インバウンドコラム
先週スペインの民泊業界を震撼させるニュースが飛び込んできました。スペイン国内の主要な州が、Airbnbを代表とする民泊の新たな規定を提案したのです。その規定が実現すれば、マドリッド市では約95%のAirbnb物件が、リストから外される可能性があります。
昨今「オーバーツーリズム」や「観光公害」という言葉をよく耳にするようになりました。スペインでは昨年の夏に、観光客排除の運動が起こりました。観光が物価を押し上げ、そこで暮らす人々の生活は厳しくなっていると言います。住居も、観光客に貸し出す目的で求める人が増え、価格は高騰し、地元民が町を追われる状況だとか。「“This isn’t tourism, it’s an invasion,”これはツーリズムではない。侵略だ」というスローガンから、地元の人々が直面している危機感が伝わってきます。
日本では昨年春、京都の「祇園白川さくらライトアップ」が、安全確保が困難であることや観光客のマナー悪化を背景に、中止されました。鎌倉と藤沢を結ぶ江ノ電は、観光ピーク時には乗車待ち時間が1時間を超えることもあり、生活の足として利用している地域住民への配慮に試行錯誤をしています。
世界観光機関(UNWTO)の統計によると、2017年は世界的な観光ブームの年でした。2017年の1月から8月の国際観光客数は2016年の同時期より5600万人も多かったことがわかります。同じくUNWTOのレポート「Tourism Highlights, 2017 Edition」 は、2030年には国際観光客数は180億人に登るだろうと予測しています。
そんな中、パラオ共和国が、観光が主産業の国としては、非常に大胆な取り組みを始めました。2017年12月7日より、パラオに入国する全ての旅行者のパスポートに押されるスタンプが、パラオ誓約(Palau Pledge)という「客人としてパラオの環境に配慮する」ことを誓う誓約書になっており、署名が求められるのです。違反者には最大1億円を超える罰金が課せられます。パラオは、この取り組みによって、ツーリズムによる経済効果は維持しつつ、観光客の小さな行動が、思いもよらない結果に繋がることに気づいて欲しいとしています。観光客を「Giant(巨人)」に例えた、パラオ誓約の説明動画からも、ちょっとした気づきによって、地元民と観光客はいい関係を保てるのだというメッセージが伝わってきます。
ウェブによる旅行手配の手軽さ、LCCの台頭、ホームシェアリングの充実により、海外旅行が未だかつて無いほど手軽になりました。観光に携わる全ての人々が、一旦立ち止まって、持続可能な観光の未来に思いを馳せるべき時なのかもしれません。
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