インバウンドコラム

中国からの訪日旅行解禁、完全回復はいつになる?  日本旅行のトレンドを徹底予測

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8月10日、中国政府は、中国の旅行会社に対して、日本、アメリカを含む78の国や地域への「団体旅行」及び「航空券+ホテル」の造成・販売を解禁しました。少し補足すると「中国からの“団体旅行”が解禁」と思っている方が多いようですが、正確な通知内容は「中国からの“団体旅行”、及び、“航空券+ホテル”が解禁」であり、団体旅行だけではなく、個人パッケージツアーの造成、募集、販売も可能になりました。

この解禁発表直後のWeChatのモーメンツ(投稿機能)には、中国旅行会社の友人達が、多くの喜びの声を交し合い、日本メディアの訪日解禁に関する報道記事や映像等のシェアで溢れました。また驚いたことに、解禁発表の翌日(8/11)には、多くの旅行会社から、日本旅行商品の募集広告がSNSなどに投稿され、一夜にして、訪日ブームが訪れました。いかにこの解禁を待ち望み、着々と準備をしていたか、彼らの努力を感じざるを得ません。


▲旅行再開後の8月11日、空港でお客様をお迎えする様子(提供:株式会社フレンドリージャパン)

 

なぜ中国は、このタイミングで海外への団体旅行完全解禁に踏み切ったのか?

一部の旅行会社から、「8月10日か11日に、日本、アメリカを含む全世界に対して旅行を解禁するのではないか」といった話が、その数日前から聞こえていました。ただ、5〜6月にも業界内で同様の噂がありましたが、噂止まりだったので、実のところ、私はさほど気に留めていませんでした。台湾問題や日本の処理水排出問題があるなかで、このタイミングでの日本やアメリカへの旅行解禁は無いのでは、とも感じていました。

では何故、中国政府は、台湾問題で敵対しているアメリカ、そして、その友好国であり、かつ、処理水の排出問題で課題を抱えている日本への旅行を解禁することに踏み切ったのでしょうか。

それはズバリ、中国経済の情勢不安が背景にあると考えます。

中国経済は、ゼロコロナから脱却後、政府が思い描くようには回復せず、なかなか打開策が見いだせない状況です。特に若者の失業率の高さは異常で、自由に意見や考えを発信できるSNS上ではプロパガンダが利かず、政策に対する批判が目立ってきました。そこで、中国政府は、国民からの批判に対して、国内の経済を回すことを優先と考え、世界各国との交流を促進すべく、海外旅行の全面解禁に舵を切ったものと考えられます。

その裏付けとして、7月19日、中国政府(国務院)は突如、中国の民営経済(民間資本を利用し, 民間人が営む経済)を発展させることを強調した意見書を発表しています。近年、中国政府は愛国運動をはじめとした国家主導政策を推し進めてきましたが、経済回復が進まない状況を受け、あらためて民営経済の重要性を訴えたのです。

2022年12月にゼロコロナ政策を撤廃してから約8カ月、スッキリしない状況が続いていましたが、ようやく中国インバウンドの復活を阻害する要素が無くなりました。

 

今後中国で沸き起こる訪日ブーム、完全回復の時期を大予想

最も肝心とされる「中国人の訪日旅行ニーズ」に関しては、旅行会社やメディアの声を聞く限り、間違いなく期待度・関心度は高いものであると断言します。私自身の体験として、今年6月、日本の大手鉄道グループのセールスコールにて、上海・杭州の旅行会社13社を訪問しましたが、3年半ぶりの再会に、熱烈な歓迎を受けました。そして、各社の訪日責任者と話したところ「まもなく訪日ブームが再来する」「ポテンシャルは間違いなく日本が1番」「一刻も早く日本旅行を再開させたい」と、声を揃えて話していました。

あとは日中間の航空便の完全復便を待つだけです。現在、中国と日本を結ぶ航空路線は、週に約420往復の便が運航しており、2019年の半数弱まで回復しています。再開や増便が遅れていた航空会社も、コロナ渦で減少した人員や機材の回復に向けて鋭利奮闘中で、一刻も早い路線回復を目指しています。

そうした点を考慮した上で、私は、年末から来年2月の春節頃までに、中国インバウンド市場は完全に復活すると予測しています。もちろん、その前段階で、今月から右肩上がりの上昇傾向が更に加速し、月毎に回復度合いが進んでいくことは言うまでもありません。

 

中国からの訪日旅行再開は、すでに今年の春から始まっていた⁉

ところで中国市場は、8月10日以前から、個人旅行商品ではなく個人手配サービスによる中国人観光客の来日が始まっており、毎月、増え続けているのをご存じでしょうか?

中国政府は、2月6日に20カ国、3月15日に40カ国に対しての海外旅行を解禁しましたが、最も人気が高く、稼ぎ頭である日本が対象外だったことで、一時は、旅行会社の皆さんは大きく落胆していました。

しかしながら、2023年3月頃(地域によっては5月頃)から、訪日個人観光のシングルビザ発給が再開しました。交通や宿泊などをパッケージにした旅行商品は販売出来ませんでしたが、個人観光ビザの取得は可能だったので、日本との航空路線が続々と増便するなか、「エアー&ビザ」というように個人旅行を手配するという形式で、お客様へ旅行サービスを提供していました。

 
▲訪日旅行商品の一例、旅行再開を受けて各旅行会社が積極的にアピール(提供:株式会社フレンドリージャパン)

それはJNTO訪日外客統計でも実績として表れています。7月の推計値では、中国からの訪日人数は、31万3300人となり、コロナ前2019年比で30%に留まったものの、完全に回復基調であるインバウンド全体の中で、韓国(62万6800人)、台湾(42万2300人)に次いで、3番目に多い人数でした。この右肩上がりの傾向であれば、今回の訪日団体旅行等の解禁を受けて、その回復が更に早まることは容易に想像がつきます。

なお、今回の解禁報道を受けて、弊社のクライアントを含めて多くのインバウンド関係者から、「いよいよ中国から大量に団体客が押し寄せますね」といった声をよく耳にしますが、そのようなことにはならないでしょう。

なぜなら、すでに中国からの訪日は、コロナ前(2019年)にはFITが主流のスタイルになっており、その後コロナ禍を経て、以前に増して大人数での行動を避ける傾向が強くなっているからです。そのため今後、訪日旅行においても、大人数の団体旅行よりも、FITや小グループが中心になります。

 

中国人旅行者のトレンドを表すキーワード

最後に、今後、どのような旅行が主流になるのか、旅行会社や観光メディアの意見を交えて簡単にお伝えします。

コロナ後の旅行トレンドは「自然体験」であり、特に、アウトドア、キャンプ、スノーリゾート、ビーチリゾートです。ゲートウエイである大都市から行ける郊外観光地、いわゆる「プラスワン観光地」はチャンスです。

中国の国内旅行では人里離れた「隠れ家的」なマイナー観光地も注目されているので、個人観光客が自力で行けるアクセスルートをしっかりと提示ができれば、どこの観光地にもチャンスはあります。

また、中国人観光客の消費意欲は衰えておらず、約4年ぶりに味わえる日本でのショッピングは、訪日観光に不可欠な要素です。円安効果の後押しもあり、確実にコロナ前よりも一人当たりの消費額は増えています。ただし、かつてよく目にした大型家電を大量購入するような「爆買い風景」ではなく、個人個人が自分の好きなものを、好みのショップで、値段に関係なく購入する傾向が高まると思います。

中国市場の完全復活に向けて進みだした今、確実に日本の自治体や観光業の皆様にとって、大きなチャンスであることは間違いありません。このタイミングを逃さず、中国への情報周知&拡散PRや誘客拡大プロモーションをするかどうかで、将来的に「勝ち組」になれるかどうかの分かれ道ではないでしょうか。

 

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