インバウンドコラム
新型コロナウイルスの感染拡大を阻止すべく世界各国ではさまざまな取り組みがなされている。中国本土からの渡航を全面的に禁止する国もあれば、人が多く集まるイベントの開催を中止、あるいは延期する国などもある。世界各地の対応状況をお知らせする。
(やまとごころ編集部・外島美紀子)
新型コロナウイルスのオリンピック開催への影響は?
感染拡大が止まらぬ新型コロナウイルスを受け、東京オリンピック開催についても懸念が広がっている。14日、IOCのジョン・コーツ調整委員長は会見で、「WHOからも東京オリンピックの延期や中止の必要はないと助言をもらっており、予定通り開催するつもりである」とコメントした。一方、WHO(世界保健機関)の緊急事態プログラム事務局長のマイク・ライアン氏は同日に行われた記者会見で、国際オリンピック委員会(IOC)などと定期的に連絡を取っているとしつつも、「イベントの開催もしくは中止の要請はWHOの役割ではない。開催の是非を決めるのはホスト国とIOCである」と述べ、WHOは「現状ではIOCには何の助言もしていない」とした。
北京に戻る市民に14日間の隔離を義務付け
1月23日より、武漢市と湖北省を完全閉鎖して住民に自宅待機を義務づけ、その後、発症者が確認された中国全土の約80の都市と2つの省でも同様の封鎖・自宅検疫態勢を敷いた。2月16日には、武漢市と湖北省の住民に対し、さらに外出を24時間厳しく制限する封鎖管理を行うことを発表した。
また14日には、北京市当局が他の地域から北京に戻る市民に対し14日間の隔離期間を義務付けると発表したことを、北京日報が伝えた。旅行や帰省などで市外に出た北京市民は、感染拡大防止のため市内に戻ったら自宅、もしくは地域の施設での14日間の隔離と、北京に戻る前の旅程の提出も義務づけられる。しかし、市民以外で国内外から北京に入ろうとする者にも同様の措置が取られるのかなど、詳細は発表になっていない。
デモにつづき新型コロナウイルスで大打撃の香港
陸路で中国本土と接する香港は、2003年にSARSで299人の死者を出した経験もあり警戒を強めている。香港政府は1月に中国本土と結ぶ高速鉄道を止め、主要な検問所を閉鎖し現在開いているのは3カ所のみ。人の行き来を制限している。
香港に住む日本人によると「ホテルは軒並み90%オフにしていますが…、週末ともなるとごったがえしている香港一大きなショッピングモールも閑散としています。香港ではマスクの着用率は99.9%。稀にしていない人を見ると、大丈夫なのかと心配になります」。マスクは手に入らず、入荷予定と噂の店舗の前には早朝から長蛇の列ができるという。
香港政府は昨年春からのデモにつづき、新型肺炎の影響で観光客が激減し大きな打撃を受けている旅行会社やレストラン、小売店、ビルの清掃を請け負う管理会社などへの支援や、感染拡大防止への強化として250億香港ドル(約3500億円)を拠出することを発表している。
政府、国民ともに自衛意識の高い台湾
同じようにSARSを経験した台湾でも、政府の動きは早く、新型コロナウイルスに対する国民全体の自衛意識も高いという。台湾政府は中国人観光客の入境を6日から全面的に禁止。中国と結ぶ直行旅客機の運航を大幅に制限するとともに、中国と結ぶ客船の運航も全面的に停止、クルーズ船停泊も原則拒否の立場をとっている。過去2週間以内に中国、香港、マカオへ渡航した外国人も入境できない。これらの台湾政府のいち早く対応により、感染の拡大も最小限となっている。
2月上旬に5日間、台湾を旅行した日本人女性によると「新型コロナウイルスへの向き合い方が日本とはまったく違うことに驚きました。レストランの入り口では手のアルコール消毒が推奨されており、場所によっては体温チェックも行われていました。ライブ会場へも行きましたが、観客全員がマスクを着用していて、入り口では体温チェックやアルコール消毒液も設置されていました。テレビでは医師が手の洗い方を教えるCMが放送され、コロナウイルスに関しての世界の状況も知ることができました」。人が集まるイベントには中止になっているものもあるという。
「教訓を生かした政府の動きの早さ、そしてTVという最強の媒体を使った国民への周知の徹底。“政府がちゃんとやっている”という安心感があり、国民一人ひとりが“もっとひどくなること”を想定してSARSの教訓を生かして自衛措置をとっている。街の中はマスク率高く、出歩く人が少なめな以外はいたって平和で通常通り。安心して旅行することができました」。空港でのマスク率は100%、公共の交通機関もマスク着用率95%だったという。
また、政府がマスクの輸出禁止措置をとり、国内で生産されるマスクを政府がすべて買い上げ。現在は国民が買えるマスクの枚数を制限して、転売できないようにしており、転売には厳しい罰則を設けている。2月末までには1日1000万枚のマスクが生産できる体制が整うそうだ。
なお、14日には台湾の厚生省にあたる衛生福利部が日本への渡航について「感染源が不明の事案が相次いでいる」などとして、警戒レベルを「1」(注意)に指定すると発表した。レベル「1」はもっとも低い渡航警戒レベルで、現地で一般的な予防措置を呼びかけるもの。11日にタイがレベル「1」に指定されたが、その時点で日本は見送られていた。
回復時を見すえ対処にあたるタイ
観光国タイも新型コロナウイルスへの警戒感から街の雰囲気がこれまでとは違っていたと、ビジネスで年に数回渡航するビジネスマンの男性が語ってくれた。「今回スワンナプーム空港に到着して、空港スタッフや旅行者のマスク着用率が高いことに驚きました。これまでのタイでは、マスクを着用しているのはバイクタクシーの運転手くらいのもので利用者は限られていましたので」。タクシー配車アプリGrabを利用する際にも毎回、マスク着用を促し、体調が悪いと感じた際の対処方法のメッセージが届き、危機意識の高さが感じられたという。
ホテルでもチェックイン時に体温検査現在の体調や過去数週間に滞在したロケーションに関してのアンケートなど、感染阻止に対する自主的な対策が取られていたという。
「空港やホテル、街中もどこも空いていました。中国人観光客がいなくなってみて、多勢来ていたことを改めて感じました。チェックイン時に体温や渡航チェックがあったので、自分と同じホテルに宿泊している人達への安心感がありました」。マスク着用率はホテルスタッフなどはほぼ100%、街中では50%ほど。建物の入口には消毒液が置かれ、人々も使用していたそうだ。
タイ政府観光局は、SARSが鎮静したタイミングですぐにキャンペーンを実施し、いち早く中国からの観光客を取り戻すのに成功した実績がある。今回も発生している新型コロナウイルスへの措置をしている一方で、回復した時に向けた準備も水面下で始めている。
まとめ
日本に住む台湾人によると、台湾では日本の新型コロナウイルス対策がどうなっているのか心配する声があり、日本に来ていることをインスタなどでアップすると心配するコメントが書き込まれることもあるそうだ。今回の取材を通じ、訪れる側としては対策が取られている場所への訪問の方が安心感を感じる人の心理も知った。
上からの動きを待ってから取り組むのではなく、それぞれの地域、それぞれの企業で、どのように対策すべきか考え迅速に動いていく必要があるのではないだろうか。
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