インバウンドコラム

観光DXの技術開発、事業推進に最大1億円超 観光庁が支援。応募の条件や対象となる事業などを徹底解説

2021.01.15

清水 陽子

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2020年12月21日に発表された2021年(令和3年)度の観光庁の当初予算で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光サービスの変革と観光需要の創出に新しく8億円が計上され、同25日には「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」の公募が開始された。募集内容や募集対象事業など、応募に必要な情報を詳しく見ていく。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?

「DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)」とは、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授、エリック・ストルターマン氏が提唱した「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」という概念である。「Transformaition」はそもそも、変形、変質、変換という意味の単語で、既存のものを根底から変えることである。つまり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、単なるIT活用による作業の効率化ではなく、デジタル技術によって、人々の生活がより良くなるような変革や、既存の価値観を覆す技術の革新がもたらされることを意味する。

日本では2018年に経済産業省によって、南山大学理工学部ソフトウェア工学科教授の青山幹雄氏を座長とした「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が設置された、報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』が公表されている。

 【背景と目的】2030年の訪日外国人旅行者数6000万人に向け、DX推進でこれまでにない観光コンテンツを創出する

新型コロナウイルス感染症の影響により観光は厳しい状況に置かれているが、観光庁では、誘客可能となった国・地域からの回復を図ることで、2030年の訪日外国人旅行者数6000万人、旅行消費額15兆円等の目標達成に向けた取組を継続する考えだ。その起爆剤として期待されるのが、DXの推進である。オンライン観光が普及し、観光における新たな体験価値が求められている中、デジタル技術を単に作業の省力化の為でなく、技術と観光資源または複数技術の掛合せによって相乗効果を生み出し、これまでにない観光コンテンツ及びエリアマネジメントを実現すべく募集を実施する。

【応募条件】複数企業のコンソーシアム、中小企業も含むなど13の条件

対象となる応募者として13の条件があげられ、全てを満たすことが求められている。

・企業や大学、地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)などの複数の企業からなる事業体(コンソーシアム)での応募を基本とする
・ コンソーシアムは、大企業等のみで構成されていないこと
・デジタル技術の開発の役割を担う企業は、開発実績があること、開発基盤を持っていること
・基本的にデジタル技術の開発は日本国内で行うこと

といった項目が挙げられる。ほかにも具体的な条件が明記されているので、公募要領をしっかり確認する必要がある。

【対象となる事業】場所・技術・コトを融合させることで新たな観光サービスを目指す事業

なお、対象となる事業は、「場所」「技術」「コト」の3つを融合させることで、地域観光モデルを構築する事業が対象となる。

具体的には、デジタル技術の活用で、「地域の文化・芸術・自然等、既存の観光資源」(場所)を磨き上げ、エリア一帯において快適な「観光体験」(コト)が可能となる事業で、それによって、体験価値の向上や観光消費額増加を実現させるものをいう。

具体的なキーワードとして、以下のようなものが挙げられている。

なお、開発事業参考イメージとして、具体例が3つ紹介されており、応募の参考にもなる。


開発事業具体例1 「高精度位置認識技術やモビリティによる美術館・博物館鑑賞の変革」
【場所】 施設内エリア
【技術】 高精度位置認識技術、XR 技術、指向性音声技術、自律走行技術
【コト】 鑑賞体験
【構築する地域観光モデル】美術館・博物館において、単に定型のガイド音声を流すだけではなく、高精度位置認識技術やXR 技術の活用・融合により、モビリティに乗った個々人の位置に適した情報を指向性音声やARで配信するとともに、個々のパーソナル空間を確保しながらの鑑賞を実現し、鑑賞体験を変革する。

開発事業具体例2「顔認証等の生体認証と決済とを融合させたエリア一帯での手ぶら観光の実現」
【場所】 街エリア、山岳エリア、水辺エリア
【技術】 生体認証技術、5G
【コト】 スポーツ、アクティビティ、購買・予約
【構築する地域観光モデル】マスク着用でも利用可能な顔認証等の生体認証とセキュアな決済技術とを融合させることにより、財布や現金を持参する必要もなく、何一つ持参しない状況にあっても購買・購入が可能な地域観光エリアを実現する。

開発事業具体例3「仮想空間を活用した観光疑似体験の変革」
【場所】 仮想空間
【技術】 5G、XR技術
【コト】 コミュニケーション
【構築する地域観光モデル】これまでのオンラインバスツアー等のオンライン観光地体験から進化した、仮想空間等を創出し、利用者(ゲスト)と観光事業者(ホスト)との間で臨場感のあるコミュニケーションが取れるインタラクティブな体験を提供することにより、現地での観光体験価値をこれまで以上に高め、満足度向上に繋げる。

▲2021年度(令和3年度)観光庁関係予算決定概要より


【事業実施にあたって求められること】計画書と報告書の作成、実証実験の実施

開発事業者には、事業事務局と調整の上、事業計画書と報告書をそれぞれ作成し、また開発した技術の実証実験、効果検証を行い、分析・評価などをした上で、地域観光モデルを構築することなどが求められる。

対象経費は開発事業費、再委託費、一般管理費の主に3つで、開発事業費の主なものは、人件費、旅費、謝金、物品等のリース・レンタル費用、消耗品費、その他光熱費などの諸経費を含む。また、再委託費として、事業事務局との協議の上、必要とされれば、開発の一部を事業者以外が行うための経費も出される。

【審査における必須項目と加点項目】事業内容の理解度と具体性が鍵、若手や女性研究者の活用は加点

選定は応募の中から選定委員会が4月上旬頃に行う予定としている。審査は、応募条件と募集対象事業の要件を満たしているかを確認する形式審査と、次に挙げる必須項目について審査する内容審査の2つで行われ、必要であればヒアリング(遠隔によるものを含む)が実施される予定だ。

いくら補助してもらえる?

この開発事業の規模は、1事業あたり1億1000万円が上限だ。ただし、採択件数やヒアリング結果によって金額を調整する。

また、この公募は2021年度(令和3年度)予算成立後、速やかに事業を開始できるように、予算成立前に募集をしているので、状況によっては今後内容が変更になる事がある。

応募の方法は?

郵便または宅配品で、電子データと必要書類をまとめて国土交通省観光庁観光地域振興部観光資源課新コンテンツ開発推進室まで、送付する。
応募期限は、2021年2月15日(月曜日)消印有効又は17:00着。

なお、公募手続きに関する質問は1月29日まで電子メールにて受け付けている。

審査で加点を取るには?

審査の上で加点となる項目が8つあげられている。そのうちのいくつかをここで紹介する。

・この事業と地域等の取り組みとの相乗効果が期待できること
・2022年度以降、開発された技術などを地域の観光で活かし、継続するための採算が取れると思われるもの
・開発を大企業ではない企業が行うこと
・40歳以下の若手研究者や女性研究者を開発責任者にしている場合

詳細は、以下の公募要領をご覧いただきたい。

観光DX推進に向けた技術開発及び地域観光モデルの構築
これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」の公募

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