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SDGsへの意識と行動、環境意識が高いスウェーデン・ドイツと日本の旅行者を比較 —JTB総研調査

2022.03.24

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観光の持続可能性をさぐるため、株式会社JTB総合研究所では、「SDGs に対する旅行者の意識や行動」を把握する調査を実施した。前回の「日本の旅行者」に関する調査結果からは、SDGsの重要性は認識しつつも、日常生活においてSDGsを意識した行動には結びつかないこと、その傾向は、旅行中はさらに低下する傾向が見えた。その続編として今回紹介するのは、環境への意識がともに高いスウェーデンとドイツの旅行者との比較だ。両国と日本との「差」はどこに、どの程度あるのかに注目し、国際的な人の往来再開までの準備に向けたヒントとしたい。調査の対象はいずれの国でも、過去3年間(2018年12月~2021年11月まで)に1泊以上の旅行をした「旅行者」で、調査はインターネットアンケートにて行われた。

(図・表出典:株式会社JTB総合研究所「SDGs に対する生活者の意識と旅行についての調査」より)

 

SDGsへの認知度は高いが、意識と行動は下がる日本

まず、今回比較調査の対象となったスウェーデンとドイツの環境意識について簡単に触れておく。スウェーデンは、環境破壊に加担するため、飛行機に乗ること自体を「恥」と考える「フライトシェイム(飛び恥)」運動の発端となった国である。ドイツは、国際観光支出額の上位国で、さらに、国内での持続可能な開発の歴史は古く、国際目標のSDGsが国連で採択された2015年よりずっと以前の2002年に「ドイツ持続可能な開発戦略(GSDN)」が策定されている。

こうした環境意識の先進国であるスウェーデン、ドイツと比べても、日本でのSDGsの「認知度」はそれほど低くない。「SDGsの理念、ゴール、ターゲット、指標など詳しく知っている」「17のゴールは知っている」を「知っている層」とみなすと、37.8%が「知っている」と答えたスウェーデンに対し、日本での「知っている」も34.7%にのぼる。しかし、「重要性の認識」となると、ほかの2カ国との間に差がつく。「とても重要だと思う」「まあまあ重要だと思う」の合計が、スウェーデンでは77.2%、ドイツでは73.0%に対して、日本では67.5%にとどまった。さらに、日常生活でSDGsを意識した「行動」を実践しているかについては、その差はさらに広がる。「常に意識して実践している」「それなりに意識して実践している」の合計が58.1%(ドイツ)、52.5%(スウェーデン)と半数以上にのぼる2カ国に対し、日本では35.1%と20ポイント程度低くなる。

日本でのSDGsは、スウェーデンやドイツと比べて知識としての理解は進んでいるものの、その意義を感じ、意識的に行動に移している人はまだ少ないと言えそうだ。

 

SDGs配慮商品の価格には旅行も含めシビアな日本

次に、SDGsの取り組みを重視した商品ならば価格が高くても購入するか、また、どの程度の価格差なら許容できるかをたずねた。すべての品目において、価格が高くても購入する割合が最も高かったのはドイツ。7品目中6つで、70%以上が「購入する」と回答した。スウェーデンでは「購入する」と回答した割合は、品目ごとに50~70%程度だ。

一方日本では、価格が高くても購入する意向が最も高い品目(電化製品)でも40.7%。旅行は35.4%で、7品目中6位。さらには価格差があるなら選ばないと回答した者がすべての品目で40%以上となり、ほかの2カ国と比べ、SDGsの取り組みを重視した商品やサービスに対する財布の紐は固い。


 

旅行中にはSDGsを意識した行動は低下、中でも日本はその傾向が顕著

SDGsのゴールへ向けての具体的な行動は、日常生活と旅行中においてどの程度実践されているだろうか。スウェーデンとドイツでは、日常生活において実践率が最も高い行動は、「食品ロスの削減(使い切る適量の食材の購入・外食で料理を残さない等)」。スウェーデン94.5%、ドイツ91.8%と、いずれも9割を超えた。2位は「ゴミの分別・リサイクルや持ち帰り」で、90%前後である。一方日本では、実践率が最も高い行動は、「レジ袋・包装紙等の辞退(71.3%)」、2位は「食品ロスの削減(70.5%)」と、1位の行動が90%を超えるスウェーデン、ドイツと比べると実践率は下がる。

日常生活において心がけている行動も、旅行中になると実践率が低くなる。その傾向は3カ国ともに共通するが、差が最も小さいのはドイツである。ドイツに比べるとスウェーデンでの旅行中の実践率は低い。差が最も大きかった「ゴミの分別・リサイクルや持ち帰り」では、28ポイントダウンする。日本ではその差はさらに大きくなり、日常生活での実践率の多くが旅行中にはほぼ半減する。

 

旅行中のSDGsに関わる行動「何もしない」が3割超、5倍以上の差

次に、旅行中に特化したSDGsに関わる行動を見てみよう。スウェーデンでは、上位から「歯ブラシ、ブラシ、化粧品はなるべく持参する(66.6%)」「連泊する場合の宿泊施設でのシーツやタオルなどの取り換えや部屋掃除の辞退(44.7%)」「スリッパやパジャマはなるべく持参する(44.0%)」。ドイツの1位はスウェーデンと同じく「歯ブラシ、ブラシ、化粧品はなるべく持参する(64.3%)」。以下、「スリッパやパジャマはなるべく持参する(52.5%)」「混雑する施設や場所への訪問は避ける、もしくは混まない時間に訪れる(49.9%)」と続く。日本では上位から、「混雑する施設や場所への訪問は避ける、もしくは混まない時間に訪れる(33.4%)」「歯ブラシ、ブラシ、化粧品はなるべく持参する(32.5%)」「旅行先の地域の農産品や工芸品の購入(27.5%)」となった。

「特に実践していない」は、スウェーデン6.3%、ドイツ5.0%に対し、日本は31.7%と大幅に高い。

今後旅行中に実践したい行動についても、「特に実践していない」との回答がスウェーデン6.8%、ドイツ7.5%に対し、日本は39.4%と、実践する意向がない人は4割近くと関心の低さが際立つ。前回の記事でも言及したが、旅行を日常生活とは切り離された別物ととらえる向きが日本人には強く、「旅行中くらいは考えたくない/面倒くさい」「あらかじめ用意されているので準備が不要だから」といった意識が根底にあるようだ。

 

スウェーデンとドイツにおける「旅行中のSDGs配慮商品への購入意向」

ここまで見てきた中で、スウェーデン、ドイツの旅行者は、旅行中でも比較的SDGsへの意識が高いことが示された。これら2カ国の旅行者に、持続可能な取り組みを重視したツアーや旅行商品について、価格が高くなった場合の購入意向を聞いた。

全体的にドイツのほうが、購入意向は高い。回答の上位3つは、ドイツでは、「訪問地の産品の使用(地産地消)(76.6%)」「フェアトレード商品の使用(76.0%)」「カーボンオフセットや再生可能エネルギーの活用(75.2%)」。スウェーデンでは、「カーボンオフセットや再生可能エネルギーの活用(66.3%)」「訪問地の産品の使用(地産地消)(65.0%)」「フェアトレード商品の使用(64.1%)」である。

なお、許容できる価格幅は、いずれの項目でも「5%程度高くても選ぶ」が最も多い。

 

SDGs対応の「可視化」を地域や事業者に望む、スウェーデンとドイツの旅行者

最後に、旅行に行くときに持続可能性をより意識するために、地域や商品・サービスの提供側に期待する情報発信や推進活動をたずねた。スウェーデンとドイツでは、いずれの項目でも日本と比べて選択率が高く、1位は「世界的な認定機関から『持続可能な観光を推進する旅行先』としての認証がある(スウェーデン48.1%、ドイツ47.5%)」、2位が「利用する交通機関のCO2排出量が検索できる(鉄道、航空機、高速道路、船舶など)(同34.8%、同41.0%)」となった。

日本の上位3つは、「個人が意識しなくとも、その地域の行動が自動的にSDGs推進になるしくみができている(26.9%)」「宿泊施設の予約サイトを通じて、施設のサステナビリティ(持続可能)についての取り組みが分かる(26.5%)」「SDGsに関わる消費によりポイントがたまる(24.1%)」。スウェーデン、ドイツで1位だった「世界的な認定機関から『持続可能な観光を推進する旅行先』としての認証がある」は20.3%で4位だった。ほとんどの項目で日本より高いポイントを示すドイツが日本より低い結果となったのは、「SDGsに関わる消費によりポイントがたまる(21.8%)」だった。

本調査を通して示されたのは、日本ではSDGsへの認知が広がってきたところで、個人がその重要性を理解し、日常生活において主体的な行動に結びつけていく段階はこれからということだ。環境への意識が高く、日本の先をいくスウェーデン、ドイツでは、旅行でSDGsを意識するためには、持続可能な観光地推進の認証や排出量の検索、取り組みに関する情報公開など、対応が「可視化」できることへの期待が、観光地や企業に対して強い。

なお世界で重要性が認識される認証ラベルについて、日本では観光庁が、持続可能な観光を促進しようと、旅行業界が取得できる国際認証ラベル一覧を公表している。

今後、国際的な人の往来が再開し活発化する時は必ずやって来る。その準備を行う今、SDGsへの取り組みにおける世界基準を理解し、サステナブルという観点で共感される地域づくりを見直し、発信していく。いずれ戻るインバウンド客をいち早く取り戻していくカギはそこにあるかもしれない。

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