データインバウンド
海外旅行経験者がコロナ禍では国内旅行市場をリードする存在に、管理型旅行にも意欲—JTB総研調査
2021.04.08
新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、自由に海外旅行ができなくなって1年が経過した。国内旅行が注目を集める一方で、海外旅行に対する意識はどのように変化しているのか。株式会社JTB総合研究所は、今後人々がどのような旅行スタイルを志向するのかを把握しようと「コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査」を実施し、その結果を発表した。調査は全国15歳以上の男女1万2142人を対象に2021年2月4日~7日にインターネットアンケート形式で行なわれた。
(図・表出典:株式会社JTB総合研究所「コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査」より)
海外旅行経験者のほうが、国内旅行に積極的かつリピート率も高い
アンケート結果をみると、感染症拡大前の2019年に海外旅行を経験しているかどうかで、2020年の国内旅行回数に差が出る結果となった。前年の2019年に海外旅行を経験した人の71.7%が2020年に1回以上国内旅行に出かけていたことがわかった。一方、2019年に海外旅行はせず、国内旅行のみ経験した人のうち、2020年に国内旅行を1回以上出かけた人は53.6%に留まった。2020年の国内旅行回数は、海外旅行経験の有無にかかわらず、1回のみは約27%とほぼ同じだったが、2回以上の経験は差が開いた。特に、3回以上のリピーターは海外旅行経験者では25.3%、国内旅行のみ経験者では13.0%と約2倍の差があった。自由な海外旅行ができないコロナ禍において、これまで海外旅行を楽しんできた層は国内旅行に積極的に出かけており、旅行回数も多くなる傾向が明らかとなった。海外旅行ができない分、その旅行費用を国内旅行に複数回当てている様子がうかがえる。
男性15~29歳の層の4人に1人は「海外旅行にすぐ行きたい」
今後数年間の海外旅行への意向は「積極派」が24.4%、「消極派」が23.3%とほぼ同数となった。積極派と答えた層に絞って、感染症が収束していない今現在の海外旅行への意向を聞くと「世界的に新型コロナが落ち着くまでは行かない」が最も多く60.4%、「行き先にこだわらず、すぐ行きたい」は全体で13.8%に留まった。ただ、男女世代別にみてみると、男性15~29歳の層では26.1%が「行き先にこだわらず、すぐ行きたい」と回答しており、海外旅行へ最も意欲的であることがわかった。この若年層における旅行情報収集は「旅行先に行った人のブログやYouTube」、「旅行体験談を家族などから聞く」が多く、60歳以上では「旅行番組」、「旅行会社の催行状況」が多いという結果も出ており、今後の情報提供は世代や個人のニーズにマッチした媒体を活用することが必要と考えられる。
海外旅行再開後の旅行先人気No.1はハワイ感染抑え込みに成功した台湾が2位
観光目的での海外旅行が可能になったら、まず行きたいと思う国・地域は、1位がハワイ20.1%、次いで台湾11.8%、米国本土7.5%、オーストラリア・ニュージーランド7.0%、韓国7.0%の順となった。いずれもコロナ禍以前から人気が高い場所ではあるが、なぜこれらの国・地域が選ばれたのか。理由を聞くと、ハワイは「とにかく好き」、台湾、韓国は「日本から近い」、台湾、オーストラリア・ニュージーランドでは「新型コロナの感染者数が少ない」「新しい感染症に対する対応が信頼できる」といった声が多く寄せられた。感染症への対応が今後のデスティネーションを選ぶ上での基準のひとつになっていることが分かる。
すぐに海外へ行きたい積極派の半数は「隔離旅行」を容認、ホテル滞在の充実が鍵
現在、海外旅行の再開時に向けては日本旅行業協会と全国旅行業協会が、企画旅行主催者が参加者の旅行中・旅行後の行動履歴を把握できる「管理型旅行(グループ型のパッケージツアー)」から始めることを政府に提案している。政府側も行動管理された小規模分散型パッケージツアーを試行的に実施していくことを検討中だ。こうした動きを受け、今回のアンケートでは隔離旅行や管理型旅行についても質問した。
その結果、旅行先に入国後、一定の隔離期間が設けられる「隔離旅行」でも海外に行きたいと答えたのは2割に満たなかった。「施設内だけでも滞在が楽しめるのであれば、隔離期間が必要でも行きたい」が10.6%、「隔離期間中は仕事をしていればよいので、隔離期間が必要でも行きたい」が6.3%で合計16.9%だった。だが、「行き先にこだわらず、すぐに行きたい」人に絞ると、隔離旅行容認派は51.2%と半数以上になった。隔離期間でもホテル滞在を楽しめる工夫をすれば、すぐに旅行に行きたいと考える旅行者のニーズを獲得できる可能性がありそうだ。
海外旅行に積極的な層は管理型旅行より現地での自由行動を重視
次に、安全確保のため現地での行動を把握する「管理型旅行(グループ型のパッケージツアー)」の利用意向は全体では約1割に留まった。「個人で好きなように海外旅行ができるようになるまで、海外旅行は控えたい」が41.7%と最も多く、「管理型旅行のパッケージツアーを利用して、すぐに海外旅行に行きたい」は12.7%だった。ただ、「行き先にこだわらず、すぐに行きたい」と回答した人に絞ると、個人で自由に行動できるまで行かないとする人が48.8%存在し、全体平均の41.7%を上回った。すぐに海外へ行きたい積極的な層は比較的旅慣れしているとみられ、旅行先で自由に行動したい意向が強く表れた結果となった。ただ「行き先にこだわらず、すぐ行きたい」と答えた人のパッケージツアー参加意欲は32.6%だった。回答者全体に占めるパッケージツアーの参加意欲は12.7%だったため、その差は約2.5倍となった。旅行経験豊富な層が魅力に感じるようなグループ型パッケージツアーが造成できればニーズを獲得できそうだ。
今回の調査では、「行き先にこだわらず、すぐ海外に行きたい」と考えている積極的な層において、入国時に一定期間隔離される「隔離旅行」に約5割が容認する姿勢を見せた一方、行動を把握される「管理型旅行」に対しては約3割とそれほど意欲的ではないことがわかった。これまでのグループ型のパッケージツアーは、自由度があまり高くなく、旅行初心者に向けた商品とみられることも多かったため、旅慣れた海外旅行経験者からは敬遠されがちだった。しかし、感染症などをはじめ自然災害などの有事が起こった際に、自由な個人旅行の場合、すべて個人で解決しなければいけないことへの不安は拭えない。今回のコロナ禍を機に、一カ所に長く滞在する滞在型旅行の魅力や、安心・安全を確保したパッケージツアーの利便性を訴求できれば、旅慣れた旅行者も取り込める可能性がありそうだ。
株式会社JTB総合研究所による「コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査」の結果はこちら
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