インバウンドコラム

中国旅行会社に聞く 2024年春節の最新旅行動向、団体旅行は今後どう変化する? 訪日回復時期を徹底予測

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もうすぐ、中国最大の大型連休である春節期間が訪れる。2024年は、2月10日から8日間が公休となる。

中国の旅行業界では、2023年末から年明けにかけて、春節に向けた海外旅行商品の販売が過熱している。中国の旅行会社としては、コロナ後初めて迎える本格的な春節シーズンとして、海外旅行の造成にかける思いはひとしおである。

そこで弊社は、懇意にしている中国の旅行会社に対して、ヒアリングを実施した。今回はそこから見えてきた春節期間の日本への注目度や、中国での最新旅行トレンドなどをお届けする。

 

なぜ日本が人気? その背景を考察

中国旅行会社へのヒアリングの結果、多くが「日韓、東南アジアが人気の旅行先になっており、その中でも1番人気は『日本旅行』だ」と回答した。

2023年は、インバウンド市場全体が好調の中、中国市場だけは、「ゼロコロナ政策の長期化」「団体旅行及び個人パッケージ商品の販売規制」、そして「処理水問題」など幾多の政治問題により、なかなか回復せず、他市場に大きく遅れを取った。

それが大きく変わる転機になったのは、2023年11月17日の日中首脳会談だった。その会見で「国民交流」や「2国間協力」といったワードが出たことで、日中の交流における弊害が緩和され、訪日旅行の回復へとつながった。以降、目に見えて、訪日観光ビザの取得が容易になり、旅行会社の訪日ツアーの造成・販売が活発になり、日中間の航空便が増便された。

その結果、そもそも中国人観光客から圧倒的に人気が高かった「日本旅行」が注目を浴び、一気に回復に向かったと考えられる。

なお、日本以外では、東南アジア、韓国といったアジア圏が人気になっている。また、スイスやカナダのスキー場、温暖なアジアのビーチリゾートもピンポイントで人気の目的地となっているようだ。そのような情勢を踏まえ、現地旅行会社からの意見も含めて、今後中国からの訪日旅行はどうなるのかを予測する。

 

徹底予測、中国人観光客の訪日回復シナリオは?

JNTOの訪日外客統計によると、2023年12月の中国からの訪日客数は、11月から5万4000人増え、31万2400人、2019年同月比44%となり、11月の同月比から10ポイントアップした。

この調子で推移すれば、2月の春節シーズンには同60%、春の桜シーズンには同70%、夏のピークシーズンには同90%、そして、2024年中に、2019年の人数を超え、過去最高を記録すると予測する。

中国の旅行会社も、「日本商品はすでにFITを中心に売れており、2024年には一気に回復する」と話す。

ただし、中国市場が順調に回復するためには、1点、僅かに不安要素がある。先日の台湾総統選において、中国と距離を置く民進党の頼清徳氏が当選したことを受け、今、中国政府は必要以上に神経質になっている。これにより日中関係に悪影響が及ぶことは考えられないが、しかし、日本の政治家やメディアが、この中台関係について中国政府を刺激するような発言や報道をしたならば、再び大きな影響が出ることは免れない。是非とも、無神経な発言や報道を控えていただきたいものだ。

 

変化する中国人の旅行形態、小グループや着地型ツアーが主流に

現在の中国の旅行形態は、団体ツアーから、FITパッケージ及び小グループの個人手配旅行にシフトしている。特に、「エアー&ホテル」に加え、「1日観光」「鉄道チケット」「移動用ジャンボタクシーや専用車」「入場チケット」などを個別購入できるパッケージ商品が人気である。その要因としては、本来、中国人は束縛を嫌い、「自由に楽しみたい」というニーズが強いことに加え、訪日観光個人ビザの取得が容易になったことが追い風となった。

もちろん、団体ツアーがなくなることは無い。今でも、ゴールデンルート(東京~大阪)などを大型バスで巡る団体募集ツアーもある。しかしながら、今は団体でも価格的メリットが出しにくいため、縮小傾向になりつつある。

その代わりに注目されているのが、「着地型・募集ツアー」だ。これは、FITで来日した中国人観光客を日本で団体化して、1日だけの団体ツアーとして案内する形式だ。中国人観光客は、このような1日バスツアーや1泊ツアーに参加することにより、不慣れな都市での不安や言葉の心配もなく観光を楽しみ、一方で個人旅行の気ままさも味わえるようになる。このように、日本に来てから団体となる「着地型・募集ツアー」の開発、告知PR、受入整備は、郊外地域のインバウンド需要を盛り上げるための起爆剤になり得るだろう。

 

マイナーな観光地、親子旅、教育体験プランなど多様化する訪日ニーズ

今、中国人の旅行トレンドのテーマは、 「自然」「体験・経験」である。コンテンツとしては、「温泉」「ビーチリゾート」「ウィンタースポーツ」「キャンプ体験」「海や川遊び」「トレッキングやサイクリング」「街歩きショッピングや食べ歩き」などが挙げられる。

その中で「街歩き」は、自由行動中のメイン体験である。円安の影響でショッピングでもグルメでもお得感が高まっており、「街を散策するだけで十分に楽しい」と評価が高い。ショッピングやグルメを観光コンテンツと分けて考えるケースが多いが、日本に来て、街を散策する中で、ショッピング+食べ歩きをすることは、「モノ消費」だけでなく、「コト消費」と考えるべきだと、常々思う。

加えて、最近流行しているコンテンツは、「レトロな街並み」である。今、中国で流行している90年代の上海を舞台にしたドラマ『繁花』の影響もあり、中国国内では上海の歴史的建物、外灘界隈や黄河路というレトロな街並みを訪れ、写真を撮ってSNSにUPする観光スタイルがブームになっている。今後、日本においても、昭和の風景やレトロな雰囲気をうまく演出することが出来れば、誘客するためのキラーコンテンツになるだろう。


▲『繁花』の舞台である上海黄河路

また、日本旅行に期待するコンテンツは、「日本グルメ」や「アニメ」、そして「おもてなし」だ。「日本グルメ」では和食はもちろん、スイーツ、カレー、屋台フードといった幅広いジャンルの食体験が注目されている。「アニメ」は人気作品の舞台を巡る聖地巡礼や、秋葉原や池袋などでのアニメグッズやフィギアのショップの散策なども人気がある。そして何より、日本滞在中、宿泊、観光、食事、買い物など、あらゆる場面での「おもてなし」を絶賛する声も多い。

また、中国の旅行会社からは、「高品質のFIT向けコンテンツ」「マイノリティなおすすめ観光地」「親子旅行向けコンテンツ」「子供の教育体験プラン」といった、他社の日本商品と差別化が出来るコンテンツや情報を求める声が多い。

 

中国市場の回復に向けた課題

深刻なのは、日本でのホテルや専用車不足と高騰、また、空港、宿泊、観光の各施設での人材不足だ。常日頃、中国の旅行会社からも、「ホテルが取れない上に、非常に高い」「人気レストランの予約が取れない」「専用車やガイドの手配が出来ず、お客様を案内することができない」といった切実な声が多く挙がっている。

もちろん、これは中国市場に限定した課題ではなく、官民一体で早急に解決する必要がある。メディアで、「インバウンド需要の回復に伴い、各地でオーバーツーリズムが発生している」などと報道されているが、これは一部の都市やエリアの話である。今後、日本が観光立国を目指し、縮小する国内消費をカバーするためには、この課題を放置することは許されない。

中国インバウンド市場に、ようやく本格的な回復への道筋が見えてきた。辰年2024年、中国インバウンド完全回復と更なる飛躍に期待したい。

 

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