インバウンドコラム

旅ナカ体験、次に来る商品は? 主要OTAが語るヒット商品と地域再発見のヒント

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訪日市場が盛り上がりを見せ、日本の旅ナカ市場も次のフェーズに突入しつつあるなか、“これからの売れる体験”とは何なのでしょうか。
観光の形が大きく変わる中で、OTA各社はどのような変化を捉え、どこにチャンスを見出しているのでしょうか。

2025年6月30日に開催された「Tabinaka Summit 2025」では、オンライン・オフラインあわせて900名を超える申し込みがあり、当日も業界関係者を中心に高い熱気に包まれました。
なかでも注目を集めたのが、GetYourGuide、Klook、KKday、ベルトラ、アソビューという主要5社によるパネルディスカッション「主要OTAが読み解く旅ナカ体験の最新トレンド」。国内外でツアー・アクティビティ予約をリードするプレイヤーが一堂に会する、非常に貴重なセッションです。

本稿では、このセッションで見えた業界動向と、登壇者との対話を通じて得た気づき、そして登壇者として感じた現場の実感をもとに、今後の旅ナカビジネスの可能性を読み解いていきます。

 

相撲、SNS映え、プライベートガイド…いま“売れる”体験に共通するもの

モデレーターを務めた株式会社JTBの青柳さんから投げかけられた質問に、5名の登壇者がフリップで回答を提示する形式で行われた本セッション。

多くのトピックスにおいて、OTA各社の見解や課題認識は非常に近いものであった印象を受けました。

なかでも、今回の議論において最も関心が高かったのが「売れているタビナカ商品」の傾向です。幅広い商品を扱うOTAの売れ筋は、市場全体の需要を読み解くうえでも、示唆に富んだ内容でした。

キーワードとして挙がったのは「プライベートガイド」「SNS映え」「相撲」など。これらはいずれも、現在の旅行者の価値観やニーズを反映しています。

なかでも、私が挙げた「相撲」は、日本の体験価値を象徴する商品と言えるのではないかと思います。

従来から人気のあった大相撲の観戦チケットに加え、近年急増している“相撲体験ができるレストラン”は、特に欧米圏の旅行者の間で爆発的な人気を誇っています。料金は2時間で1人16,000円と、都内のホテル1泊に相当する価格帯。それでも、好況下を得ている点は、旅行者が「体験」に強い価値を見出していることの証といえるでしょう。

また、プライベートガイドのニーズの高まりも、重要な動きです。旅行者の多様なニーズに応じた柔軟なサービス提供は、顧客単価と満足度の両方を高め、高付加価値化を目指す日本の観光業にとって大きなヒントになります。

 

写真の質と即時予約が決め手に、失注を防ぐ“買いやすい商品”の条件

もうひとつセッションで挙げられていた重要なテーマは、写真などの商品の「見せ方」と「予約体験」に関する点でした。

特に写真は、商品の魅力を直感的に伝える重要な要素です。どんなに優れた体験商品でも、写真が少ない場合、旅行者が体験の内容をイメージすることができず、魅力が伝わらないため、予約数にも直結します。

即時予約の重要性も、共有された論点の1つです。GetYourGuideでは、現在リクエストベースの予約は受け付けていません。その理由は、リクエスト後に承認されなかった場合、旅行者の行動計画が崩れてしまう大きな顧客体験上の課題があります。

実際、かつて当社でもリクエストベースの商品を掲載していたころには、予約確定を待つ旅行者からの問い合わせが非常に多く届いていました。またベルトラの二木さんも「リクエストベースの予約が結果として、事業者の負担を増やしている」という点を指摘していました。

▲左から、ベルトラ株式会社二木渉氏、GetYourGuide株式会社仁科貴生氏

もちろん、人の手配が必要な体験商品では、即時予約が難しい場合もありますが、商品設計の工夫によって実現している事例もあり、改善の余地は十分にあると感じています。実際に、そういった商品が差別化や高付加価値化につながっている事例も多くあることから今後も取り組んでいく必要がある点ではないかと思います。

 

集中する人気、広がらない地域、旅ナカの成長を阻む壁とは?

セッションでは、旅ナカ市場の成長と、それに伴う課題についても多くの議論がありました。まず成長については、登壇したOTA各社とも、顕著な伸びを実感しているという認識が一致していました。

一方で、課題として多く挙がったのが、以下の点です。

・需要の一極集中(人気施設や人気の観光地への集中)
・アクティビティ、ツアーなどのキャパシティ不足と地域的偏在
・ITやテクノロジーなど事業者側のリテラシー不足

Klookの田中さんやアソビューの江部さんからは、たとえば長野県のスノーモンキーのような人気観光地に人が集中するものの、他の場所には寄らず、そのまま都心へ戻ってしまうパターンが多く、地場の観光施設への波及に成長の余地があることを指摘していました。

▲左からアソビュー株式会社江部隼矢氏、Klook Travel Technology合同会社田中美晴氏

私自身も同様の問題意識を持っています。

また、供給については、潜在的な需要を捉えた新しい商品の不足も1つの要因だと感じています。

近年ヒットしている相撲レストランのように、以前は存在しなかった体験商品が急成長している背景には、「見えにくい需要」を捉えた商品開発の重要性も挙げられます。日本には文化的コンテンツが豊富にあり、今後も価値ある未開拓の資源が多数存在すると考えています。

 

進化するOTAのテクノロジー対応に、地域は追いつけるか? 

テクノロジー対応についても、課題として共通認識がありました。OTA側はシステム開発や導入など、テクノロジーの活用に積極的ですが、それを生かす現場のITスキルや活用力に差があり、これが地域事業者の集客力に影響を与えているケースも見られます。特に、AIの登場によってテクノロジー活用の仕方が大きく変化していることから、デジタルリテラシーへのニーズは高まるとの意見がありました。

 

旅ナカ市場が次に踏み出すべき一歩

今回のセッションを通じて、旅行者の体験に対する価値観の変化や、高付加価値化・地域分散・デジタル対応といった旅ナカ市場の進化と課題が浮き彫りになりました。

まだ埋もれている地域資源や文化体験には大きな可能性があり、商品造成・流通・顧客接点のすべてにおいて創意工夫の余地が残されています。

会場は終始、登壇者・参加者の熱気に包まれ、競合であるはずの各社が業界全体の発展に向けて真摯に意見を交わす姿勢が印象的でした。
 その光景は、タビナカ領域がいま最も注目すべきフィールドであることを改めて実感させられるものであり、この熱量を一過性のものとせず、業界全体で連携しながら「旅行者にとって本当に価値ある体験」を創り出していくことの重要性を再認識させられました。

250名以上が参加し早期に完売となったネットワーキングセッションでは非常に多くの参加者が積極的に意見を取り交わす熱量の高さが印象的でした。


▲サミット後に行われたネットワーキングセッションの様子

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