インバウンドコラム
外国人とひとことで言っても、出身国や地域によって多様性があり、日本に求めるもの、魅力的に感じるものはさまざまで、時には大きく異なる場合もある。 そこで、外国人のハートを掴むために一番最初にやるべきことは、自分たちの地域(企業や店舗)のアピールポイントや特徴についてもう一度しっかり洗い出すこと。そして、どの国の、どういう嗜好を持った人がそこに興味を抱くかをしっかり分析し、ターゲットを絞ったPR戦略を立てるのが大切だ。
<2015年11月5日>
目次:
読者アンケート結果について
真の日本の魅力とは?
では外国人は日本の何に興味があるのか?
世界10か国で日本の文化と観光情報を発信するフリーマガジンWAttentionの読者の反響が参考になる。
読者アンケート結果について
各国で発行されているWAttentionシリーズは、訪日促進のインバウンドメディアであると同時に、現地で行われる日本関連の物産展や観光促進プロモーションもあわせて紹介するので、日本企業が現地に進出する際のサポートメディアという側面も持っている。 同時に、日本に関する旬の情報を幅広く提供することで、各国の“日本ファンのための現地メディア”ともなっており、潜在的な訪日促進と日本製品の現地ブランディングにも、微力ながら役立っているのではと自負している。
各国版で若干読者層が異なるが、共通しているのは「日本に少なからぬ興味がある」という点だ。読者アンケートの結果を見ると50%以上が「一度は日本を訪れている」と答えている。シリーズを最初に創刊したシンガポールでは、何と83%が「一度は日本に行ったことがあり」、中には「年に数回は日本に行く」と答えている。
どんな記事を取り上げてほしいか、という問いに対しては、JNTOのデータとほぼ同じで、日本食、温泉、買い物、イベント情報等々が上位に並ぶが、訪日リピーターを中心に、「一般のガイドブックに載っていないようなところを取り上げて欲しい」、「 (外国人観光客ではなく)日本人が好む、まだあまり知られていない店」「地方の祭り(イベント)の情報」といった、ニッチな情報をリクエストする声も少なくない。
真の 日本の魅力とは?
外国人は日本の「何」に魅力を感じているのか? というある意味、究極の問いに関しては、個人差があるのは当然だが、WAttentionのFacebookやウェブサイトに投稿されるコンテンツをじっくりウォッチしていると面白いことが見えてくる。
基本的に反響の高いコンテンツは、アニメや漫画に関する情報や、新作スイーツなど日本のお菓子について、JR等のお得なチケット、ディスカウントやプレゼントといったおトク情報、一般外国人旅行客があまり知らない場所やモノ、日本を旅行する際に役立つ情報、新着ニュースなどで、これは大方の予想通りかもしれない。
しかしながら、過去にもっとも高い反響があった記事ベスト3が以下のようになっていることが興味深い。
① What do you do with the straw(藁による造形の記事)
弊社の外国人スタッフの分析によると、日本だけにあるわけではない、むしろ世界で広く使われている「藁」という素材が、巧みにアレンジされていること、それが、ハイテクなイメージの強い「日本」であったことが衝撃的だった模様。 似たパターンでは、田んぼアートの投稿も、映画「Ted 2」の影響もあってなのか、特にアジア圏(田んぼに馴染みがあるから?)から強く反応があった。「日本では地方の農家でさえもクリエイティビティがある!」というコメントが、読者の驚きと感動を象徴しているようだ。
② Beautiful sites in Japan: Takeda Castle(天空の城「竹田城」の記事)
こちらはジブリ映画『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』を知るアニメ好きの層からの「日本では本当にアニメのような光景が見られるんだ」という声の一方で、「何度か日本に行ったことがあるが、ここは知らなかった」と言う日本リピーター組からの声も多かった。
③ An Anime Lover’s Latte Check out the colorful (カフェラテアートの記事)
こちらもまた藁の記事と同じ理由で、世界の人々が理解できる「カフェラテ」という飲み物がこのようにアレンジされていることに驚きと興味を示したようだ。「やはりこういう(細部にこだわる)ところは日本ならではだな」という反応が多かった。また、「飲んだら消えてしまうもの」のために、かなり手のかかる作業を施して時間を費やす、職人の感覚も賛美される理由ではないかと推測している。
ここで注目して欲しいのは、①と③である。
人気コンテンツベスト3のうちの2つが、日本の絶景や食べ物、おトク情報などではなく、日本人の職人気質というか、ものづくりのきめ細やかさを伝える内容となっているのだ。
その他にも、懐石料理、札幌の雪祭りやキャラ弁など、すぐに消えてしまうものに美を追求する姿勢とその作品を紹介したものが、実は上位を占めているのだ。
また、日本の鉄道の記事もベスト10に入っているのだが、寄せられたコメントを読むと、絡まりあう線が、もはやアートの域と言える、都内地下鉄の可視化地図や、鉄道各社が入り組んだ路線の複雑さに感嘆したり、駅構内のキオスクの充実度、鉄道会社の各種サービスや緊急時の対応、電車の正確さ、発着メロディの豊富さなどにも、“さすが日本”“日本らしい!”と賞讃する声が多い。
どうやら、風景やモノなど目に見える観光資源よりも、日本人らしさとか日本人独特の感性などのコンテンツに人気が集まっているといえる。
これはつまり、日本を訪れる外国人たちは、日本の一般的な観光資源だけに魅力を感じて、日本に興味を持っているわけではなく、日本や日本人そのものにも関心を持っているということではないのか。
やはり日本各地の観光を振興するには、日本というものを底支えする、歴史とともに培われてきた文化が切っても切り離せない関係にあると再確認させられる。 インバウンドを成功させるためには、単に情報発信したり、アピールするだけではなく、地域の魅力、文化背景、そしてどんなコンテンツ(ウリ)があるのかを、すべてつなぎ合わせたストーリーを構成していく必要があるのではないだろうかと強く感じている。
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