インバウンドコラム

インバウンド需要増で「酒蔵ツーリズム」が熱い、地域事例を紹介

印刷用ページを表示する



海外からの観光客が急増する今、地域の特色ある観光資源を活用した体験型コンテンツの造成や、地域独自の食文化・歴史・伝統などの体験コンテンツの推進が求められる。その中で、日本文化を象徴する酒蔵を訪れる体験型観光である「酒蔵ツーリズム*」は、地域活性化のカギとして期待が高まっている。

2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」には、インバウンド需要開拓の重要なコンテンツとして、国内の酒蔵や観光資源などを巡って楽しむことのできる「酒蔵ツーリズムの推進」が明記された。

今回は、酒蔵ツーリズムとは何か、その魅力やインバウンド需要との関係性について解説し、さらには地域活性化につながる成功事例を紹介する。

*「酒蔵ツーリズム」は佐賀県鹿島市の登録商標である。

 

酒蔵ツーリズムとは? インバウンド誘致の可能性

日本酒や焼酎などの酒蔵を訪れる旅は、単なる観光にとどまらず、地域の文化や人々との交流を楽しむ特別な体験である。まず、酒蔵ツーリズムの概要とインバウンド需要との関連について解説する。

 

酒蔵ツーリズムとは何か

酒蔵ツーリズムとは、日本酒や焼酎、泡盛、ワイン、ビール、ウイスキーなどの酒蔵を巡りながら、その地域の人々や伝統的な食文化に触れる旅行のことを指す。

酒蔵での見学や試飲を通じて、お酒が育まれた土地の魅力を体験することができ、観光客は深い満足度を得られるだろう。また、酒蔵だけでなく地域の観光スポットと連携させた行程も人気が高い。

 

インバウンド需要が高まる日本酒

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを機に、日本酒をはじめとする日本産酒類の人気が海外で高まった。また、2024年12月に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産登録されたことも追い風となっている。

日本特有の体験や文化に触れられる酒蔵ツーリズムは、外国人観光客にとって大変魅力的だ。インバウンド消費動向調査(2024年7-9月期)によると、訪日前には30.2%が日本の酒を飲むことを期待し、訪日中には45.8%が日本の酒を飲んだと答えている。訪日中に酒類を購入したと答えた人も2割いた。

調査ではほぼ全員が訪日したら日本食を楽しみたいと答えているが、近年の和食ブームも相まって、和食に欠かせない日本酒は「SAKE」としてその価値が世界的に認知されている。とくに海外では、ワインのように軽くてフルーティーな味わいの日本酒が人気だ。また、日本に比べて圧倒的にヴィーガン(完全菜食主義者)人口が高い欧米では、「米」「米麹」「水」を主原料とする日本酒は好まれる傾向にある。

 

酒蔵ツーリズムを実施するメリット

酒蔵ツーリズムを導入することで、観光地としての価値を高め、地域経済や事業者に多面的なメリットをもたらす。

メリット1.地域経済の活性化

酒蔵ツーリズムは、地域の経済を活性化する効果がある。単に酒蔵を訪れる観光にとどまらず、周辺の観光施設や地域資源との連携を通じて、地域全体の魅力を高めることが可能だ。

例えば、自然景観地・温泉・祭り・神社仏閣・史跡などの観光資源と組み合わせることで、訪れる人々に多彩な体験を提供でき、地域への滞在時間や宿泊需要を高められる。また、地元の飲食店や宿泊施設と連携することで、飲酒機会を提供できるという相乗効果も期待できる。

メリット2.海外販路の開拓・拡大

国内では若年層の嗜好の多様化や高齢化などから日本酒需要が落ち込む中、酒造業界は海外に活路を見出している。
日本政府は日本酒の海外販路拡大に向けて、2020年には2025年の輸出額目標として清酒(日本酒)600億円、ウイスキー680億円、本格焼酎・泡盛40億円を設定したうえで、酒造メーカーを支援をしてきた。直近では「令和6年度(2024年度)予算 酒類業振興支援事業費補助金」や「令和5年度(2023年度)補正予算 日本産酒類海外展開支援事業費補助金」などの公募を通じて、取り組む酒蔵や関連事業者へ支援している。
実際に日本産酒類の輸出額は2021年以降大幅に伸び、清酒(日本酒)やウイスキー、焼酎など、それぞれの酒蔵がインバウンド需要の恩恵を受けやすい状況といえるだろう。このトレンドを受け、酒蔵ツーリズムはインバウンド観光客を惹きつける有力な手段として注目されている。

国税庁|最近の日本産酒類の輸出動向について(2024年3月更新)

出典:国税庁|最近の日本産酒類の輸出動向について(2024年3月更新)

メリット3.酒蔵の事業継続・承継に寄与

前述した少子高齢化や若年層のアルコール離れにより、日本国内の酒蔵数は減少傾向にある。日本酒の消費量が最盛期だった1970年代には、全国で3,000場以上の酒蔵が存在していた。しかし、2021年(令和3年)には約半数となる1,500場程度にまで縮小している。

少子化を背景とした若年世代の働き手不足が深刻化しているが、酒蔵ツーリズムはこの課題を克服する手段としても注目されている。酒蔵ツーリズムで酒蔵見学や試飲などを行うことで、酒造りの根本である「日本酒の魅力」の発信が可能だ。また、地域社会との共生や海外販路の開拓により、酒蔵の事業継続にもつながる。

 

酒蔵ツーリズムの成功事例

日本各地で行われている酒蔵ツーリズムの中には、地域全体の活性化に成功した事例が数多くある。代表的な成功事例から、実施のヒントを見つけていこう。

鹿島酒蔵ツーリズム®(佐賀県)

佐賀県鹿島市で毎年3月に開催される「鹿島酒蔵ツーリズム」は、地域全体を巻き込んだ成功事例の一つである。2012年に地域の「花と酒まつり」や「発酵まつり」などのイベントと協力・連携し、市内6蔵の同時蔵開きを中心とした「第1回鹿島酒蔵ツーリズム」を開催。以後、回を重ねるごとに規模を拡大し、2020年1月には「ふるさとづくり大賞」(総務省)の最優秀賞を受賞した。期間中は、地域住民や観光客が一体となって楽しめるさまざまなイベントが市内各地で開催される。また、各酒蔵が独自の酒蔵体験を提供するためリピーターの獲得にも成功している。

【蔵元】
幸姫酒造、馬場酒造場、富久千代酒造、光武酒造場、矢野酒造、井出酒造、五町田酒造、瀬頭酒造

佐賀県鹿島酒蔵ツーリズム
出典:鹿島酒蔵ツーリズム

ミート×酒蔵ツーリズム(宮崎県)

宮崎県都城市が展開する「ミート×酒蔵ツーリズム」では、酒蔵と地元の畜産業を融合させ、お酒と食のペアリングディナーや酒蔵見学、酒づくり体験などの体験型観光が実施されている。牛、豚、鶏の総産出額日本一を誇り、焼酎売上高で全国トップの酒造会社を有する都城市。地元の特産品である肉料理とお酒のコラボレーションを実現させるために、2018年に焼酎メーカーやワイナリー、食肉加工業者、飲食店などが連携し始動した。都城市の地域資源を最大限に活用し、地域経済の活性化に貢献していると評価されている。また、多言語対応のウェブサイトやSNSを活用した情報発信に力を入れており、海外からの観光客誘致にも積極的に取り組んでいる。

【蔵元】
柳田酒造、大浦酒造、霧島酒造、都城酒造、都城ワイナリー

宮崎 ミートx酒蔵ツーリズム
出典:ミートx酒蔵ツーリズム

 

まとめ

酒蔵ツーリズムは、地域経済の発展や文化の継承、インバウンド観光の促進において非常に大きな可能性を秘めている。日本産のお酒が世界的にも注目を集めている今だからこそ、未来の観光戦略を考える好機といえるだろう。酒蔵ツーリズムが地域の未来を切り拓く大きな一歩となることを期待している。

 

監修者:

やまとごころ編集部

2007年、日本初のインバウンド専門メディアを立ち上げる。以来、インバウンド業界の最前線で取材・執筆活動を展開。数千本にも及ぶ記事の執筆と通算13冊の書籍の企画・編集を手がけ、日本のインバウンド観光の発展に貢献。「インバウンドの、いまと、これからを読み解く」をモットーに、独自の視点から、業界の最新動向と将来展望を鋭く分析し、日々価値ある情報を発信。

 

関連記事:
2024年の日本酒輸出動向、金額2位のアメリカは前年比125.9%増、EUは過去最高を記録

酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは?

日本初の本格的な酒蔵体験に挑戦する長野県佐久市KURABITO STAYの取り組み

最新記事