インバウンドコラム

インバウンド富裕層との親和性が高いゴルフツーリズム、いち早く着手した三重県の一線を画す取り組みとは?

2019.07.23

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6月28日に日本ゴルフツーリズム推進協会が開催した富裕層xゴルフツーリズムセミナー。第1部は、日本政府観光局(JNTO)が「富裕旅行市場の解明と攻略の手がかり」と題した基調講演を行った。第2部では「加速する日本のゴルフツーリズム〜三重県の戦略から今後の取り組みを考える〜」と題したパネルディスカッションが開かれた。

2018年10月、ゴルフツーリズム業界で最も権威ある世界団体「国際ゴルフツアーオペレーター協会(IAGTO)」が主催する日本初となるイベント「日本ゴルフツーリズムコンベンション(JGTC)2018」 が三重県で開催され、欧米豪を中心とした参加バイヤーから非常に高い評価を受けた。三重県がゴルフツーリズムに本格的に取り組み始めてからわずか3年で、世界的な一大イベントを実現できた背景にはどんな戦略があったのか。現場担当者だからこそのエピソードを交えて、(一社)みえゴルフツーリズム推進機構の鈴木氏が語った。

【パネリスト】
 小島 伸浩 氏  津カントリー倶楽部 取締役副社長
 遠藤 正 氏   北海道大学 観光学高等研究センター 客員教授
 鈴木 志づほ 氏 一般社団法人みえゴルフツーリズム推進機構
 ファシリテーター:村山 慶輔 氏 株式会社やまとごころ 代表取締役

 

韓国のゴルフマーケット規模の大きさを目の当たりにし、ゴルフツーリズムを観光戦略の柱に

三重県では、海外市場において知名度が低く、インバウンド誘客のための三重らしいコンテンツは何かを模索していた。温泉、自然、グルメと訴えても、日本中どこも一緒で差別化できない。そんななか、県の海外誘客担当課の一員として韓国の旅行会社へ営業に行った鈴木氏は、ビル丸ごと一棟がゴルフツーリズムの担当部署だと紹介され衝撃を受けたそう。

海外におけるゴルフマーケットの大きさを目の当たりにしたのをきっかけにゴルフに注目。当時、ゴルフでインバウンド誘致を謳った日本の自治体はなく差別化できると感じ、官民一体の「みえゴルフツーリズム促進部会」を2015年に発足させた。同じ年にIAGTOに加盟、三重県知事がタイのパタヤを訪問したことをきっかけに、パタヤとのゴルフツアー交流が始まった。

この戦略を北海道大学の遠藤教授は「観光戦略として”選択と集中”の好事例」と強調。通常、行政が主体となる事業は様々なケースを考え、慎重に進めるのが一般的だが、三重はとにかくスピードが早い。小島氏も「鈴木氏は施策を実施しながら修正するというスタンスだった」と当時を振り返る。「同じくゴルフツーリズムを推進している北海道では、インバウンド誘致に前向きなゴルフ場が主体となって協会を運営しているが、三重県は県が主体となって官民一体で進めたのが大きく違う。予算取りや企画を推進する上でも、行政も運営に拘わるほうが、特に最初の2~3年は推進力となる」という。

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パタヤとのゴルフツアー交流を通じて、ゴルファー受入れのノウハウを蓄積

三重におけるゴルフツーリズムの取組は、インバウンド誘客のための多言語パンフレット制作や、商談会への参加など一般的なアプローチ方法とは一線を画し、タイ・パタヤとの100名規模のゴルフツアー交流を始めたという点が特徴的だ。鈴木氏は「一番の課題は県内のゴルフ場との関係構築だった」と振り返る。

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そもそも行政とゴルフ場は接点が少ない。そこで、パタヤとの交流事業は、三重県ゴルフ連盟に人選と帯同をお願いした。当初はインバウンド受け入れに前向きなゴルフ場にだけ参加してもらっていたが、毎年100名規模のパタヤゴルフツアーが来日することで県全体に受け入れが広がった。

と同時に海外ゴルファーを受け入れるために必要なノウハウがそれぞれのゴルフ場でも蓄積されていった。国内メディアにも取り上げられる機会が増え、交流事業が広く県民にも知れ渡るようになってからは、ゴルフ場以外の施設でも、パタヤからのツアー来県を地域全体で歓迎するムードが広がっていった。タイの人は表情が穏やかで、インバウンドに対する県民のイメージも好意的になったという。

実際にゴルフ場に立つ小島氏も「インバウンドゴルファーはマナーが悪いというイメージは先入観であって間違い。数年後にはゴルフ場としてインバウンド客を受け入れることが一種のステータスになるのではないか」と話す。

 

行政目線で大切なことは、健全に継続可能な施策に取り組み続けること

鈴木氏は「行政と民間では同じものを見ているようで、実際には見ている目線が違う」と話す。

例えば観光バス1台に補助金を出し、期間限定の格安ツアーで集客しても、価格を魅力に感じて来るような人たちは、補助金がなくなれば訪れなくなる。民間にとっては、集客出来ればよいと思っていても、行政にとっては、一時的な効果で終わるような施策は実施すべきではないと判断する。行政目線では、健全な継続と、民間事業者による独り立ち。民間や行政の立場を超えて、長い目で見た時に、「地域にとって一番良いことは何か」という目線で連携できれば施策の実現度が増す。

遠藤氏も「ゴルフ場主体での協会運営だと、各ゴルフ場の経営戦略の思惑もあり、分析できるような数字をなかなか出さない傾向にある。周りから見ると『内輪』でやっていることが、『地域でやっていること』に一段ステージが上がると取り組む姿勢が変わってくるのでは」と共感を示した。

 

 

富裕層向けのサービスや仕組み作りで、ゴルフを通じたインバウンド消費アップを!

小島氏は、ゴルフツーリズムのマーケットは今後も成長の余地があると見込んでいる。「重要なのは富裕層が憧れる各地域の名門ゴルフ場+周辺のゴルフ場をセットにして、長期滞在でプレイを楽しんでもらうことだ」とゴルフ場同士の連携に期待を寄せた。

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一方、遠藤氏はインバウンド消費額をアップさせる仕掛けが必要だと説く。例えば、外国人旅行者にスキーで人気のニセコでは、リフト券の値段がここ数年5000円止まりで値上げはなかなかできない。リフト券以外でどう地元で消費してもらうか。例えば、スキーアイテムのレンタルに富裕層向け高級モデルを投入したり、プライベートレッスンを1時間1万円などの高価格帯で提供するなど、スキー関連サービスの充実を図ることで一人当たりの消費単価を上げる工夫をしている。富裕層が体験したくなるようなサービスの提供、仕組みづくりがゴルフにおいても必要になってくると解説した。

富裕層をターゲットにしたゴルフツーリズムを推進することで、ゴルフ場のみならず地域の活性化、観光消費額のアップが図れるメリットがわかり、今後のインバウンド戦略に役立つセミナーとなった。

 

【開催概要】
インバウンド富裕層マーケットを知る!富裕層×ゴルフツーリズムセミナー
主催:一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会
日時:6月28日(金) 15:15〜16:45
会場: 東京都中央区八重洲1-2-16 TGビル本館 3F TKP東京駅日本橋カンファレンスセンター ホール302

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