インバウンドコラム

【海外メディアななめ読み】ゆるゆるなコロナ対策が成功している「日本ミステリー」のインバウンド的活かし方

2020.07.22

清水 陽子

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7月11日、トランプ大統領がマスク姿を披露したことが話題となりました。コロナ発生以来、欧米ではマスクをするかしないかで、論争が巻き起こっており、「コロナ対策としては、マスクはどうやらした方がいいらしい」というところにようやく落ち着きつつあります。

スイスでは7月6日から、スイス国内の公共交通機関利用時のマスクの着用が義務付けられました。イギリスでは公共交通機関内に加え7月24日からはスーパーマーケットなどの商店でも着用が義務付けられます。国のトップが抵抗したり、義務とされなければ多くの人がマスクをする選択をしなかったり、欧米人にとってマスク着用へのハードルはアジア人よりずいぶん高いようです。

春の桜の季節、つまり花粉の時期に来日するお客様に「どうしてみんなマスクをしているの?」とよく聞かれます。一般的に欧米では、マスクは医療関係者か伝染病患者がつけるもので、健康な普通の人がつけるという意識がないようです。東日本大震災後の、マスク着用率の高い春の東京の日常的な写真が「放射能を避けるためにマスクをしている」と海外メディアで誤解されることもありました。ここ数年では、日本に旅行に来るようなスイス人は、日本人が日常的にマスクを着用する事を知識として知っていて「日本に来た記念に!」と言って、グループ全員でマスクをつけて記念写真を撮る人も多かったですが、基本的には「日本人の変わった習慣」という位置付けでした。それが現在は、彼らが自国でも街でマスクを着用しているかと思うと、感慨深いものがあります。

日本ではロックダウンや国境封鎖などの厳しい対策が取られていないにも関わらず、コロナで亡くなった人の数が多くなく、WHOのテドロス事務局長からも日本は「成功している」との評価を得ています。この不思議な現象を、日本人の生活習慣と結びつける論調があり、私たちのライフスタイルが海外で話題にのぼっている事は事実です。しかしそれを「日本がコロナウイルスを抑え込んでいるのは日本人の民度が高いからだ」などというカミカゼ思想を持ち出すと、世界中からそっぽを向かれる事は間違いありません。

では、対コロナの日本の謎の成功への興味を、元々神秘的なイメージがあったこの国のインバウンドに活かすことはできないのでしょうか。家では靴を脱いで過ごすこと。衛生意識の高さとお風呂文化。人との距離の取り方。奥ゆかしい挨拶の仕方。そんな日本の暮らしぶりを、これを機会に知る人が増え、いいなと思う人がいるとしたら喜ばしいことであり、その文化は自慢しても構わないはずです。このミステリーをきっかけに、日本のライフスタイルが、訪日誘客コンテンツになる可能性を探ってみてはどうでしょう。

ライフスタイルで観光客を呼び寄せている国として、お手本になるのは、フィンランドです。フランスの凱旋門やアメリカの自由の女神のような、フィンランドと聞いて即座に思い浮かぶとびきり有名なランドマークはありません。そのフィンランドが観光資源として推しているのが、「スロー」「エコ」「サステナブル」などをキーワードにしたフィンランド人のライフスタイルです。「世界でいちばん幸せな国」として、「きれいな空気」や「サウナ文化」「変わった言語」などをアピールしています。

例えば「きれいな空気」「お風呂文化」「愉快な方言」が、誘客コンテンツになるとしたら、我こそはという地域は多いはずです。日本らしい暮らしぶりを売りにするなら、地方にこそチャンスがありそうです。コロナによる死者数が少ない理由は、誰にもわかりません。その答えを大真面目に生活習慣に求めるのは短絡的で、国民性や民度などを持ち出すことは危険ですらありますが、コロナによって日本のミステリアス度が上がった事に注目して、ブランディングに活用するのは構わないのではないでしょう。withコロナ時代の国際観光市場では、感染症を広げにくい暮らしぶりが定着している事は有利です。「日本のライフスタイル」は、ぜひ磨き上げて地方への誘客コンテンツに育て上げたいものです。まずは「日本のミステリー」がこのまま継続することを祈ります。

清水陽子
スイス訪日旅行手配 Hase & T 代表
早稲田大学で哲学とチアリーディングを学んだのち、日本航空に客室乗務員として入社する。退社までの6年間、与えられた乗務を休んだことがない花マル健康優良児。行った事があるのは37の国と地域。暮らしたことがあるのは、カナダの小麦畑に囲まれた街、スイスの湖水のほとり、台湾の焼き餃子屋台裏のアパート。2010年からやまとごころでインバウンドニュース配信を担当しつつ、現在は故郷ヨコスカを拠点に、スイス富裕層向け訪日旅行手配業を営む。自らの海外経験から「地元の人との触れ合いこそ旅の醍醐味!」と信じて、誰かに会いに行く旅づくりを目指している。英語とドイツ語を話す一児の母

 

 

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