インバウンドコラム
JNTOは、6月29日に発表した「訪日マーケティング戦略」のなかで、市場ごとの戦略とターゲット層を公開している。今回は、2015年以降2019年まで、全市場のなかで最大の訪日旅行者数を擁していた、中国市場を取り上げる。日本の豊かな自然に惹かれる訪日リピーターも多く、中国からの訪日客数の早い回復と地方誘客を目指し、最大ボリューム層である20〜40代に焦点を当てたマーケティング戦略を解説する。
(図・出典:JNTO 中国市場マーケティング戦略)
海外旅行者の4割以上が訪日経験あり、訪日リピーターはそのうち2割強
まず、中国からの訪日客の特徴を、JNTOが行った22市場基礎調査(2021年)から見ていく。中国の総人口14億3932万人のうち、2017~2019年の間の海外旅行経験者は推計で約7100万人で、そのうち訪日旅行経験者は推計41.7%の約2960万人、海外旅行経験者のうち13.8%が訪日2〜3回のリピーター、8.3%が4回以上のヘビーリピーターと推計されている。訪日までの検討状況・行動の各段階を示す訪日ファネルは、海外旅行実施者の73.0%が「比較検討」「興味関心」と、大半が日本へ旅行するための行動を取っていたり、旅行することへの興味がある。
観光庁が実施した2019年の訪日外国人消費動向調査では、中国の訪日旅行消費額は1兆7704億円、一人当たりの支出額は21万2810円だった。都道府県別延べ宿泊者数とその構成比をみると、1位は東京都、2位が大阪府で、宿泊者数はそれぞれ約704万人(構成比24%)と約619万人(同21%)となり、3位以下を大きく突き放した。3位から6位は順に、京都府(8%)、北海道(7%)、千葉県(6%)、愛知県(6%)で構成比はいずれも1桁台後半だった。7位から10位は静岡県(5%)、沖縄県(4%)、神奈川県(3%)、山梨県(3%)で、構成比は4県とも1桁台前半に留まっている。
JNTOの2021年市場基礎調査によると、地方エリアへの訪問希望率は全体の83.9%と高く、実際の誘客に繋げるポテンシャルのある市場だ。また、中国からの訪日客数を月ごとにみると、7〜8月が突出しており、次が6月、9月の順となっている。
訪日最大のターゲットは20〜40代、競合との差別化がポイント
このように、全市場のなかで最大の訪日旅行者数を擁する中国だが、マーケティングの全体方針として競合国や地域との差別化、中国の国内旅行との差別化を図り、日本ならではの魅力を推しだすことが大切だという。
20〜40代は海外旅行経験者市場全体の最大のボリューム層であることから、この世代に働きかける施策がマーケティング戦略として有効である。そこで、この世代を訪日経験の有無や、旅行の同行者、所得別に4つのターゲットに分類し、それぞれの層に応じた内容を訴求していく。
1つ目は「A:訪日経験者で20〜40代の夫婦・パートナー」、2つ目が「訪日経験者で20〜40代の家族(子連れ)」、3つ目が「20〜40代の世帯可処分所得上位20%(215万円/月以上)」、4つ目が「訪日未経験者20〜40代の夫婦・パートナー」だ。
またサブターゲットとして「20代前半のZ世代」「アウトドア・アクティビティ関心層」「教育旅行関心層」を定めている。
地方でのダイナミックなアウトドア体験にも積極的なグループ
A:訪日経験者で20〜40代の夫婦・パートナー
1つ目のターゲット層である「訪日経験者で20〜40代の夫婦・パートナー」の市場全体におけるシェア率は16.4%で、30代が6割強を占める。
この層の特徴は、訪日経験1回の割合が4割強、2回以上の人が6割弱となっている。
訪日旅行における経験の中で「豊かな自然」の満足度が高いため、アウトドアをプロモーションすることが有効と考えられる。夏季は渓谷でダイナミックに自然を楽しむラフティング、冬季はスキー・スノボなど、地方誘客促進も同時に達成できるアクティビティとともに、ローカルフードやマーケット・日用品などのショッピングなども合わせた地方の魅力を訴求することで消費単価の向上に繋げることが重要だ。
滞在日数は平均5.9日で4つのターゲット中で一番短く、こちらも地方でのネイチャー・アクティビティやプログラムにじっくり参加してもらうことで、滞在日数の伸長が考えられる。
親子で楽しめる自然や風景、街並みに興味があるリピーターの多い世代
B:訪日経験者で20〜40代の家族(子連れ)
2つ目のターゲットは、日本滞在日数が平均6.5日と一番長い20〜40代の家族(子連れ)グループ。この層の全体に占めるシェアは9.8%程度とターゲット中で規模は一番小さいものの、訪日経験2回以上の割合が68.7%と、リピーターの割合が高いのが特徴だ。
訪日ファネルでも、「訪日旅行を比較検討」している段階の人が73.9%と一番高く、この層に魅力的なコンテンツを発信することで、中国市場からの訪日早期回復が期待できそうだ。
攻略ポイントとしては、子連れのため学校休暇に合わせた訪日プロモーションの実施、グランピングなど親子で楽しめる自然関係のコンテンツが効果的としている。風景や遺跡、街並み、夜景などを楽しむ観光も好まれ、地方エリア訪問希望率が92.3%と非常に高いことにも注目。
ただ、言葉に対する不安が比較的あるため、コミュニケーションが円滑にできる受け入れ環境を整備することが大切だ。
テーマやストーリー性のある旅を好む層、日本への認知向上も有効
C:20〜40代の世帯可処分所得上位20%(215万円/月以上)
3つ目は、20〜40代の世帯可処分所得*上位20%で、月に215万円の所得がある高所得者層となる。市場シェアは12.2%で訪日経験1回以上が87.7%と9割近いが、訪日ファネルは12.4%が「無認知」となっており、訪日経験がない人にとっては認知されていないことが窺える。
この層のなかでも特にファミリー層が日本以外の国を選ぶ確率が比較的高いことから、ファミリー層を対象とするプロモーションを強化していく。
興味対象は、お茶・お花などの室内文化体験や美術館・現代アートなどの伝統文化や芸能。ミシュラン店やローカルフードといった食、リゾートやエコツアー、現代建築などが挙げられる。
背景にあるテーマが重要であり、ストーリー性を考慮した情報提供が大切だ。旅行消費額単価を引き上げるためにも、「地方における⾼付加価値なインバウンド観光地づくり モデル観光地」として2022年度に観光庁が選定した11地域を筆頭に、付加価値が高い日本の魅力を効果的に発信することが鍵となる。なお、この層には、インターネット以外にテレビや雑誌などを活用してアピールすることが有効と見ている。
訪日に興味があるものの未経験、内陸都市や中小規模都市居住者とZ世代
D:訪日未経験者20〜40代の夫婦・パートナー
20~40代の訪日未経験者は、全ターゲットの中で最も市場シェアが高いグループで、全体の2割強を占めている。中小規模の都市居住者が多く、この層の45.9%が訪日に興味があるが「比較検討」しているのは3割以下となっており、実際の行動には至っていない様子がうかがえる。
また「無認知」も2割以上存在するので、日本をまず旅行の興味対象にしてもらう施策も重要だ。現段階では、日本の地方に行くことへの関心は低いため、オーバーツーリズムに配慮しつつ主要観光地の魅力発信や、映画やアニメなどのコンテンツから地方への誘客も図っていく。
食のジャンルにおいて「料理体験」に興味があるのも特徴だ。個人旅行に向けた情報提供も必要だが、他のターゲットと異なり、1割近くが団体ツアーに参加するグループであるため、団体旅行の誘致に取り組むことで、地方にもチャンスがあると言える。Cのターゲット層と同様に、言語と日本の慣習に対する不安を持つグループであり、意識的に地方での受け入れ環境整備を促進することが重要になってくる。
20代前半のZ世代についても、日本の映画やアニメ関連のプロモーションに留意し誘致すべきだろう。
リピーター獲得、地方誘致、消費単価アップが中国市場攻略のカギに
全体的な傾向として、中国は北京冬季五輪をきっかけに、スノーアクティビティや雪景色などを目的にした海外への旅行需要が伸びている。スノボやスキーなどのスノースポーツに焦点を当てたり、温泉などの周辺観光を織り交ぜた情報を発信することも、訪日客全体の増加と地方への誘客、宿泊数の増加に有効と考えられる。
BtoBの取り組みとしては旅行会社招聘、ターゲット層ABCに関してはメディアや旅行関係者間のセミナーやネットワーキングイベント、ターゲット層Dは人材育成に重点をおく。BtoCとBtoBtoCでは、インフルエンサー招聘を含むSNSやインターネットによる情報発信や、共同広告、メディア招聘などで認識を広める。ターゲット別の明確な戦略に沿って、中国からの訪日リピーターの増加、地方誘客、消費単価アップに注力することが大切となってくる。
*世帯可処分所得に関する留意事項(割合・レート等)については、JNTOが公開する「訪日マーケティング戦略」P92を参照。
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