インバウンドコラム
観光におけるサステナビリティは、欧州を中心に“持続可能であることの証明”が求められる動きが強まり、理念から実装のフェーズへと移行しています。本セッションでは、「認証」をテーマに、観光地マネジメントにおける実践的な活用方法が議論されました。
登壇したのは、Green Destinations財団エグゼクティブディレクターのヤーナ・アピ氏。欧州およびスロベニアの事例をもとに、認証制度の役割と実装の実態について解説しました。聞き手およびディスカッションは、一般社団法人JARTA代表理事の高山傑氏が担いました。

制度設計と現場を横断する実務家が示す協働の本質
Green Destinations財団のエグゼクティブディレクターを務めるアピ氏は、スロベニアのサステナブル観光機関「Good Place」の運営にも携わっています。さらに、認証取得地域のネットワークや旅行事業にも関与するなど、制度設計と現場実装の双方に関わる立場にあります。
観光におけるサステナビリティについて同氏は、「サステナビリティは、関係者がともに取り組む“共同のプロセス”です」と述べ、持続可能性は関係者が共に進めるプロセスであり、その実現には取り組み主体同士の連携が不可欠であると強調します。
国際認証と事例共有で観光地の持続可能性を支える取り組み
Green Destinations財団は2014年に設立された非営利団体で、観光地の持続可能性を評価・支援する国際的な認証プログラムを展開しています。主な取り組みは大きく3つに整理されます。
第一に、GSTC(国際基準)に基づく認証制度の運営です。環境、文化、社会、経済といった観点を横断的に評価し、観光地のマネジメント体制を可視化します。
第二に、「Top100 Stories」に代表される優良事例の共有です。世界各地の実践を蓄積し、他地域が参照できる知識基盤を形成しています。
第三に、各国におけるナショナルプログラムの支援です。既存の認証基準をベースに、国単位で制度を導入・展開するホワイトラベル型の仕組みが広がっています。現在、同プログラムには600以上の観光地が関わり、認証・表彰を受けた地域も増加しています。特に日本からの参加も年々増えており、関心の高まりが見られます。

サステナブル観光は実装フェーズへ、成果の「証明」と商品再設計が鍵に
講演では、観光業界における大きな変化として、以下のような潮流が示されました。
観光全体のサステナビリティ推進の必然性
観光の一部ではなく、すべての観光が持続可能であるべきという認識が広がっています。これは環境だけでなく、地域社会や経済への影響も含めた統合的な視点です。
「客観的証明」が求められる時代への移行
単に取り組むだけでなく、「実際に成果が出ているか」を示す必要性が高まっています。エビデンス、第三者評価、継続的改善といった要素が不可欠となっています。
観光商品の再設計
観光体験そのものを見直し、地域資源やローカル性をより強く反映させる動きが進んでいます。単なる滞在ではなく、関与や理解を伴う体験への転換です。
認証を軸に広がる商品づくりと事業者参画、スロベニアの事例
こうした潮流を体現する事例として紹介されたのが、スロベニアの取り組みです。同国では、国家観光局が主導する「スロベニア・グリーン」プログラムが展開されており、Green Destinationsの基準をベースにした認証制度が同国内に導入されています。その結果、国内の多数の地域が、認証を取得しています。
特徴的なのは、認証を起点に観光商品が設計されている点です。認証地域や事業者を結ぶサイクリングルートなど、持続可能性を体験として提供する取り組みが進められています。
また、政府による補助や教育プログラムを通じて、事業者の参画も促進されています。認証は義務ではなく、参加することで価値が生まれる仕組みとして設計されている点が重要です。
日本への示唆 制度ではなく「運用」が鍵
登壇者のアピ氏と高山氏によるディスカッションでは、日本の現状との比較が行われました。日本では、ガイドラインや評価基準は整備されつつあるものの、観光地全体での運用や、事業者の巻き込みには課題が残っています。特に、個別の取り組みが「点」で存在している状況から、地域全体での「面」への展開が求められています。
また、事業者の参画を促すためには、「なぜ取り組むのか」というビジネス上の理由が不可欠です。単なる理念ではなく、商品開発やマーケティングと結びつけることが重要と指摘されました。
さらに、観光客に対しては行動を強制するのではなく、「自然にサステナブルな選択ができる仕組み」を整えることが必要です。体験やサービス自体を設計することで、無理なく持続可能な行動が促される環境づくりが求められます。

編集後記 認証の本質は「共通言語の構築」にある
本セッションで印象的だったのは、認証制度の価値が「評価」そのものではなく、関係者をつなぐ共通基盤として機能している点です。観光、環境、都市計画、地域コミュニティなど、多様な主体が同じ指標のもとで議論することによって、はじめて持続可能な観光地マネジメントが成立します。実際に、関係者が一堂に会して議論できること自体が「成果」であるというコメントもありました。
一方で、日本においては注意すべき点もあります。認証取得そのものが目的化し、取得後の運用や商品化につながっていないケースも少なくありません。制度を導入するだけでは、観光地の変化には直結しないという現実があります。
本来、認証は「取ること」ではなく、「使うこと」に意味があります。地域の現状を把握し、関係者を巻き込み、具体的な観光商品や体験へと落とし込んでいく。その一連のプロセスに活かされてこそ、初めて価値を持つと言えるでしょう。
認証を導入するかどうかではなく、それをどう運用し、地域の中で機能させるのか。観光に関わる各主体に対し、その実践が改めて問われています。
「サステナブルツーリズム国際トークセッション」は、観光を単なる集客や経済効果の手段としてではなく、地域・社会・自然との持続的な関係性の中で捉え直すことを目的とした連続対談シリーズです。世界の最前線で議論されている観光の潮流をタイムリーに共有し、それを日本市場にどのように活かせるのかを明らかにすることを目指しています。
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