インバウンドコラム

【タイ最新動向】外国人観光客受け入れ進むタイ、コロナ禍での変化は? 日本食が大ブーム

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タイ国政府は入国規制の全面撤廃に向けての一環として、6月1日より、「タイランドパス*」のタイ人への適用撤廃を発表した。外国人については「入国前後のPCR検査」は不要となったものの、タイランドパスは引き続き必要となっており、7月に向けて外国人向けの「タイランドパス」撤廃の検討を進めている。

5月の海外からのタイ入国は1日2万人程度が見込まれており、上手くいけば月60万人程度の海外観光客の受入れが実現する。また、年内に入国者数月間100万人まで回復するという見解もでてきており、2019年前の通常入国時と比較して、2割~4割程度の回復が見込まれることになる。

このように、日本より一足先に入国規制緩和を積極的に進めてきたタイの状況について(株)アジア・インタラクション・サポートのバンコクデスクであり、自治体や民間企業を対象にタイ市場のレップ業務、訪日プロモーションなどを手掛けるバンコクポルタの井芹二郎氏に現地の様子を聞きながら、今後の訪日動向を予測する。

*タイランドパス:入国前に必要書類を申請するシステム

▲観光客で賑わってきたカオサン通り

 

徐々に活気を取り戻すタイの観光地、欧米系のバックパッカーの姿も

「最近、欧米系のバックパッカーをバンコク内でも見かけるようになってきた」と井芹氏は語る。外国人に人気の歓楽街カオサン通りなどは、以前の活気を見せており、観光地は、徐々に賑わいを戻してきている。また、最後まで規制されていたアルコールの店内提供、バーやクラブの営業も、6月1日より規制が解除される見込みである。現在、営業可能な多くのお店も安全基準SHA*を遵守しながら観光客を迎え入れている。

また、国内旅行を楽しむタイ人も増えており、公の場所ではマスクを付けるなど、感染対策をしながら旅行を楽しんでいる。6月からは規制緩和に加え、タイ人対象に宿泊や飲食などのサービスで特典割引が付く「We Travel Together」キャンペーンを再開することもあり、観光地は今以上の活気で溢れそうだ。

*安全基準SHA:タイ政府観光庁が定めた運営上の基準のこと。消毒や体温検査、ソーシャルディタンスなどを細かく規定している。

▲タイの観光地にも笑顔が戻ってきた

 

コロナ禍で変化する国内旅行トレンド

国内観光市場が回復に向けて動き出すなか、特にここ数年で、タイ人の旅行アクティビティのトレンドも変化を見せている。

これまでは寺社仏閣やテーマパークなどが人気だったが、キャンピング、グランピング、自然豊かな場所など、密を避け開放感のある場所へと志向の変化が現れていることだ。具体的には、最近の国内観光の人気スポットとして、タイ北部のナーン県にあるネイチャーリゾートの人気がでている。バンコクから車で行けるパタヤやラヨンといった定番のビーチリゾートを楽しむタイ人も多い。

「自然や開放感を感じられるロケーションやアクティビティ」「アウトドア」などのニーズがこのコロナ禍で高まってきており、タイ市場においても、アフターコロナにおける訪日旅行トレンドのひとつになるかもしれない。

▲自然を感じられる開放感の溢れるリゾート

 

コロナ禍でも進出拡大のドン・キホーテ、日本商品の品揃えでタイ人を虜に

バンコクにあるドン・キホーテはタイ人にとても人気がある。2019年に1号店がオープンして以降、2年弱で4号店まで出すほど拡大した。これまでタイに無かった日本のお菓子やコスメ商品などが買えるだけではなく、日本の旬の魚や北海道のいくらや雲丹、苺や桃などの季節のフルーツなどの生鮮食品も豊富に取り扱っており、タイ人が多く訪れ盛況を博している。

▲新規オープン時の様子。タイ人が長蛇の列をつくっている。

一方、訪日旅行を取り扱う旅行会社は、コロナ禍で旅行商品が売れないなか、日本商品など物販を積極的に行っている。この動きは、コロナ禍による経営難をしのぐ目的で、2020年ごろからすでに始まっていた。

彼らは、訪日できない顧客に向けて豊富に品を揃え、日本の醤油や地域物産、コスメやお土産、家電などを各社が販売している。売上の大半を日本関連商品の物販で占める旅行会社もあるという。日本に行けたら買いそろえる商品をタイで調達する仕組みができつつあり、タイ人の日常消費の中に日本の商品が入り込んでいると考えられる。それほど、タイ人はコロナ前は頻繁に日本を訪れていたということかもしれない。

 

現在も稼働するタイの旅行会社はわずか3割、訪日再開への期待高ぶる

訪日旅行が主力商品であるタイ現地旅行会社の中には、会社を存続させるため、訪日セクションの解散や大幅な解雇を余儀なくされた会社が多い。

「訪日旅行商品を取り扱う旅行会社(200社)への調査」(バンコクポルタ)では、70~80社程度が稼働しているものの、残りは事実上の休業や、商品の販売はせず窓口対応のみという状況だ。

「これまでは、国内旅行商品や規制緩和を始めたヨーロッパや中東、アメリカなど滞在期間が長いお金持ち向けの旅行を販売して売上を繋いできたものの、主力である訪日旅行商品の売上が消失したダメージは相当大きい。そんな彼らからこの2年間、“日本にはいつ行けるようになるのか”という問合せが頻繁にあった」と同氏は話す。

日本行きのツアーを待ち望むタイ人が多く、タイ現地旅行会社たちは経営難に立ち向かいながらも、日本側が主催するオンライン商談会などに積極的に参加をし、日本側のコロナ状況や観光地の最新情報の収集をしてきた。そして、日本側の入国規制緩和が目前に迫る今日まで辿り着いた。今、彼らは待望の日本旅行商品の造成・販売に向けて準備を加速させている。

 

訪日ブーム高まるタイ人受け入れに向けて、日本ができることは

日本は、6月から上限1日2万人の入国受け入れを検討している。これは、2019年の訪日外国人数の2割程度の回復を見込むペースに値する。この数は大きな受け入れ枠となるため、タイ現地旅行会社の期待もさらに高まっていると考えられる。

また、7月から福岡~バンコク間でタイ・ベトジェットエアの新規就航が予定され、LCCの運航開始やキャンペーンの露出も増えており、日本旅行ムードの高まりが加速している。

今後、入国規制のさらなる緩和に伴い、タイ人受け入れの拡大を目指すためにも、タイ人旅行者と日本側観光施設への継続的な感染対策の呼びかけや、タイ現地旅行会社のニーズを把握し、魅力的な訪日ツアーの販売をサポートできる体制をつくるなど、タイ人のみなさんに安心・安全な旅行を楽しんでもらうための体制を整えることが重要だ。

▲LCCの運航開始やキャンペーンの露出が増えてきた(出典:airasia HP

 

株式会社アジア・インタラクション・サポート 取締役 鈴木啓太

2020年に観光庁「広域周遊観光促進のための専門家」、2021年に東京都観光財団「東京都観光街づくりアドバイザー」就任。大規模なタイ人調査データを活用し、自治体や企業のタイ人向けのデジタルプロモーション支援を行い、訪日タイ人向けでは最大級のメディア「Chill Chill Japan」を運営。自社運営旅館「京町家楽遊」が高評価の外国人口コミを獲得したノウハウ、実体験に基づくOTAやGoogle MAPの活用に関する観光事業者向けセミナー等の依頼を全国から多数受けている。

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