データインバウンド

2023年10-12月の海外旅行 アジア太平洋地域の勢い増す、シンガポールで盛り上がる音楽ツーリズム

印刷用ページを表示する



2023年の海外旅行は、世界全体で著しい回復ぶりを見せているが、特にアジア太平洋地域の海外旅行は年末にかけて勢いを増していることが、旅行産業のデータ分析を行うForwardKeysの調査でわかった。ここでは、第4四半期の世界の旅行者の動き、そしてパンデミック後の経済成長の原動力の一つとなっていると言われる音楽ツーリズムについて解説する。
(図出典:ForwardKeys)

 

2023年10-12月のインバウンド、中東が2019年の水準超え

最新の航空券発券データによると、2023年の第1~3四半期、アジア太平洋地域にあるデスティネーションの国際線到着者数(インバウンド)は、パンデミック前と比較して45%減と、回復はしているものの動きは緩かった。しかし、第4四半期中の予約数は顕著な改善を見せており、現在、2019年の同時期をわずか25%下回る水準で推移している。

下の図をご覧いただくとわかるが、アジア太平洋地域がこの間、最も急速に回復している。その一方で、中東はすでに第4四半期中に2019年のレベルを超える勢いを示し、南北アメリカはパンデミック前のレベルに戻ると予想されている。

なお、世界全体では、第1~3四半期が2019年同期比27%減だったの対し、第4四半期は13%減となっている。

▶︎各地域の2023年第4四半期のインバウンド伸び率(2019年同期比)左から、南北アメリカ、欧州、アフリカ&中東、アジア太平洋

 

2023年Q4のアウトバウンド、ドル高と座席数増で活発なアメリカ

注目すべきは、出国者数(アウトバンド)の伸び率も同じような傾向を示していることだ。世界全体では、第1~3四半期が2019年同期比26%減だったの対し、第4四半期は12%減となっている。

第1~3四半期は2019年比50%減だったアジア太平洋地域のアウトバンドは第4四半期は30%減まで改善、アメリカ大陸は、米ドル高と航空機の座席数の大幅な増加により、パンデミック前を上回ると予想されており、アウトバウンド旅行回復の面でリードしている。

▶︎各地域の第4四半期のアウトバウンド伸び率(2019年同期比)左から、南北アメリカ、欧州、アフリカ&中東、アジア太平洋

 

アジア太平洋地域のインバウンド、南アジアが回復を牽引

次に第4四半期のアジア太平洋地域の国・地域別のインバウンド動向を見ていこう。下の図にあるように、最も回復が早いのは南アジアで、2019年同期比1%減となり、特にインドへの訪問者数は2019年の水準を6%上回る見込みだ。これは、エア・インディアとLCCのIndiGoによる意欲的な機材更新や拡大計画によるもので、低燃費モデルを含む470機の新機材を発注している。その結果、インドは旅行業界でますます影響力のあるプレーヤーになりつつある。

オセアニアでは、同地域の総入国者数の8%を占めるに過ぎないフィジーが、2019年同期比16%増と、回復に向けて顕著な前進を示している。ただし、同地域全体のインバウンド観光にとっては、フライトの空席状況とスタッフの確保が依然として重要な課題となっている。パンデミックは地元の観光産業に大きな影響を与え、その結果、労働者が減少。多くの旅行代理店は、より安全で安定した選択肢とみなされる国内市場に重点を移している。オーストラリアの国内旅行は17%の伸びを記録し、ニュージーランドは第4四半期に4%の伸びを記録する見込みだ。

▶︎アジア太平洋地域の第4四半期のインバウンド回復率(2019年同期比)

東南アジアは2019年同期比で29%減となっている。この地域は、航空便数の回復の遅れ、旅行コストの上昇、安全関連の懸念など、いくつかの要因によって影響を受けている。バンコクの銃撃事件やミャンマーでの通信詐欺などのネガティブなニュースも、いくつかの主要デスティネーションの魅力に影響を与えている。

一方、北東アジアでは、2019年同期比8%減まで戻してきた日本が最も回復しており、ついで香港、韓国が回復の兆しを見せている。日本と韓国の復活は、主にこの2国間の旅行と、北米や西欧のような長距離市場からの到着による。香港は、アジア域内、特に東南アジアからの観光客が増加している。

*なお、中国の動向に関しては、後編で紹介する予定。

 

大型イベントが観光に与える影響、中国杭州アジア大会で旅行者47%増

続いて、スポーツや音楽の大規模なイベントが観光に与える影響を数字を用いて紹介する。

記憶にも新しいが、今年9月23日から10月8日まで中国の杭州で行われたアジア大会で、杭州への旅行者が大幅に増えた。大会前の9月18日からの1週間で、航空券の売上は2019年の水準と比較して47%増加している。

▶︎杭州を訪れた国際観光客数の推移(灰色の枠内が9/18-10/8)

さらに、アジア大会は杭州に長期的な利益をもたらすと期待されている。観光客の関心は大会終了後も持続しており、クリスマスの航空券予約はすでに2019年を11%上回っているからだ。2026年には愛知・名古屋大会が開催されることになっており、訪日客の増加が期待できそうだ。

 

東南アジアで活況の音楽ツーリズム、旅行者数3倍超も

スポーツと同様、大規模なコンサートも海外からの観光客を惹きつけている。音楽産業はパンデミック後、ライブ・コンサートに伴う様々な利益を生み出し、すでに経済成長の主要な原動力の一つであることを証明している。パンデミックを経て、世界的に有名なアーティストが大規模なツアーを再開しているが、2023年には東南アジア方面へのツアーが目立ち、特に開催地としてシンガポールの存在が際立った。

それは2024年も同様で、1月下旬に行われる音楽グループ コールドプレイのコンサート期間中、近隣の東南アジア諸国からシンガポールへの旅行者数は241%増と、1月全体の19%増を大きく上回っている。さらに、3月のテイラー・スウィフトのコンサートでは、第1四半期全体の見通しが37%増なのに対し、最新データでは380%増となっている。これらの旅行者は主に個人またはカップルで、平均滞在期間は3日間となっている。

▶︎増加する音楽ツーリズム
(シンガポールへの国際到着者数の伸び率、コンサート期間対2019年比)

左:コールドプレイのコンサート  右:テイラー・スウィフトのコンサート

このように、コンサートやフェスティバルに参加するために国境を越えて旅行するファンの間で、音楽ツーリズムの人気が高まっている。シンガポールは、その先進的なインフラ、ハブ空港のある接続の良さ、安定した統治、強力なセキュリティ対策のおかげで、こうしたイベントの開催から恩恵を受けているデスティネーションの代表例といえる。

日本でも大規模なコンサートに関しては、観光ついでに参加する(あるいはその逆かもしれないが)外国人もいる。実際に、K-POPや欧米の有名グループのコンサート会場では、インバウンドの観客の姿を目にする機会も多い。まだ具体的なデータは出ていないものの、2024年4月に横浜で開催される中華圏で最も人気のある歌手、ジェイ・チョウのコンサートについては、海外在住のファン向けの中国語と英語のチケット購入ページも作られ、当日は中華圏からの訪日客が押し寄せると見られている。

 

最新のデータインバウンド