インバウンドコラム
ラグビーワールドカップ2019(以下、RWC2019)の開幕が半年後に迫る中、インバウンド業界では、観戦目的で訪日する外国人を取り込むための準備が進められている。前回の記事ではラグビーワールドカップの基礎知識からRWC 2019の概要、そしてその経済効果について触れた。今回は、イングランドで開催された前回大会(RWC2015)を振り返り、その概要や経済効果、インバウンド観戦者の動向などについて解説する。
イングランドで開催されたRWC2015の概要
第8回となるRWC2015は、2015年9月18日から10月31日の44日間に渡り開催された。イングランドでは、1991年の第2回大会に続く2度目の開催で、開催都市に選ばれたのは、ロンドン、マンチェスター、ニューカッスル、バーミンガムなど、11都市13会場。決勝戦では、ニュージーランドがオーストラリアを34-17で下し、2大会連続3度目の優勝を果たした。
英アーンスト・アンド・ヤング社(以下EY)のレポートによると、RWC 2015では約247万人の観客を動員し、フランスで2007年に開催された大会の記録を22万人上回る、史上最多の動員数となった。テレビ放映は、世界各地の7億8,000万世帯、40億人が視聴したと推定されている。1987年の第1回大会ではテレビの視聴者数が2億人だったのに対し、同大会の視聴者数はその20倍にも上る。また、大会期間中にハッシュタグ「#RWC2015」の付いたツイートは合計で500万を超えた。このように、チケット販売数から観客動員数、テレビ視聴者数、SNSに至るまで、RWC2015は数多くの記録を更新した。
英国中がお祭りムードに包まれた、RWC2015の経済効果とは
ワールドラグビーのベルナール・ラパセ会長が「最も成功したラグビーワールドカップ」と評価したRWC2015の経済波及効果について、EYのレポートでは以下のような数字を発表している。
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-RWC2015大会の開催による生産高は約23億ポンド(当時のレートで約4,000億円)
-GDPに対する増価額は11億ポンド(約1,914億円)
-ボランティアを含む約3万4,000人の雇用創出
-合計2億7,700万ポンド(約482億円)の税収増
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レポートではこうした経済効果に加え、各開催都市を始めとするイングランド全域において、観光面でもプラスの効果があったとしている。また、ロンドンとカーディフを除く各開催都市では、推定1,500万〜8,500万ポンド(約26億円〜148億円)の生産高を創出したとの分析結果が出ている。
RWC2015開催期間中のインバウンドによる経済効果は?
続いて、海外から大会を目的にイングランドを訪れたインバウンド観戦者の数字を見ていこう。
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-海外から観戦に訪れたファンの数は40万6,000人
-海外から訪れた観客による、大会期間中の消費額は総計9億5,800万ポンド(約1,667億円)
-海外からの観客1人当たりの平均消費額は2,400ポンド(約42万円)
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インバウンド観戦者40万6,000人の内訳をみると、欧州からの観戦者が18万8,000人と最も多く、次いでイングランドを除く英国からの観戦者が9万6,000人となり、近隣諸国が全体の7割近くを占める。しかし一方で、滞在期間が長く、1人あたりの消費額が大きい遠方からの観戦者の割合は予想を上回った。これには、近隣諸国のチームが準々決勝で敗退し、遠方から来た南半球のチームが準決勝へと勝ち進んだことが影響している。日本大会でもこうした要因がファンの滞在日数に影響する可能性が高いということを念頭に置いておきたい。実際に、決勝まで勝ち進んだニュージーランド、オーストラリア、南アフリカからのインバウンド客数は、RWC2015開催期間中(2015年10月〜12月)、ニュージーランドが前年比52%増、オーストラリアが20%増、南アフリカが30%増と大幅に伸長した。
RWCでは、開催都市ごとに設けられる公式のファンゾーン(試合の放映をはじめ、飲食物や公式グッズの販売等が行われる入場無料のイベントスペース)が盛り上がることでも知られている。RWC2015では、ファンゾーンに計100万人を超える人々が来場し、海外からの観客1人あたりのファンゾーンでの消費は平均40ポンド(約7,000円)となった。インバウンド観戦者によって1,000万ポンド(約17億4,000万円)がファンゾーンで消費され、地域経済に寄与したという。日本大会でも、各開催地のファンゾーンでの消費には大いに期待ができそうだ。
RWC2015におけるインバウンド観戦者の動向は?
開始から終了まで44日間に及ぶ大会期間中、インバウンド観戦者は試合観戦だけでなく、イングランド各地の観光スポットを訪れた。世界中から訪れた観戦者の平均滞在期間は14日間で、大多数がロンドンを訪れ、エディンバラ、ブリストル、オックスフォードなど開催都市以外の都市を訪れた旅行者も多かったという。
インバウド観戦者を対象に10段階評価で行われたアンケートでは、「RWC2015での体験の評価は?」に対して72%が9点以上、「もう一度訪れる可能性は?」に対して69%が9点以上、「友人、家族、同僚に旅行先として英国を薦める可能性は?」に対して53%が9点以上を付けた。有意義な体験を経たことで将来再訪する可能性が高まり、滞在を楽しんだ観客は英国への好印象を家族や友人に伝え、将来旅行するように薦めるという好循環が生まれている。日本大会もインバウンド観戦者に対するショーケースとなり、旅行先としての日本の認知度が高まることが期待される。
イングランド大会では、各開催都市で採用された総勢6,000人の市民がボランティアプログラム「The Pack」に参加した。彼らは、インバウンド観戦者に試合会場やファンゾーンまでのアクセスを伝えたり、記念写真の撮影や応援旗などの配布、会場近くでは施設案内を行うなど、大会を支え、盛り上げる役割を担った。日本大会でも、日本旅行に不慣れな外国人に対するホスピタリティの精神や積極的な関わりが、今後のインバウンド誘客へのカギを握っているのではないだろうか。
次回は、ラグビーワールドカップ日本大会におけるインバウンド市場への影響について考察していく。
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