インバウンドコラム
今年の2月、スイスから女性一人旅の長期滞在のお客様を迎えました。彼女が「“Convenience Store Woman”を読みました。コンビニに行くのが楽しみです」と言った時、偶然にも私もその本を読んでいたので、びっくりすると同時に、彼女にとって何が面白いかを想像しながら、コンビニを利用するという変わった体験ができました。
小説をきっかけに日本での「コンビニ」体験を味わう外国人
“Convenience Store Woman”とは、村田沙耶香の2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』の英語翻訳版のタイトルです。同書は2018年末、インバウンド業界では馴染みの「Condé Nast Travelerコンデナスト・トラベラー」と同じ系列の「Condé Nast Publications (コンデナスト・パブリケーションズ)」が発行する雑誌「The New Yorker(ザ・ニューヨーカー)」で、「The Best Books of 2018」に選ばれています。
スイスからのお客様は実際、毎日コンビニに通っていて、文字を頼りに思い描いていた世界に、自分が入り込んだような感覚を楽しんでいたようです。
今月、英国のBBCトラベルに The unique culture of Japanese convenience stores という記事が掲載されました。小説『コンビニ人間』を入り口に、日本のコンビニ文化について書かれています。この記事の著者も、小説を読んでから日本へ旅行し、読み取ったコンビニ、実際に体験したコンビニ、ローソン広報室の持丸憲氏が語るコンビニと、様々な角度から日本のコンビニを紹介しています。
『コンビニ人間』は、店内の音の描写で始まります。例えば「客が入ってくるチャイムの音」は、日本人ならばそれぞれのコンビニチェーン店のメロディーが頭に浮かんでしまうところですが、海外では想像するより他なく、日本にきて初めて本物を聞いた時「これのことか!」と感動するのではないでしょうか。
アニメや漫画だけでなく、小説も日本を知ってもらうきっかけに
アニメや漫画が日本を知るきっかけとなる例は非常に多いですが、小説もなかなか頑張っているなと感じることが時々あります。以前、初来日のお客様が、羽田空港から都内のホテルまでのタクシー移動中「Haruki Murakamiの小説みたいだ」とつぶやいていました。村上春樹の長編小説『1Q84』の冒頭で、主人公がタクシーで首都高を通る場面と重なったそうです。
毎年ノーベル文学賞の候補に名前の挙がる村上春樹は、世界中にファンが多いことで有名です。村上氏は昨年11月、原稿や蔵書、所蔵レコードなどの資料を、母校早稲田大学に寄贈すると発表し、「村上ライブラリー」の設立が期待されています。海外のメディアでも報道されており、注目ぶりが伺えます。実現した暁には、世界中のハルキストが訪れる聖地になるのではないでしょうか。
私も学生時代初めてロシアに行ったとき、「サモワール (ロシア文学に度々登場するお湯を沸かす容器)ってこれか!」と興奮した思い出がありますが、文字で入手した情報がリアルに変わる感覚はなかなか爽快です。今年の夏休みには、外国語に翻訳されている日本の小説を、外国人になった気分で読んでみると、楽しい発見があるかもしれません。
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