インバウンドコラム

稼げる旅ナカ体験をつくるために、今だからこそ取り組むべきこと【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】

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旅ナカ体験に特化したOTAであるゲットユアガイドではコロナ禍で世界中の観光が苦境に立たされた当初から、観光需要の回復期におけるパートナー企業のより早いリカバリーをサポートする活動を続けてきました。

具体的には、コロナ禍で変わる顧客動向、好まれる条件などに関する大規模な調査の実施、レポートや調査結果の公開、観光施設などに向けてタッチレスエントリーやデジタル化の技術提供、共同マーケティングの実施などが挙げられます。

特に、ウィズコロナ時代のキーワードとなるであろう、高付加価値化、DX、レスポンシブルツーリズムなどはゲットユアガイドが長年欧米諸国で取り組んできたテーマであり、豊富な知見や事例を持っている領域でもあります。今回から始まる連載コラムで、こうした話をさせていただくことで、日本の観光に携わる企業の一員として日本の観光再生に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

どこを旅しても素晴らしい体験が見つかる世界を目指して

ゲットユアガイドの創業は2009年、現CEO兼共同創業者のヨハネス・レックが現COO兼共同創業者のタオ・タオの生まれ故郷である北京を訪れた際の体験をきっかけとしています。

タオより1日早く到着してしまったヨハネスは、初めての北京の街で何をしたらいいかも、どこへ行ったらいいかもわからず街を彷徨ってしまい、翌日タオが到着してガイドとして案内してくれるまで北京の街を十分に楽しむことができませんでした。

この体験から着想を得た彼らは、「世界中どこに旅行しても素晴らしい体験が見つかるプラットフォーム」を作ることを決めました。現在ではデータとテクノロジーを駆使して、旅ナカに特化した最大のOTAとして世界140カ国以上で展開しています。

 

旅ナカ体験にはどのような種類がある?

旅ナカは、文字通り旅行中に行うこと全てが含まれます。日本では旅行といえば団体という時代が長かったため、旅ナカ体験といってもまだ認知度も低く、利用者もそれほど多くないのが現状ですが、世界では多種多様な商品が存在しています。もちろん、旅行者の属性やマーケットによっても異なりますが、大きくは以下のようなカテゴリーに分けることができます。

1.アトラクションチケット(観光スポットのチケット)
2.ウォーキングツアー(徒歩圏内の短時間ツアー)
3.デイトリップ(日帰りツアー)
4.ホップオン・ホップオフバス(乗り降り自由の周回バス)
5.シティクルーズ(川や海からの観光)
6.トランスファー(空港の送迎)

さらに、クッキングクラスや文化体験などのアクティビティーから地下鉄などが乗り放題になるシティカード、日本などで人気のWi-FiレンタルやSIMカードなど非常に多様な品揃えとなっています。

 

「いつか行って見たい国リスト上位」に選ばれる日本

米コンデ・ナスト・トラベラー誌で昨秋、京都が世界一魅力のある都市に選ばれたことも一例ですが、旅行好きの欧米人が多いゲットユアガイドの社内にも「日本はいつか行ってみたい国のリストの一番上だよ!」と公言している社員が多くいるなど、観光地としての日本人気は高まるばかりです。コロナ禍においてゲットユアガイドが欧米7カ国、7000人へ調査した「次に行きたい旅行先」のアンケートでも、近場が注目されるなかアジアでは唯一東京が含まれていました。


▲コロナ禍で近場の旅行が注目されるなかでも日本は高い人気を維持している (提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

 

ウォーキングツアーに可能性あり

そんな中で私が一番大きなポテンシャルを持っていると思うのが、「ウォーキングツアー」です。日本人には馴染みが薄いですが、ウォーキングツアーは文字通り、徒歩圏内をガイド付きで数時間歩いてめぐるツアーで、特に欧米圏で人気の高い商品です。

日本では、世界遺産などの観光スポットは自分で見て回ることが多く、ウォーキングツアーが行われるイメージはないかもしれませんが、実はフランスのルーブル美術館やイタリアの世界遺産「コロッセオ」では売上の大きな割合をウォーキングツアーが占めており、チケットのみの売上の方が少ない観光地も多く存在しています。

一方、日本のゲットユアガイドにおいて同様の観光スポットではほぼ全ての売上がチケット販売によるもので、ほとんどの場所ではウォーキングツアーのような商品が無いか、ボランティアガイドなどの形で無償提供されている状況です。日本中にある主要な観光スポットや観光地の売上金額がそれだけ増える可能性があることを考えると、日本におけるウォーキングツアーのポテンシャルの大きさと日本の観光産業へのインパクトの大きさがわかるかと思います。

もちろん、ただウォーキングツアーを作れば売れるほど簡単な話ではありません。団体旅行などで見られるような、通り一遍の「案内」ではなく、質を重視していくことが非常に重要になります。日本でもスタートアップの企業で質の高いウォーキングツアーを欧米向けに展開している企業は多く存在しています。

提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

 

旅ナカ体験の高付加価値化に必要な3つの視点

日本の旅ナカでは、団体旅行や値引きを好む層がボリュームゾーンとして存在するアジア圏の旅行者が多いため、割引が多く行われてきました。ただ、人間のオペレーションが大半の旅ナカは、製造業などの大量生産によって経験曲線で質を上げながらコストを下げることができる業界と異なり、ボリュームが増えるとオペレーションの質は必然的に下がります。感染症対策などでボリュームを絞らざるを得ない今後、旅ナカの領域において日本の事業者の多くが課題として感じているのがこの高付加価値化ではないでしょうか。

付加価値とはつまり顧客のニーズを満たし、不満を解消することで感じてもらえる価値だと思います。ホスピタリティ業界ですのでいわゆる「おもてなし」に対してお金をとることに抵抗を感じる方が多いように感じますが、サービスに対して適性な対価を得るのは、悪いことではないと考えることは重要です。

特に欧米に関しては、チップ制度など受けたサービスに対して感謝の気持ちを表すために対価を払う文化があるからでしょう、「こんなに良くしてもらったのに、こんなに安いのは申し訳ないからチップを渡したい」と日本を訪れたゲットユアガイドの社員から言われることも多々あり、サービスと対価が釣り合っていないことが多いと感じます。適性な対価をいただくことで、質の高いサービスを提供する人が報われるように還元したり、より良いサービスを提供する仕組み作りへ投資したりできるようなります。

ゲットユアガイドは創業当初から顧客ニーズに寄り添って事業を展開してきました。そしてデータに基づいて決めた複数の条件を、新規商品の掲載条件としています。ホテルの客室や飛行機の座席の良し悪しと比べて、旅ナカ体験のそれはそのまま旅行の成否につながりやすいため、旅行者にしても料金が安いことは一番のプライオリティーではありません。ここではまずそういった基本のニーズを満たす点について解説します。

1.直前までの予約受付

ホテルや飛行機のチケットに比べて、旅ナカ商品の予約は直近で予約される傾向があり、直前まで予約を受け付けることは予約数を伸ばす上で非常に重要な要素です。またこの傾向は、状況が見えづらいコロナ禍においてより顕著になってきています。

2019年の時点で既に平均的な予約の大半がアクティビティの開始24時間以内の予約でしたが、コロナ禍ではその傾向はより顕著になり、24時間以内の予約の割合は、新型コロナウイルス感染症発生前と比較すると20%以上増えており、反対にアクティビティ開始2日前から1ヶ月前の予約は30%程度減少しています。こういった傾向はキャンセル料に対するリスクへの懸念と感染症の状況や都市のロックダウンなど状況が見えづらいことによる傾向と見られています。

実際に直前予約に対応していなかった商品が予約期限を短縮することによって、4割以上予約が伸びた事例があります。また直前に予約をする旅行者にとってはどこよりも安い料金は最優先事項ではないため、「直前に決めたい」ニーズを満たすことで単価をあげることも可能なのです。こういったことはホテルや航空業界ではレベニューマネジメントとして行われてきており、旅ナカでも取り入れていくことは可能です。

また観光施設などでは、仮にウェブ予約を導入していても、直前予約に対応していなければ、入場受付で直前に予約した人の照合作業ができず、運営スタッフの負担増に繋がることも考慮しなければなりません。

2.即時予約

ゲットユアガイドでは原則的に全ての商品は即時確定であることを必須としています。旅行者の立場から考えると、ホテル予約からレストラン、映画チケットまでがインターネットで即時予約確定が当たり前の時代に、予約の確定まで最大24時間待たなければいけない商品はテクノロジーなどを駆使して変えていく必要があることは明確です。またリクエストベースの商品を予約したお客様は他の旅行の計画もあるため、予約が確定するまでカスタマーサポートに連絡を何度もして状況の確認をしていることがわかっています。

例えば家族旅行で前夜に翌日の予定を考えているときに、すぐ確定できるツアーと確定まで最大24時間かかるツアーがあった場合、どちらを予約するでしょうか? 実際には2時間で確定できたとしても、確定まで最大24時間かかるといわれると、そのツアーを特定するよほどの理由がない限り、値段が1割高かったとしても即時予約確定できるツアーを予約するのではないでしょうか。

3.キャンセルポリシー

コロナ禍において、キャンセルポリシーは旅行者の意思決定に大きな影響を及ぼすようになりました。感染拡大によるロックダウンなど旅行者がコントロールできない外部要因が増えたため、返金不可ポリシーは旅行者にとって大きなリスクです。そのため、旅行者は従来よりも予約にコミットすることを避けるようになりました。

ゲットユアガイドが行った最近の調査でも、「柔軟なキャンセルポリシー」は予約の条件として最も重要と認識されています。実際、ゲットユアガイドの予約動向でも、24時間前までの無料キャンセルが可能な商品は、そうでない商品に比べて予約コンバージョンレートが高くなっています。柔軟にするとキャンセルをする旅行者が増えるのではという不安もあるかと思いますが、コロナ禍においてこういった商品をキャンセルする場合、ほとんどの方が1週間以上前にキャンセルする傾向があることもわかっています。

(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

 

不満や不安を解消することで付加価値を上げる 

上記の例は、「ニーズを満たす」観点からご紹介しましたが、実際はニーズの多くが旅行者が感じる不満から発生していることがわかると思います。高付加価値化には、価値を上げる要素が多いだけでなく、同時に価値を下げる不満要素が少ないことも重要です。

不満要素を取り除くことに対価を求めるのは不安だとの声もいただきますが、実際は旅行者はそういったことに喜んで対価を支払います。その中でも最も手軽に導入できて世界中で人気の商品がスキップ・ザ・ライン(優先入場)です。

 

海外では、優先入場チケットが売上の柱

行列に並んで待つことが好きな人はいないと思います。特に旅行者は旅先での限られた滞在時間を1分も無駄にしたくないと考えています。そういった旅行者に対して人気のオプションが優先入場(スキップ・ザ・ライン)です。文字通り、このオプションを購入することで待機列をスキップすることができます。日本でもユニバーサルスタジオジャパンでは有料販売していますが、海外ではベルリンのランドマークともなっているベルリンテレビ塔やペルガモン博物館などの中小規模の観光施設や博物館でも多く取り入れています。またコストの観点からもオペレーションの整備さえできれば、事実上原価が一切掛からず単価をあげることができるため、日本の多くの観光施設・サービスでも導入するメリットは大きいでしょう。

実際に観光施設においてどの程度の単価アップができているかというと、ニューヨークの有名な観光施設の事例では、優先入場チケットの料金が通常チケットのほぼ2倍の料金にもかかわらず優先入場チケットが売上の大半を占めています。このことからもどれだけ旅行者が時間に対して価値を感じているかがわかります。反面、こういった商品がない場合、機会損失があるだけでなく、長い待ち時間に対するネガティブレビューが寄せられ全体の評価を下げている事例も日本の人気アトラクション施設ではありました。

日本の企業は高付加価値化を考えるときに、「何かをプラスしなければ」となりがちです。それももちろん大切なのですが、需要が減っているこの時期は、お客様の不満を解消することで価値を上げるという視点から今あるオペレーションを見直すにもよい機会なのではないでしょうか。

 

筆者プロフィール:

ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表
仁科 貴生

英国高校留学を経て米国カリフォルニア州立大学を卒業。楽天株式会社に入社後、楽天トラベルで主に北関東エリアでオンライン集客支援を行い、東日本大震災を契機に楽天社内でエネルギー事業の立ち上げに取り組む、その後メタサーチ大手KAYAKの日本事業の立ち上げやホテル予約サイトAgodaにて首都圏・東日本エリアでのインバウンド集客支援を経て2018年よりゲットユアガイドにて日本法人の立ち上げに従事。

 

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