インバウンドコラム
博多の情緒漂う川端商店街を埋め尽くす海外からの外国人客。
10月1日に開催された第32回国際泌尿器科学会の交流会「SIUナイト」の一幕だ。
福岡に限らず、日本の各都市は世界を相手に大きな学会やコンベンションの誘致にしのぎを削る中、開催の決め手になったのはこのパーティーの実現だった。
MICE誘致だけでなく、プレスツアーや商品造成用のエージェントツアーにおいても、成功の秘訣は「ターゲットの声をきく」「下準備」とシンプルで当たり前のことではないだろうか?
目次:
1.「博多のまちを感じてパーティーをしたい」
主催者の希望に応じて決定した学会誘致
2.1700人の外国人を含む2000人が参加した「SIUナイト」
3.刻々と変わる状況の中で「ターゲットが望むもの」に寄り添えているのか?
1.「博多のまちを感じてパーティーをしたい」
主催者の希望に応じて決定した学会誘致
「第32回国際泌尿器科学会総会」は、9月30日~10月4日に福岡国際会議場や、福岡サンパレス、福岡国際センターなど福岡市のコンベンションゾーンにおいて、93カ国約2800名(海外1700名)の研究者が参加した。
日本で開催されるのは1970年以来2回目だという。
開催都市を決定したのは平成21年。当時、私は福岡観光コンベンションビューローに在職していたので、誘致部の担当が「決定しました!」と勝利の声をあげたときのことを鮮明に覚えている。世界の他都市が名乗りを挙げるなか、決め手になったのは当時の会長が視察した際のひと言だった。
学会誘致の際には、主催者による候補都市の視察が行われる。本部事務局(カナダ・モントリオール)が福岡で会議場をはじめ各エリアを見てまわっている際に、「博多川端商店街」を見て、
「こんな日本らしい、博多ならではの情緒が味わえるところでアフターコンベンションのパーティーができないか?日本の生活や文化に親しみたい」
と持ちかけられたという。
もちろん2000人規模のストリートパーティーなど今まで例がないことで、福岡市側の担当者は博多川端商店街に相談。「何とかしてみよう」という回答を本部事務局に伝え、3年の月日が過ぎ、開催に至った。
博多祇園山笠のある7月には飾り山もたつ歴史ある博多川端商店街。 博多の総鎮守・櫛田神社から明治通りまで400m、約250店が軒を連ねる。仏壇店や博多人形店、服飾店など老舗が多い
2.1700人の外国人を含む2000人が参加した「SIUナイト」
受付で会場マップや内容を示したブックレットと交流会参加者であるリストバンドをつける
本学会のアフターコンベンションパーティー「SIUナイト」は、日本泌尿器科学会、福岡市、川端商店街が主催で、公共性のあるイベントととらえ、市民レベルでの交流事業として実施された。10月1日19時~21時に、川端商店街、櫛田神社などを会場として、約2000人(うち海外からの参加者1700人)が、博多の夜を楽しんだ。
福岡市は那珂川を挟んで東を「商人の町・博多」、西を「武士の町・福岡」と表現するように双子都市として発展。会場が位置する博多エリアは、12世紀ころから博多は中国貿易の中心となり、15世紀からは博多商人の隆盛により栄えた背景を持つ。今ある古い寺社や昔ながらの商店街はその歴史を現在に伝えている。その地域全部を使って、「博多らしさ」と「日本の生活」を味わってもらおうという趣向だ。
各ホテルから無料シャトルバスが出て、今は使われていない旧冷泉小学校校庭で乗降を繰り返す。このバス以外に徒歩や交通機関で来場した参加者は、旧冷泉小学校校庭と櫛田神社、川端商店街の3箇所で設置された受付で、フリーパスの目印となるリストバンドとブックレットを受け取り、エリアを自由に歩いて楽しむ。ブックレットには軽食5個、ドリンク3個、お土産1個のスタンプ欄があり、その範囲は無料で利用できるようになっている。櫛田神社は有名な博多祇園山笠の追い山が行われる博多の総鎮守。受付や博多芸妓である博多券番や伝統芸能のステージもあり賑わった。参拝の仕方を教えるボランティアスタッフに従って、祈願する参加者も多数いた。
シャトルバスは小学校校庭に、受付や会場では着物で案内するスタッフも(左)
「博多券番」といわれる芸妓集の舞など興味深く観覧する参加者も多い(右)
川端商店街では、協力店で軽食やドリンク、お土産の提供、縁日コーナーで輪投げやヨーヨーすくい、中央ステージでは日本芸能の披露が行われた。通路の中には、「ばんこ」と呼ばれる椅子を置き、休憩ができるようにも工夫。参加者にインタビューすると
「とにかくファンタスティック!こんなお祭りに参加できるなんて楽しい。どれにするか迷ってしまう」
と笑顔で答えてくれた。これらフリーの提供物はコンベンションオーガナイザー側で商店街中の協力店から買い取っている。このようなサイン看板で内容を説明(左)
いつまでも長蛇の列ができていた「たこ焼き」のコーナー(右)しかし、該当店舗以外にも営業している店にも客が入り、有料で飲食やショッピングをしている参加者も多かった。苦労は多かったはずだが、賑わいを創出し、活性化につながっていくだろう。
博多の伝統工芸や昔の暮らしをみせていく「博多町家ふるさと館」では、浴衣・着物着付けと博多人形師指導によるマグネット博多おはじき制作が行われた。博多伝統工芸実演が行われている展示棟も無料で入場でき、参加者は日本文化体験を楽しんでいた。
博多人形や博多織を展示する「博多伝統工芸館」はシャトルバス乗降場の旧冷泉小学校に近く、多くの参加者で賑わった。ジャズコンサートを聴きながら、“和の夕食”を楽しむことができた。
「どこに何があるか誘導がわかりにくかった」「ベジタリアンフードが少なかった」「ハラルフードがなかった」などもちろんいくつも反省点はあるが、参加者はおおいに満足して福岡の夜を楽しんでいたようだ。
もちろん、これだけの大掛かりな交流会開催は、コストも人もかかる。だが、福岡市にとっては、今秋開催される大規模な国際会議・大会4件への開催支援のスタートとして注力したといえる。
この後には10月12日~14日「第4回国際ユニヴァーサルデザイン会議2012」、10月28日~11月4日には、35歳以上の世界ラグビーの大会「第19回ゴールデンオールディーズ・ワールドラグビーフェスティバル」、11月8日~11日には、約20000人の参加者が見込まれる「第51回ライオンズ東洋東南アジアフォーラム」と控えていた。海外からの参加者も1万人以上になる見込みだ。そのためにさまざまな「おもてなし」体制づくりの強化を行った。
福岡空港や博多駅での歓迎表示や歓迎バナー掲示、コンベンション開催前日、当日の臨時案内所の設置、外国人歓迎の店を示す飲食店などをまとめた飲食店ガイドブック作成などの「歓迎演出」おもてなし事業、そしてボランティアやサポーターによる「語学サポート」おもてなし事業のふたつだ。
特に、今回は福岡市が募集し研修を受けた英語を中心とした「語学支援ボランティア」を配置。74名が各コンベンションにおいて運営を補助する各種通訳補助を行い、今回を皮切りに4つの大型コンベンション開催期間に延べ300回ほど活動する予定だ。福岡市が主体になり、(公財)福岡観光コンベンションビューローが運営、管理を行っている。
●福岡地域戦略推進協議会:http://www.fukuoka-dc.jpn.com
●Friendly Fukuokaキャンペーン:http://www.fukuoka-dc.jpn.com/jp/
やはり、これらの多くの福岡市民の巻き込みがなければこのような「まち」を舞台にしてのおもてなしは成功しにくい。福岡市という都心部がコンパクトにまとまった都市という利点もあるが、宿泊施設&商店街や地域レベルで取り組むことができる事例ではないだろうか。
福岡市のコンベンション支援制度は(公財)福岡観光コンベンションビューローのホームページで詳しく紹介されている。
●コンベンション支援制度:http://www.welcome-fukuoka.or.jp/convention/39.html#l
3.刻々と変わる状況の中で「ターゲットが望むもの」に寄り添えているのか?
今回は、3年前の視察で相手が希望した「日本文化、博多の生活」に親しむ時間を創出したことが決めてとなった。MICEをはじめ、インバウンドにおいて重要な「ターゲットが望むもの」を把握し提供できているか、改めて振り返りたいと思う。
私自身15年ほど前には、福岡のタウン誌の中で、海外中心の旅行情報誌を制作していたので1ヵ月半に1回は海外へ取材旅行に出かけた。政府観光局や航空会社からの招待や広告出稿がほとんどで、今日本の自治体を中心に行っているプレスツアーに呼ばれていた形になる。そこで多くの「こうしてくれたらいいのに」「これは日本人には受けないなあ」に遭遇していた。
平成21年~24年3月までの福岡観光コンベンションビューロー在籍時代を中心として、逆にプレスやエージェントを招待し、地域の魅力を伝える立場になった。限られた予算の中で最大の効果をあげたいと思う気持ちはわかるが、逆に相手のモチベーションを下げたり、掲載や実施が難しいなど逆効果なことにも生じていた。両方の立場を経験してこそいえるポイントは以下のようなことだ。
①プレス(メディア)なのか、商品造成のためのエージェントツアーなのか
ターゲットはセグメントするほど成功する
「ターゲットの明確化」は招聘旅行に限らず、インバウンド全般にわたって重要なキーだ。
プレスの場合は、個人旅行者(もしくは個人行動)を対象として、オピニオンリーダー的に「半歩や一歩進んだ編集部おすすめの穴場スポット」的な情報を発信したい場合が多い。
エージェントは行程やモデルコースに無理のない中で、アクセスもいい店舗やスポットを把握したいし、あるいは宿泊施設や商業施設と直接面談できる時間もほしい。
両方を一緒に呼び、同じ行程でまわる招聘事業が多々あるが、できれば同じエリアでも別グループにする、自由行動時間をもうけ、各チームそれぞれにアテンドをつけるなど目的を達成できるような方策をとりたい。
②できれば代表者かコーディネーターによるロケハンもしくはコース視察をする
MICEではよくあることだが、招聘事業では招待するグループや人数を多くするために省かれることが多い。当たり前のことだが、志向性や心に刺さるイメージはターゲットごとに違う。「日本で流行っているモノ、コト」は知りたいが、見せ方は異なってくる。
特に、テレビ、雑誌では見せるビジュアルが大事で、どんな風に撮るか、どれくらい時間がかかるのかは事前に調整できていると本番もスムーズだ。アテンドするスタッフも職員の場合がほとんどだが、日本と相手の双方の事情を理解するコーディネーターを利用すると効果はぐんとあがると思う。
③地域連携の場合は、自分の地域のスポットを頭割りで提案するだけではNG
一貫して流れるストーリーを作ろう
これは複数の地域連携観光プロモーションの際によく見られる残念な事例である。「お金を出したのだから、それ相応の時間をとってまわってほしい」と思うのは当然のことである。
しかし、相手方の視点にたつことをいつも忘れないでほしい。
“この日はAエリアで1日、次はBエリアでネタを出す”というのは最初の作業。集めたものを俯瞰して、設定のテーマにあったストーリーを作ることが肝要で、招聘先と相談をしながら編集をしていこう。
④状況に応じて、柔軟に対応する
本サイト「やまとごころ.jp」の下川裕治氏のコラム「第34回 ピントがずれている日本のインバウンドPR戦略」にあるように、今の状況は「円高」が障害だったりする。
予算や計画を策定するのが半年以上前のこともある。実施のときに本当に求められることは何か、相手と常にコミュニケーションをとりながら把握していくことは簡単なようでできていない。特に、いまのように政治的状況が大きく左右し流動的なときこそ、寄り添い方が重要なポイントである。変更できる部分は柔軟に対応していこう。先方が求める情報発信など自前でできることは全力を尽くして行いたい。
「Wi-Fiスポットはどこ?」「外国人受け入れ歓迎で特典のある郷土料理店」「この地域ならではのスイーツ」など、こちらの努力で提供できる情報は意外に多いものである。
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