インバウンドコラム
コロナ禍で苦戦を強いられている観光業の再生の際に力強い味方になる再構築補助金。前回に続き、今回は採択されるための秘訣を考えてみたいと思います。
先日、4次の公募が10月28日~12月21日までと発表されました。第4次の申請受付開始は11月中を予定しているとのこと。現在3次は審査中ですが、採択結果が公表されている1次と2次を見ると、宿泊業・飲食業は他業界と比較して採択率が高い傾向になっています。詳細は前回の記事に譲りますが、全業種の採択率平均(1次と2次合計)が4割程度なのに対し、宿泊業・飲食業は5割近くあります。もしかすると、新型コロナウイルス感染症の影響が突出して大きい業界であることから、審査時に何らかの考慮をしているのかもしれません。実情は不明ですが、明らかなのは宿泊業・飲食業の企業にとって再構築補助金が獲得しやすい環境にあるということです。
観光業界では、どのような事業が採択されているのか?
次に実際の採択事例を見てみましょう。
【宿泊業】
・出張ビジネスマンのニーズに応えるフレキシブルオフィス事業への業種転換
・訪問介護と連動した自由と安心を両立した高齢者向けマンション賃貸業
・結婚式場施設の改装による、グランピング事業への参入
・観光ホテルによるペット葬祭サービスの開始でペット需要取り込みと売上拡大
・地域初!クラフトビールを核としたリゾートテーマパーク事業
・ベーカリー新規事業事業計画
・ご当地スイーツの開発と屋外販売で観光客集客を図る旅館業の挑戦
【飲食業】
・ラーメン専門飲食店から「キッチントレーラー」事業への転換
・現役プロ料理人がお伝えする初心者安心のオンライン料理教室開講
・ヴィーガン向けレトルト食品の製造による販路開拓と多角化の実現
・居酒屋の遊休時間を有効活用。オリジナル五平餅などの軽食をテイクアウトで提供
なお、これらは全て第1次公募の採択事例よりピックアップしたものです。補助金は原資の特性上、採択された全ての企業名、事業の概要等が公表されます。ここから、第1次、第2次の全採択事例の概要をダウンロードできます。
本題に戻りましょう。
上の採択事例を見た感想を教えてください。
「思いもよらなかった!そんな視点があったとは」
「日本初の新規事業ばかりじゃないか」
というものばかりではありませんね。タイトルだけで判断すれば、容易に想像がつくものばかりです。
ここから言えることは、再構築補助金で採択される事例はこれまでにない斬新なものである必要はなく、容易に想像がつくもので問題ないということです。
再構築補助金で採択される事業計画書に必要なことは?
では再構築補助金を利用して行う事業がどのような観点をもとに選ばれているか、説明をしましょう。
本題に入る前に少し寄り道しますが、そもそもなぜ補助金を出すのでしょうか。言い換えると補助金を出す側の目的は何でしょうか。
補助金ではありませんが、昨年の持続化給付金・家賃支援給付金は経済成長や浮揚策のためではなく、資金繰り破綻回避が唯一の目的でした。倒産件数が減ったところを見ると、その目的は達成しています。
補助金の原資は税金です。よって目的は企業が収益を回復し法人税を納めること、企業が雇用を増やすことにあります。換言すると国等が投資を行い、法人税・雇用増というリターンを得る活動が補助金事業なのです。ですから、企業にとっては儲かる可能性の高い事業を選ぶことが再構築補助金を採択されるための必要条件と言えます。
では、儲かりそうな事業とは何でしょうか。どう決めていくのでしょうか。定石では自社の強みが活き、市場成長が期待できる事業となります。成長分野は確かに市場は拡大しますが、一方で競合も大勢います。そこで自社の強みがないとライバルに蹴散らされることは容易に想像がつくでしょう。他社に打ち勝つ武器がすなわち自社の強みです。模倣されにくく、威力が巨大な武器がベストです。
再構築補助金の準備でもっとも労力を割くのが、この「自社の強み」を決定することなのです。
次に、明らかになった自社の強みをもとに環境分析を行い、最も勝率が高い、又は利益が最大と思われる事業を選びましょう。
実は先ほどの採択事例も、裏側では上のような作業を必ず実行しています。というのも、事業計画書には必ず自社の強み、環境分析の記載が求められるからです。このような分析をないがしろにした数値計画は説得力を持たず、採択されることはありません。
なお、一部の経営者を除き企業が独力で採択レベルの申請書を作成するのは困難であることから、外部のプロと一緒に計画書を作成することが義務付けられています。
採択事例は情報の宝庫、競合調査や自社の強みを見直すきっかけにも
ところで、採択事例は再構築補助金の申請予定者はもちろん、申請に興味がない経営者にも有益な情報となっている点にも注目です。
第1次で採択された企業の経営者からこんな話を聞きました。採択後にまとまった時間を作り、同県内の採択企業の事業概要を隅から隅まで全て読み込んだそうです。
その経営者いわく「地元密着で商売をしているのだから同業他社や、近所の会社が何を企んでいるかの情報収集は経営者の大事な仕事。通常ならば高い調査費用を掛けたり、はたまた会合などで探ったりしても誤った情報をつかまされることもしょっちゅうあるが、今回は正確な情報を無料で得られるんだ」と。
そうして情報分析を行った結果、地元の同業他社は恐れる必要なしと確認できたそう。さらに他社の新事業に自社の強みが直接活かせるアイデアを発見し、採択された事業とは別で、補助金を使わず近日中に新事業を立ち上げるそうです。いやはや、たのもしいではありませんか。
この例が示す通り、採択事例はライバルの動向を無料で探るまたとない機会をもたらしてくれるのです。地元密着で商売をしている経営者必見の資料と言えるでしょう。
筆者プロフィール:
合同会社スラッシュ代表 坂本 利秋 氏
東京大学大学院工学系研究科卒。総合商社の日商岩井(現双日)にて金融派生商品の運用、おそらく国内初となるSNS企業の財務執行役員、三井物産子会社の取締役、メガベンチャー企業の再生を経験。2009年より中小企業に特化した再生・M&A支援を行うとともに、2020年には再生・M&Aの実務家養成事業を開始。現在、複数の社外取締役兼任。
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