園周辺エリアで、地図を片手にのんびり散策する外国人旅行者を多くみかけた。
看板による多言語の観光案内などもあるが、本当に見どころである部分をみてもらえているか気になる(声をかけられる人にはかけたのだが)。定点でのガイドを設置して、そのスポットの魅力を案内してもらえるといいのではないかと感じた。
飲食店情報の発信や告知なども改善の余地あり
「ビールをはじめアルコールの消費量が多い」などの欧米系の飲食に関する嗜好性に対し、飲食に関するさまざまな準備もなされてきた。大分駅の商業ビルの一部の飲食店では試合当日は朝5時までの営業延長を行っていた。旅行者の利便性にあわせた素晴らしい取組だと思われる。福岡市中心部のクラブラウンジに「200名のフランス人の予約が入っている」と団体予約の話もあちこちできかれた。
先述の情報誌やHPでも多くのウエルカムなパブや飲食店が紹介されているが、やはり食事処を探すのに苦労したという話もきいた。
実はラグビーのアメリカチームが福岡に滞在時に「40人程度での食事処を探している」との相談がコーディネーターをする知人伝えに入った。釣り堀のある居酒屋などいくつかアドバイスを伝えたが、「魚メニュー中心だと食べられない人も多い」ということから、最終的には、福岡発祥の居酒屋で食事をすることになった。実際に足を運ぶと「美味しかったよ」と喜んでくれていたが。
相談できる窓口はいくらでもあるのだが、「ここに相談したらいいよ」という情報はなかなか届いていないのかもしれない。
福岡のパブで遭遇したアイルランド人は、4週間かけてキャンピングカーで日本をまわっているという。
10月19日に福岡で会ったフランス・オルレアンからきたカップルは、レンタカーを借りて2週間まわっている最中とのこと。自国の試合をすべてみることは難しいので、観戦前後はかなり長い旅をしてくれているようだ。
今回のワールドカップを機に来日した外国人旅行者がどのように動いているのか、調査や分析が待ち遠しいところだ。実態の把握から東京オリンピック・パラリンピックやスポーツイベントの準備につなげたい。
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