インバウンドコラム
観光庁は、令和7年(2025年)度の予算概算要求を公表した。要求額は前年度比約1.2倍の627億6200万円となった。一般会計は前年度比1.5倍となる149億9700万円、東日本大震災からの復興(復興枠)は前年度同額7億6500万円、国際観光旅客税を活用した観光施策は前年度比1.17倍となる470億円を要求した。今回新たに、宿泊施設の再生支援に3億円、免税店のモデル事業費に5000万円を盛り込んだ。ここでは特に注目すべき項目などを詳しくみていく。
(図出典:令和7年度観光庁関係予算概算要求概要)
持続可能な観光地域づくりに67億円、宿泊施設の再生支援対策も
一般会計は前年度と同様、大きく分けて(1)持続可能な観光地づくり、(2)地方を中心としたインバウンド誘客、(3)国内交流の3本柱となった。
1.持続可能な観光地域づくり………66億9600万円
1本目の柱で注目されるのは、2025年度新規計上となる「観光産業再生促進事業」の3億円だ。コロナで大きく落ち込んだ観光業界の中でも特に宿泊施設を対象として、事業再生を集中的に支援する事業内容となっている。観光庁ではこのままでは今後も廃業の危機に直面する宿が増えるとの見方を強めており、宿泊業の再建が急務としている。債務の返済に行き詰まり、本来の力が発揮できていない宿泊施設に対して、観光庁が再生ファンドと連携して、資金援助や事業再生計画の策定、専門コンサルタント派遣など事業再建を図る。
1本目の柱のなかで最も大きな額となったのは、「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」の30億円だ。2022年度国庫債務負担行為の歳出化として計上した。宿泊施設の高付加価値化や観光施設の改修、廃屋撤去や面的DX化に対し、事業費の1/2~2/3を補助する。地域経済の中核となる宿泊施設や観光施設の収益向上を支援することで、観光地一体の面的な再生を後押しする。
次に大きな額となったのは、「地域における受入環境整備促進事業」の14億4000万円だ。インバウンド客急増に伴い、特に問題となっているオーバーツーリズムの未然防止に資する事業、パーク&ライドの導入やバイオトイレの設置など環境に配慮した事業などに対して、1/3~1/2まで補助する。
また、前年度までは地域における受入環境整備の一環として組み込まれていた「インバウンド安全・安心対策」は2025年度では項目を独立させ、1億円を要求した。近年多発する自然災害を鑑みて、インバウンド客への正確な情報発信は不可欠であり、そのためのマニュアル作成や多言語対応、キャッシュレス決済に対応する民間事業者や地方自治体、DMOに対して事業費の1/2を補助する。
観光業界全体の急務となっている人手不足解消に向けては、前年度比3倍となる3億円を計上した。採用活動から機械化による効率的な人員配置、賃上げまで総合的に支援する。そのほか、観光DXモデル事業や民泊、通訳ガイド、統計については前年度からほぼ同等の額となっている。
地方誘へのインバウンド誘客支援強化、新しい免税制度普及に向けた取り組みも
2.地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組………63億4700万円
2本目の柱の内訳は、戦略的な訪日プロモーションに55億円、地方部での滞在促進に5億6300万円、MICE誘致に1億7900万円、海外教育旅行に5500万円、新消費税免税店モデル事業に5000万円となっている。
注目は今回新たに要求した新消費税免税店モデル事業だ。2025年度税制改正において、免税の支払い方法が変更される見通しとなっており、それに伴う小売店での課題解消を目指す。具体的には各地のDMOが主体となり、その地域の工芸品や特産品など高単価商品を販売する小売店に対して、新しい免税制度を普及させるとともに、地域の小売店が共通して抱える免税制度の課題を洗い出し、円滑な運用モデルを構築する事業を支援する。2030年にインバウンド客6000万人、インバウンド消費額15兆円の目標に向け、免税店での販売促進と円滑な運用ができるように体制を強化する。
ユニバーサルツーリズム対応の宿泊施設やツアー造成を強化
3.国内交流拡大………11億5000万円
3本目の柱の内訳は、新たな交流市場・観光資源の創出事業に6億5000円、ユニバーサルツーリズムに5億円となっている。新たな交流市場の創出事業は、アフターコロナの2022年から本格的に始動した取組で、テレワークやワーケーションなどの関係人口づくり、第2のふるさとづくりを後押ししてきた。2025年度では取組地域をさらに増やすために、「初動事業化支援モデル」が新規に追加された。新規で交流創出事業を始めたい地域に対して専門家を派遣し、初動をうまく滑り出せるように伴走支援する
前年度比9.3倍と大幅な増額となったユニバーサルツーリズムでは、インバウンド客だけでなく、旅行が困難な障害者や高齢者でも利用しやすい宿泊施設の改善やツアーの造成を支援する。トイレや客室のバリアフリー化をはじめ、自家発電機など災害時に避難拠点として機能できるような設備を有する宿泊施設に対して、費用の1/2(上限1500万円)まで補助する。
また、東日本大震災からの復興枠のうち、福島県における観光支援事業費は前年度横ばいの5億円となっているが、2025年度は特にインバウンド向けの取組を重点的に行なうとした。東日本大震災前の2010年から2023年の外国人延べ宿泊者数の伸び率推移をみると、全国や東北6県と比べて、福島県の伸び率は低くとどまっている。これらの結果を踏まえ、今後は海外でのPR活動を強化し、インバウンド客の集客を強化する。
(上図は令和7年度観光庁関係予算概算要求概要27ページの右上より抜粋)
インバウンド客の利便性向上のため国際観光旅客税を活用
国際観光旅客税を財源とする施策は、順調なインバウンド客の回復を見込み、前年度比約1.2倍となる470億円となった。国際観光旅客税は既存施策の財源の穴埋めに使うのではなく、より高次的、先進的な施策、緊急性・新規性の高い施策に充てると明言している。具体的には、最先端技術を活用した出入国審査の実現や多言語対応、AIチャットボットの導入、DMOの体制整備、文化財や国立公園等を活用したインバウンドのための環境整備、スノーリゾートの形成促進などが盛り込まれた。
令和7年(2025年)度予算要求概要はこちら
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