データインバウンド
外国人患者の医療費未払いは9400万円、旅行保険に未加入の訪日外国人は3割。保険の認知度向上も課題
2019.04.16
刈部 けい子訪日外国人の増加に伴い、滞在中に病気や怪我で医療機関を利用する旅行者も増えている。観光庁はそれを踏まえ、2018年6月に「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」を取りまとめ、その後訪日外国人旅行者を対象にアンケートを行った。その結果が3月末に発表されたので、詳しくみていきたい。
訪日中に怪我や病気になった訪日外国人は全体の5%
アンケートは2018年11月から2019年2月の期間に成田国際空港、東京国際空港、関西国際空港、新千歳空港、博多港、那覇港で行われたもので、回答数は3000件となっている。
訪日中に怪我や病気になった訪日外国人は全体の5%、そのうち約6割は「風邪、熱」だった。また、怪我や病気になった外国人旅行者のうち約3割が医療機関に行く必要を感じたと答えている。医療機関で医療サービスを受けた人で、不満を感じた人はいなかった。
3割が旅行保険未加入
それでは旅行中の医療費をカバーする旅行保険に加入していた人はどのくらいいたのだろうか。訪日外国人の医療費未払いの話を耳にすることもあるが、今回のアンケートによると、73%は何らかの形で旅行保険に入っていた。言い換えれば3割は未加入ということでもある。この数字は前年とほとんど変わらなかった。
グラフにあるように、特定の場所で旅行保険を購入(旅行代理店や保険会社のウェブサイト、旅行保険比較サイト等)した人が全体で48%、東南アジアでは61%を占めた。また、特定のサービスなどに付帯(クレジットカードや航空券、旅行パッケージ等)の保険を持っている人が全体で23%、その両方に加入している人が2%となっており、東南アジアでは8割がなんらかの保険に加入していることがわかる。
加入方法をさらに詳しく見ると、旅行代理店での購入が、全体(16%)、東アジア(17%)、東南アジア(21%)で割合が高く、欧米豪では「クレジットカードに付帯」と回答した割合が21%で最も高かった。
海外で医療機関のサービスを受けると高額になるため、旅行保険への加入は推奨されるが、旅行保険に加入しなかった理由として最も多かったのは「加入する必要がないから」(36%)で、「加入する意識がなかった」(23%)、「旅行保険があると知らなかった」(21%)と続いた。旅行保険の存在を知らないとの回答には、今後の周知活動の必要性を感じさせる。
また、旅行保険未加入者に、医療費が高額となった場合の支払方法を尋ねると、「医療費が20万円程度」の場合は63%がクレジットカードで支払うと回答したものの、日本においても帰国後でも支払方法がないとの回答が5%あった。
ところで、日本人の海外旅行保険加入率が気になるところもであるが、2016年に保険クリニックが20~60歳の日本人男女1万人に行ったアンケート調査では、海外旅行経験者は6割強で、そのうち海外旅行保険加入率は7割強だった。
なお、日本入国後にも加入できるインバウンド旅行保険については、告知を見た人が地域を問わず1割に満たなかった。東京海上日動と損保ジャパン日本興亜が販売しているインバウンド旅行保険の加入割合は全体の2%程度だった。「保険の存在を知っていれば加入したか」という質問については、東アジアで36%、東南アジアでは50%が加入したと思うと回答。出発前に知っていたら加入したと思うと答えた人が全体の8割近くいた。
厚労省発表の外国人患者の未払い額は1カ月で9400万円
ここで医療費未払いの現状についてみてみよう。3月末に厚生労働省が発表した「医療機関における外国人患者の受入に関わる実態調査の結果」によると、2018年10月1日〜31日に外国人患者の受入れ実績のある1965病院のうち、372病院(18.9%)で外国人患者による未収金を経験していた。病院あたりの未収金の発生件数は平均8.5件、総額は平均42.3万円となる。
未収金件数は3156件で、そのうち在留外国人が2430件(77%)、訪日外国人旅行者が726件(23%)、医療渡航が20件(1%)。また、未収金総額では在留外国人が5569万円(59%)、訪日外国人旅行者が3609万円(38%)、医療渡航が213万円(2%)で、総額は約9400万円にもなっている。
これを、患者一人当たりにすると、在留外国人で2万2917円、訪日外国人旅行者だと4万9709円、医療渡航が10万6624円となる。なお、患者が在留外国人か否かの判断は病院に委ねられたため、在留外国人数による未収金件数や総額はあくまでも参考の数字となる。
受入れ側の悩みは、外国人対応医療機関がわからないこと
再び観光庁の発表に戻るが、訪日外国人旅行者が怪我や病気になった際、旅行業者や宿泊施設はどのように対応しているのだろうか。課題と感じているものをあげてもらったところ、旅行業者(回答125社)では、外国人対応ができる医療機関がわからない(48%)、会話対応・通訳が十分できない(47%)、外国人から「自分の医療保険契約で使いやすい医療機関はどこか?」と聞かれてもわからない(42%)が上位を占めた。宿泊施設(回答475施設)では、会話対応・通訳が十分できない(73%)が多く、続いて外国人から「自分の医療保険契約で使いやすい医療機関はどこか?」と聞かれてもわからない(51%)、外国人対応ができる医療機関がわからない(46%)だった。
観光庁では2015年度から、都道府県に外国人旅行者の受入れが可能な医療機関の選定を依頼しており、2018年度末でリストアップされた医療機関は前年度から400近く増えて1608カ所になった。内訳は以下の表の通りで、中部、東北などで大きく増えた。これらの医療機関については、日本政府観光局(JNTO)のホームページに掲載されており、外国人旅行者が検索できるようになっている。
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