インバウンドコラム

日本で数が減少する「銭湯」は、インバウンド客には満足度の高い観光コンテンツだった

2019.12.12

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私は、都内の西荻窪駅からバスで15分ほどの場所にあるシェアハウスと民泊、我が家が一体になった一軒家で、2018年6月から家主居住型の民泊を運営している。そんな我が家にはシャワーのみで浴室がないため、家から徒歩5分のところにある銭湯「秀の湯」を紹介している。

▲西荻窪の民泊兼シェアハウスの様子

 

アメリカからのゲストとともに銭湯体験

以前、1カ月以上我が家に滞在していたアメリカ人のマット君をつれて銭湯に行った。彼は大江戸温泉物語に3回も行ったという。ならば、近所の銭湯を案内しようと思い立ったのだ。あらかじめ、タトゥーがあるかどうかを彼に確認したところ、まったくないとのことで一安心。日本の温泉は、タトゥー禁止が多いので、いろいろと面倒だと伝えた。なぜタトゥーが禁止なのかは、反社会勢力組織に属する人が日本ではタトゥーをしているケースが多いからだと説明した。

もっとも後で知ったのだが、一般の銭湯ではタトゥーが禁止されていない。それは、公衆衛生の観点からも、すべての人に開かれているからだ。スーパー銭湯や温泉施設といった民間施設は、場所によって厳しいようだ。

さて、銭湯に到着し、チケットの買い方、タオルの借り方、使い方を説明。さらに浴室に入り、シャンプー等の置き場所も説明。

す、すると、その横にシャワーを浴びている全身タトゥー、いや刺青の日本人のオヤジがいるではないか。それも純和風なデザイン。それを見たマット君と私は、無礼があってはいけないし…ということで、そーっと後ずさりしたのであった。

いずれにしても、マット君は銭湯をたいへん気に入り、その後も一人で何度か足を運んだようだ。

 

銭湯から生まれる気さくな交流

私は、銭湯に手ごたえを感じ、後日泊まりに来たオーストラリア人の女性ゲストも誘った。すると彼女は、ちょうど同時期に日本に旅行で来ている友人に連絡し、新宿に滞在しているのにかかわらず、わざわざ中央線とバスを乗り継いで西荻窪の銭湯まで足を運んでくれた。

そのときは、私の嫁が女湯に一緒に入り、いろいろと銭湯の作法を伝えた。また、露天風呂でゆっくり過ごしていたところ、他の日本人の女性の方何人かが声をかけてきて、英語でいろいろと会話をしたそうだ。

銭湯は、リラックスでき、そしてときに気さくな交流が生まれるのも醍醐味かもしれない。まさに銭湯は、日本体験の絶好のコンテンツだと自信を深めたのだった。

さらに銭湯について詳細を調べたところ、フランス出身のステファニーさんという日本在住のジャーナリストが、銭湯の魅力を発信している。これまでに訪れた銭湯の数はなんと800軒以上で、撮影した写真データは4万枚以上だという。なるほど、すでに、銭湯を深堀りしている外国人がいることは興味深い。

 

東京オリパラに向け、各地で注目を集めるローカル体験が味わえる銭湯

さらに、この11月からは、大阪では銭湯組合と民泊の連携が始まった。大阪市城東区の「ユートピア白玉温泉」で銭湯文化体験会が開催され、近隣で宿泊していた欧米の男女14人が訪れた。入浴前には銭湯の入り方を紹介する動画を観賞し、浴衣姿で血圧を測定。インバウンド向けの仕掛けを思いついた銭湯のオーナーさんらが試験的に行った体験会では手ごたえを感じたそうだ。

銭湯に関する動きは関西だけではない。関東地域では、2020年東京五輪・パラリンピックを控え、川崎市内35の銭湯が外国人の受け入れ態勢を強化する。各銭湯に翻訳機を導入するほか、ノウハウをまとめた接客マニュアルも作成する予定。

これまで、何人ものゲストを近所の銭湯に案内して、わかったことがある。まず、ゲスト自らが銭湯に行きたいと相談されたことは1度もない。ゲストと一緒に銭湯に行き、銭湯のマナーや入り方を教えるなど、こちらが背中を押してあげることが重要だ。そして、1度行くと、銭湯に対する満足度は極めて高いことがわかった。

都内で減少の一途をたどっていた銭湯が、外国人旅行者にクールな体験の場として、活気が戻りつつある。まさか、銭湯がこんなにウケが良いとは思っておらず、民泊を運営して多くのゲストとの触れあいがあったからこそ気づいたことだ。

▲マット君と此松氏

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