インバウンドコラム

体験の付加価値と売上アップに向けて先進事例共有「タビナカ・サミット2023」開催で得たもの

印刷用ページを表示する



3月23日にタビナカに特化したウェビナー「タビナカ・サミット2023」を開催しました。コロナ禍の3年間を経て、日本におけるタビナカの現状と今後の課題を考える今回のセミナー。事前登録は600名を超え、ライブ視聴は400人以上となり、観光インバウンドが本格的に再開するなか非常に多くの方に興味を持っていただきました。また、参加者の満足度アンケートでも高評価が83%と、本イベントは成功裡に終わりました。

今回は、なぜタビナカに特化したウェビナー開催に至ったのかの背景や、タビナカ領域で活躍するプレイヤーからのリアルな声から見えてきた、観光業界全体が抱える課題などを、共有します。


▲東京・日本橋のレストラン・バー「水戯庵」で毎日披露される伝統芸能

 

日本のタビナカは情報が足りない

海外では旅行の動向に関するイベントやタビナカに特化した展示会などが多く開催されていますし、英語の記事も多いので、業界の動向などについては自然に情報が入ってきます。ところが、日本では言語の壁もあり、圧倒的に情報不足の状況にあると感じています。

そのため海外での事例や動向について国内で事業を展開されている事業者のみなさんが知る機会は限られています。そのため、一部の会社の発信する情報に頼ったり、大手企業の取り組みを見て参考にしたりはあるものの、全くのゼロから試行錯誤で取り組んでいることも少なくありません。

多様な企業が何百社も同じように苦労しながら取り組んでいる現状は、日本のタビナカの発展にとって良いはずがありません。弊社が全国のさまざまな企業とやりとりするなかでも、旅行者の満足度よりも、数をさばくために最適化した団体旅行のノウハウを駆使した薄利多売型の商品を目にすることがあります。その反面、顧客目線にたって満足度の高い商品を十分な利益を得て展開している先進的な企業もあります。ただ、そういった企業の取り組みや事例に関する有益な情報を得る機会がないのが現状です。

また、今観光業界で重要視されている「高付加価値化」の取り組みも、中小規模の企業ほど難易度が高くなり、簡単にできる「値引き策」が横行する可能性が高くなっています。安易な値引きが続けば、既に低い水準の旅行業界の収益性をさらに押し下げ、有能な人材がさらに離れてしまうのではと懸念しています。

旅ナカ体験の付加価値向上と売上アップに繋げるべく、先進的な企業の取り組み事例や課題を共有してもらう場があれば観光事業者のボトムアップに繋がります。そうすれば、日本のタビナカ全体の効率があがり、日本政府も目指すところである旅行商品の高付加価値化と観光立国への近道になるのではないか、そんな考えのもと、株式会社JTBにスポンサーとして賛同いただき、今回のタビナカ・サミットの企画は始まりました。

 

先進企業が語ったタビナカの課題と取り組み

今回のイベントではタビナカの数あるジャンルの中から、「ウォーキングツアー」「モビリティサービス」「観光施設」「伝統芸能」の4つに絞ってセッションを行い、タビナカを舞台に活躍される企業から10名の企業経営者や幹部の方などに登壇いただきました。

「ウォーキングツアー」は、MagicalTrip株式会社(居酒屋などを巡るフードツアー)、Japan Guide Agencyを運営するJGA株式会社(通訳案内士専門のガイドツアー)、株式会社ジェイノベーションズ(渋谷の観光案内所を中心に渋谷のエリアで無料と有料ツアー)、株式会社ノットワールド(築地場外市場の食べ歩きツアーの草分け的な存在でありガイドの地位向上の取り組みも行う)という、それぞれ異なる切り口から活躍される4社のみなさんに、ウォーキングツアーの課題と取り組みについて伺いました。

「モビリティサービス」のセッションでは、スカイホップバスマーケティングジャパン株式会社(ホップオンホップオフバスを東京と京都で運行)、株式会社SmartRyde(空港送迎のプラットフォームを世界で展開)、株式会社AirX(ヘリコプター遊覧ツアーを展開)という乗り物を観光ビジネスに活用されている3社に、海外で人気の高いモビリティ関連の観光商品の日本での可能性について伺いました。

「観光施設」のセッションでは、積極的に付加価値向上の取り組みを行っている株式会社TOKYO TOWERから、インバウンドや個人旅行者だけでない多様な客層の取り込みを行う観光施設に客層のバランスをとりつつ高付加価値化の取り組みを行う課題についてお話を伺いました。

そして「伝統芸能」のセッションは、実際に伝統芸能をビジネスとして取り組んでいる水戯庵オーナー木村英智さん、そして伝統芸能に携わる邦楽演奏家の麻生花帆さんにビジネス側と演者側の両面から伝統芸能の観光への活用の可能性について伺いました。

 

業界が抱える共通の課題「人手不足」にどう向き合うか?

サミット全体を通して、全事業者に共通していた課題は「人手不足」でした。

観光に携わる人材は、ホスピタリティなどの素養に加えて英語力、さらにモビリティサービスの場合は特殊な免許などのスキルも求められる反面、長く続いたコロナ禍によって他業界に人材が流出しているためこうした人材をまた観光業界に呼び戻すためには給与も含めた待遇の改善が必須となります。

こういった観点からも高付加価値化で企業の利益率の改善が必然であり、コロナ前のような利益度外視で数だけを追い求めるマインドセットから脱却していくことが高付加価値化に向けて必須だと感じました。

また、高付加価値化の取り組みや対策については、デジタル技術の活用した効率化や商品展開、オンラインの活用などが鍵になってくるように感じました。

詳しくは、実際のウェビナーをアーカイブ配信していますので、ぜひご覧ください。自社の取り組みに一見関係ないカテゴリーでも、新しい取り組みのヒントになるような知らなかった話が非常に多いので、是非全セッションを視聴していただきたいです。

 

タビナカは「競争」より「共創」でマーケットを拡大できる

ウェビナー開催後に、登壇者と他のタビナカで活躍される事業者の皆さんをお招きしてオフラインでの交流会を東京・日本橋、福徳神社の森の地下にある水戯庵で実施しました。ここはカジュアルに日本舞踊や能などを食事とともに楽しめるユニークなレストランで、毎晩3回伝統芸能の短時間のダイジェスト版を楽しめるため海外の旅行者にも非常に人気があります。


▲交流会では登壇者の麻生氏がアドリブで小鼓の演奏を披露

水戯庵のコンテンツは、ゲットユアガイドにも掲載されています。高付加価値化の取り組みとしては、従来できなかった座席指定を「有料オプション」として提供しています。できるだけ安価に楽しみたいというお客様がいる一方、多く支払ってでも、良い席で楽しみたいという要望を持っているお客様も多くいます。そうした人に対して選択肢を提供することで、良い席で見たいお客様の要望を満たすのはもちろんですが、良い席で見られなかったお客様の不満をなくしながらレストランの収益性も高めることが可能となります。

交流会では、タビナカで事業を展開されている皆さんと普段接点のない他の事業者とが、共通の課題について業界を超えて活発な議論を交わしていました。


▲交流会では、各企業や組織の取り組みについて活発な意見交換がなされた

ウェビナーで全ての登壇者が共通してまだまだ道半ばだと語っていたように、日本のタビナカも高付加価値化の取り組みも、まだ理想とするレベルの半分にも到達していません。拡大を続けるタビナカにおいては競合関係を超えて協力することで生まれる価値が多分にあると感じています。新しいガイドの育成ノウハウや事例を共有することで全体の利益になることが多く、そういった具体的なことを議論する共創の場として交流会は盛り上がりました。

今回のタビナカ・サミットは、3年間のブランクから抜けたタビナカの課題を共有し解決への糸口を探る、タビナカの現在地を確認するイベントでした。今後は今回あぶり出された課題をさまざまな形で解決する取り組みを行い、具体的な高付加価値化の成功事例を共有する場として、日本のさまざまな事業者さんが学び自社の取り組みに活かすことで日本の高付加価値化につながるようなイベントを企画できればと考えています。


▲登壇者と交流会に参加したメンバーとの記念撮影

 

筆者プロフィール:

ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表
仁科 貴生

英国高校留学を経て米国カリフォルニア州立大学を卒業。楽天株式会社に入社後、楽天トラベルで主に北関東エリアでオンライン集客支援を行い、東日本大震災を契機に楽天社内でエネルギー事業の立ち上げに取り組む、その後メタサーチ大手KAYAKの日本事業の立ち上げやホテル予約サイトAgodaにて首都圏・東日本エリアでのインバウンド集客支援を経て2018年よりゲットユアガイドにて日本法人の立ち上げに従事。

 

最新記事