インバウンドコラム
政府は2020年にインバウンド客数4000万人、インバウンド旅行消費額8兆円という目標を掲げており、消費額達成には滞在期間の長期化や体験型コンテンツの充実が課題とされている。
そんななか、今年1月に開かれた政府の観光戦略推進会議では、有識者からゴルフツーリズムの提案がなされた。滞在型かつ体験型であるゴルフツーリズムは通常の旅行者よりも支出が2倍以上と多く、旅行消費額アップにつながる有望なコンテンツと言える。
今年3月には観光庁主催でインバウンドゴルフツーリズムセミナーも開催され、少しずつ盛り上がりを見せるゴルフツーリズム。今回は、日本ゴルフツーリズム推進協会(JGTA)が6月28日に開催した富裕層×ゴルフツーリズムセミナーの様子を2回に分けてレポート。1回目は、日本政府観光局(JNTO)による基調講演「富裕旅行市場の解明と攻略の手がかり」の内容をお届けする。
全旅行者の1%の富裕層が13%もの消費、その額は4.7兆円に
JNTOの市場横断プロモーション部長の伊東和宏氏によると、一般に富裕層とは「資産額が1億円以上」と定義される場合が多いが、JNTOでは、飛行機代を除く「1回の旅行で1人100万円以上の消費をする層」と位置付けている。富裕層が海外旅行市場に与える影響は大きく、米豪及びイギリス・フランス・ドイツの5市場をみると、全海外旅行者の1%の富裕層が、現地の消費額全体の13%に当たる約4.7兆円を消費している計算になるという。

▲富裕層による旅行消費は4.7兆円、現地での消費全体に占める割合は13%にのぼるという(JNTO資料より)
調査結果から見える、富裕層旅行者の2つのタイプ
そんな富裕層は旅行中にどのような行動や消費をしているのだろうか。JNTOが2017年に行った富裕旅行調査によると、大きく分けて衣食住すべての面で最高級を志向する従来型の「Classic Luxury」と、単なる贅沢よりも本物の経験を志向する「Modern Luxury」の2つの富裕層タイプが存在すると伊東氏はいう。それぞれに旅行スタイルの特徴があり、Classic志向は5つ星ホテルに3つ星レストラン、飛行機はビジネスクラス以上と旅行に関わる全ての項目で高額消費をいとわないAll Luxuryタイプ。一方、Modern志向は、ホテルは5つ星を好むが飛行機はエコノミーでも構わないといったように、自分にとって優先度が高いものに重点的に投資するSelective Luxuryタイプと解説した。欧米豪市場の中でもアメリカを中心に20代~30代のModernでSelectiveタイプの富裕層が増加傾向にあるという。

▲富裕旅行者の志向には大きくClassic型とModern型の2つがある(JNTO資料より)
富裕層が求める観光コンテンツ作りに抑えておきたい7つの指標
富裕層にも新旧さまざまなタイプが存在し、多様化する中で、どのような旅行コンテンツならば富裕層を取り込めるのか。単に料金が高額かどうかだけでなく、富裕層のニーズに応えたものになっているか見極めが必要となってくる。そこでJNTOでは国内外のヒアリング調査に基づき、3つの評価軸とそれぞれに対応する7つの評価指標を示した。評価軸は「コアバリュー」「バリュー提供の工夫」「商品性」の3つ。1つ目の「コアバリュー」では、1.日本ならではの価値、2.他にはない価値かどうかで評価する。「バリュー提供の工夫」では、3.価値に精通したプロフェッショナルによる体制・対応、4.融通が利く体制・対応があるかで評価する。「商品性」では5.たやすく手に入らない、6.高価である、7.世界的な格付けがあるかどうか、で評価するといった具合だ。一例として、一般的な陶芸工房体験と美術工芸品である日本刀鍛冶場体験を7つの指標で評価比較したものを掲出。同様にホテルや飲食店についても7つの指標を基に、富裕層向けの観光コンテンツとして魅力的であるか比較検討することが可能だ。
富裕層旅行が数年後のマス層のトレンドにもつながる
富裕層旅行を取り扱う最大のメリットは次の旅行トレンドを生み出す原動力となる点だ。一部の富裕層に人気になった食べ物や体験が、一般のマス層の憧れとなり、数年後には広く世の中に普及するという現象は定石だ。その逆の流れは存在しない。②他にはない価値、⑤たやすく手に入らない、など富裕層向けの観光素材を整備することで、ひいては数年後の旅行トレンドを作り出すことにつながる。また、料金についても言及。日本では、安くすることが良いサービスだと考えているが、⑥高価であるという指標にもある通り、世界のスタンダードでは、良いものは高価なのが当たり前。地元在住の日本人と外国人の料金が違っても当然と考える。
JNTOのWEBサイトでは新たにラグジュアリー専用のページを開設し、今後はドバイをはじめとする中東地域、次に中国の富裕層マーケットに注力したい考えも示した。
オリパラ控え地方誘致が今後のカギに、ゴルフを通じて富裕層の地方誘客を促進
2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えている。特に大会期間中、一般の観光客はホテル高騰のため東京を避けたり、訪日そのものを控える傾向が出てくると予想され、インバウンド客をいかにうまく地方へ誘導するかがカギとなる。
最後に伊東氏は「JNTOが推進するスポーツツーリズムの中には、ゴルフも含まれる。富士山を見ながらゴルフできたり、珍しい地元の食材をランチで食べられたり、ここでプレイして楽しかったと富裕層自身にSNSでその場で発信してもらうなどの工夫も必要。富裕層の7割はゴルフ経験者と言われ、富裕層とゴルフの相性もいい。ゴルフツーリズムを活用して官民一体となって、インバウンド富裕層の地方誘客を促進したい」と締めくくった。
次回は、富裕層誘客に親和性が高いとも言われるゴルフツーリズムによるインバウンドゴルファーの取り込みについて、官民連携でいち早く取り組んだ三重県の事例を紹介する。
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