インバウンドコラム
最近、インバウンド業界では「DMO」という言葉をよく耳にするようになりましたが、実際にはどういった目的のもと、どんな役割を担っている組織なのでしょうか。観光庁の発表によると、近年ではインバウンド客の6割以上が訪日リピーターとなっています。訪日回数が増えるほど、地方を訪れる人の割合が高くなり、地方への観光客誘致のチャンスにつながります。そのカギを握るのが、国が「観光地域づくりのかじ取り役」と位置づける日本版DMOです。今回はDMOについての基礎知識から日本版DMOへの登録条件、申請方法までわかりやすく解説します。
DMOとは?
DMOとは、「Destination Management/Marketing Organization」の略で、官民の幅広い連携によって観光地域づくりを推進する法人を指します。観光地域としての魅力を高めるためにさまざまな組織が一体となり、マーケティング・マネジメントやブランディング、商品造成、プロモーションなどを行い、観光客を誘致することで、地域経済の活性化を図ることがDMOの主な目的です。DMOは欧米の観光先進国を中心に発展してきましたが、2007年に世界観光機関「UNWTO」がその枠組みを定義したことで世界的に認知されるようになりました。一方、日本では2015年に「日本版DMO 候補法人登録制度」が創設されたことが始まりです。
「日本版DMO」ってどんな組織?
それでは、日本版DMOはなぜ必要で、具体的にどういった組織を目指しているのでしょうか。日本は現在、人口減少や少子高齢化といった課題に直面しており、「地方創生」が重要なキーワードとなっています。地方創生とは、首都圏への人口集中を是正し、地方への人口流入を増やすことで地域の活性化を図ることです。その地方創生の切り札とも言われているのがDMOなのです。これまでは各分野や産業が個別に行ってきた観光振興を、DMOが一元的に担うことで、インバウンドを中心とした観光客を地方に誘致し、交流人口を増やして地域の「稼ぐ力」を引き出す。それが地域の活性化につながり、ひいては地域を訪れた観光客の定住を促進していくことも重要な役割となります。この目標を実現させるためには、観光に関する各種データを継続的に収集・分析し、科学的な根拠に基づく明確なコンセプトのもと戦略を立てることが重要です。
なお、DMC(Destination Management Company)と呼ばれる組織も存在しますが、DMOが地域に観光客を誘致する法人であるのに対し、DMCは地域を訪れる観光客に対して実際に旅行商品を販売する法人を指します。
【日本版DMOの役割】
出典:観光庁ウェブサイト
日本版DMOになるための条件は?
日本版DMOは、[1]広域連携DMO(複数の都道府県にまたがる区域)、[2]地域連携DMO(複数の地方公共団体にまたがる区域)、[3]地域DMO(単独市町村の区域)の3区分に分類されており、現在は「日本版DMO」が123件、「日本版DMO候補法人」が114件、計237件が登録されています。また、政府は2020年までに世界水準のDMOを全国で100件程度までに増やすことを目標に掲げており、その基準を定めるための検討会を実施しています。
では、実際に日本版DMOに登録されるためにはどんな条件が必要なのでしょうか?観光庁では日本版DMOの登録要件として、以下5つの項目を掲げています。
[1]観光地域づくりにおいて、多様な関係者の合意形成ができること。 [2]データの継続的な収集・分析を行い、そのデータに基づく明確なコンセプトのもと戦略(ブランディング)を策定し、KPIの設定やPDCAサイクルを確立すること。 [3]観光事業と戦略とをマッチさせる仕組みを作り、プロモーションを実施すること。 [4]法人格を取得し、意思決定の仕組みが構築されていること。専門人材が存在すること。 [5]安定的な運営資金が確保される見通しがあること。 |
先ほど3つの区分について触れましたが、広域連携DMOと、地域連携DMOを形成する際は、地域間で共通のコンセプトがあれば、必ずしも地域同士が隣接している必要はないという点も押さえておきましょう。
DMOへの登録方法は?
次に、DMOに登録するためには、どういった手続きが必要なのかを見ていきましょう。登録要件にある5項目にすでに該当している場合は「日本版DMO」として、また、今後該当する予定である場合は「日本版DMO候補法人」として登録ができます。まず、「日本版DMO候補法人」「日本版DMO」ともに、登録の際には以下3種類の書類を提出します。
(1)日本版DMO候補法人登録申請書
(2)申請書(別添)様式1 ※日本版DMO形成・確立計画を記載
(3)申請書(別添)様式2 ※観光地域づくりのコンセプトを記載
これらの書類は観光庁のウェブサイトよりダウンロードできますので、フォーマットに沿って必要事項を記載していきます。なお、(2)は地域でDMOを形成しようとする特定の法人が作成し、地方公共団体と連名で提出します。書類の送付は郵送だけではなく、観光庁宛の電子メールでも受け付けています。
書類提出後、観光庁が提出書類を審査し、登録が完了します。日本版DMOおよび日本版DMO候補法人として登録された法人は、登録後も年に1度は取り組み状況の評価や報告を実施する必要があります。また、日本版DMO候補法人から日本版DMOへの昇格に際しては、事業報告書の提出が必要です。
日本版DMOになったらどんなメリットがあるの?
日本版DMOおよび日本版DMO候補法人として登録されると、どんなメリットがあるのでしょうか。観光庁はDMOに対して主に「情報支援」「人材支援」「財政支援」という3つの支援を行なっています。まず、情報支援では観光地域のマネジメントやマーケティングを支援する「DMOネット」で情報を入手することができます。このツールを使うことで、DMO間で情報共有ができるほか、DMOと民間事業者とのマッチングやDMOの取り組み事例、国の資料の閲覧などが可能です。人材支援では、人材を育成するためのプログラムが提供されるほか、eラーニングで「地方創生カレッジ」のカリキュラムを受講することができます。財政支援では、地方創生推進交付金が受けられるほか、事業計画書に盛り込まれている取り組みや、専門人材の登用などに対する支援金を受給することができます。
まとめ
地方への観光客誘致においては、単独の自治体や組織では成し得なかったことが、DMOとして幅広く連携することで可能性が広がることもあります。それぞれの地域の強みやコンテンツを分かち合いながら「このエリアなら行きたい」と思わせる魅力的なブランドを確立し、最終的には「住んでよし、訪れてよし」の豊かな地域づくりを行なっていくのが日本版DMOの役割なのです。
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