インバウンドコラム

【海外メディアななめ読み】欧米人が日本に抱く「未来都市」のイメージは健在のよう

2021.01.22

清水 陽子

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2020年の年末12月28日にナショナルジオグラフィックが、「旅行としてのタイムトラベル? そう簡単ではない」という記事を掲載しました。「科学理論上は時間を旅することは可能だと言われるが、現実問題としてはわからない」というサブタイトルで、時間旅行について書かれています。通常の旅行ができないのだから、時間旅行について考えてみようではないかという面白い企画です。

時間旅行 小説をきっかけに科学者たちも論文

この記事では、まずはイギリスの小説家ハーバート・ジョージ・ウェルズの1895年の小説『タイムマシン』が登場します。この小説は時間旅行ができる「タイムマシン」を題材にした古典SF小説として高く評価されており、映画化もされています。この小説は「その後、ほぼ1世紀に渡って、科学者や哲学者が、それについての真面目な論文を書いている」とされています。

「ハーバート・ジョージ・ウェルズは小説家で、物理学者ではないが、物理学もすぐに追いついた。1905年にはアルバート・アインシュタインが、特殊相対性理論として知られる、最初の相対性理論を発表する」と続きます。この理論によると、時間の流れは、時間を観測する人ごとに存在することになり、2人の観測者がいた場合、静止している観測者の時間の流れは、動いている観測者のそれよりも速いことになるのです。そして有名な「双子のパラドックス」の話も紹介されています。「双子の弟を地球に残して、光の速度ほどのロケットで、宇宙に旅立った場合、帰還した時の兄は弟よりもずっと若いことに気づく」というのが「双子のパラドックス」の元となるお話です。

そして記事は、強い重力で時空を歪めるというブラックホールや、時空を超えてある一点と一点を直結させるトンネルのようなワームホールの理論へと話は進んでゆき、「親殺しのパラドックス」と呼ばれるタイムトラベルにまつわる有名なパラドックスについても述べられます。「過去への旅がもし可能だった場合の厄介な問題」として、「自分の祖父が若かった頃へタイムトラベルをして、もしも祖父を殺してしまったら、自分の両親が生まれないことになり、自分も生まれてこない。つまり、時間を超えて旅をして祖父を殺すことはできない」という話です。

時空を超えた旅について、記事は更に進んで行くのですが、ここで注目したいのは、この記事に使われている写真が、宇宙のブラックホールでも、あの有名なアインシュタインの顔写真でもなく、東京の風景だということです。

高速移動をイメージさせる『ロボットレストラン』

タイトルを彩るのは、光の効果で、タイムマシンが時空を超えて進んでいるかのように見える「ロボットレストラン」の画像です。そこには「時間旅行は科学者と小説家を長年熱狂させてきた。物理的な移動が制限されている今、時間旅行は興味をそそるテーマだ。この東京の『ロボットレストラン』の画像は、時間を超えた高速移動のイメージを掻き立てる」とのコメントがついています。

2枚目は「東急プラザ表参道原宿」の入り口にある、壁や天井に複数の鏡が貼られて万華鏡の中を登って行くように作られたエスカレーターの写真です。「19世紀の終わり、科学者たちは、時間を空間のような次元だと考えた。つまり、旅人が行きたいところへどこへでも行ける次元だ。この画像は、終わりのない目的地を訪れる感覚を呼び起こす」と書かれています。

3枚目は銀座にあるカプセル型の集合住宅「中銀カプセルタワービル」の複数の部屋の内部の写真を組み合わせたものです。「『親殺しのパラドックス』を解決するために、ある科学者は、時間の流れは複数あるのではないかと仮説を立てた。この画像を見ると、時間はそれぞれ独立して流れているようだ」との注釈があります。

訪日観光客が思い描く日本の姿を知る

この記事を見ると、欧米における日本に対する未来都市のイメージは健在なようで、興味深く読みました。1982年の未来都市を舞台としたSF映画『ブレードランナー』の風景に日本語が多用されている点からもわかるように、80年代には日本は欧米から、科学技術の発展した近未来的国家という印象を持たれていました。しかし最近では、日本でいまだにFAXが使われていることが揶揄されたり女性だけがメガネ禁止の職場がある事などのジェンダーギャップ問題が報じられたり、「近未来的」というイメージは薄れているように感じていました。アジアからの観光客に至っては、「中国で言われる『唐の時代を見たければ京都に行け』という噂は本当だ=中国メディア」などという記事からも伺えるように、むしろ日本に、古き良き時代を求めているように思えます。金沢に留学中のシンガポール人の青年に、「お休み中は東京に行くの?」と聞いたところ「東京にあるものはシンガポールに全てある。東京には興味がない」と言われ、「海外の若者はみな東京を見たがっている」と信じていた認識のズレを思い知らされた経験があります。

訪日観光客に、彼らが思い描く通りの日本を用意して見せる必要はありません。ありのままの日本を見てもらって、それが予め抱いていたイメージとどう違ったか、そこを面白がることこそ、旅の醍醐味だと思っています。想像と違ってがっかりされても、理由や背景を説明できたり、問題点を語り合えたりすれば、楽しんでもらえます。逆に、いい方向に先入観を裏切る日本を見せることもできます。日本が海外でどんなイメージを持たれているかを、なんとなく感じておくことはインバウンドに役立ちます。

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