データインバウンド
2024年のアドベンチャートラベル展望、「持続可能性」「オーバーツーリズム「オフシーズン旅行」がキーワードに
2024.02.14
やまとごころ編集部アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)が2024年の業界を展望するレポートを発表した。
2023年は世界の多くの地域で観光業の回復が見られた一方、観光客数の増加によるオーバーツーリズムのリスクも指摘された。また、気候変動や地域紛争による影響も多岐にわたり、決して人ごとではないことを痛感する年でもあった。そして迎えた2024年、この業界はどのようなトレンドや課題を目にするのだろうか。
2024年に何が起こるか
ATTAがアドベンチャートラベル・コミュニティのメンバーに対して2024年1月に実施した調査で、アドベンチャートラベルに最も影響を与えると考えられる業界のトレンドが明らかになった。
そのうち、「持続可能性」(59%)、「オーバーツーリズム」(56%)、「オフシーズンの旅行/人里離れた目的地」(53%)は、いずれも回答者の過半数が選んでいる(複数回答可能)。
また、同じ調査で、2024年のアドベンチャートラベルに最も影響を与えると予想される問題は何かという質問も行った。すると、「戦争・紛争」(64%)、「気候変動」(55%)がそれぞれ過半数を占めた。
さらに、2024年1月時点でアドベンチャートラベル・ビジネスが直面している課題についての調査では、「マーケティング戦略」(55%)、「成長への挑戦」(38%)、「責任ある旅行に関する消費者の教育」(38%)が上位3つを占めた。興味深いのは、危機管理を選択した回答者がわずか9%しかいなかったことで、これは業界がパンデミックの余波を乗り越え、着実に回復している兆候であるといえるだろう。
注目すべき7つの分野
さて、ここからは今回の調査を通じてわかった、2024年に注目すべき7つの主要分野について詳しく見ていこう。
1 アウトバウンドの回復と今後の傾向
アメリカ大陸(主に北米)がアウトバウンド旅行をリードする一方、アジア太平洋地域は遅れをとっている。これは、中国、日本、ニュージーランドなど同地域のデスティネーションの再開が遅れたことが一因だ。
2024年の全体的なアドベンチャートラベルの特徴としては、旅行者はパンデミック以前よりも多く支出し、複数都市への旅行が増加、ヨーロッパの旅行者は長距離旅行を好む傾向にある。また、旅行計画は衝動的ではなく、2019年と比べて、前もって行われることがわかっている。
2 人気のインバウンド目的地
2024年、アジア太平洋地域の旅行市場では、中国とインドからのアウトバウンド回復を見込んでいる。また、2023年の日本への企画旅行は2019年と比較して83%増加し、韓国への企画旅行は同期間に109%増加したこともあり、2024年もこの両国は特に恩恵を受けると予想される。
熱波や山火事といった気候変動の懸念から、旅行者が南ヨーロッパに魅力を感じなくなる可能性があるため、北ヨーロッパのデスティネーションへの関心も高まっている。特に旅行者が美しい景観とアウトドア・ライフスタイルに関心を寄せているノルウェーは、2024年の旅行先としてトレンドになりそうだ。
アフリカも人気のアドベンチャートラベル・デスティネーションとして台頭している。昨年は2019年比で33%増という驚異的な伸びを示し、サファリだけではないアフリカ大陸の多様な魅力への関心の高まりを裏付けている。
3 需要の転換とオーバーツーリズムの削減
アドベンチャートラベル業界は、オーバーツーリズムへの対策として、人気の高いデスティネーションへのプレッシャーを軽減するために需要をシフトさせ、より幅広い場所に観光客を呼び込むことについて何年も話し合ってきた。オーバーツーリズムが指摘される観光地の一つにヴェネツィアがあるが、ヴェネツィアはすでに、1日5ユーロ(約805円)の入場料を試験的に導入することを承認した。また、自然資産と文化遺産を保護するため、拡声器の使用や25人以上の観光グループを禁止することにしている。
ピークシーズンを避けて旅行する旅行者も増えてきた。例えば、約半数(47%)の親が、ピークシーズン以外に子供の学校を休ませての旅行を計画しているという調査結果もある。最近では、特にフランス、スペイン、イギリス、イタリアなど、ヨーロッパで最も人気のある目的地へショルダーシーズン(ピークより混雑が抑えられた時期)に旅行する人が目立って増えている。
さらには、ヨーロッパの第二の目的地が人気を集めている。2022年との比較では、アルバニア(55.6%増)、マルタ(21%増)、キプロス(20.7%増)、モンテネグロ(19.4%増)、アイスランド(18.1%増)が伸び率上位を占めた。
4 気候変動と持続可能な選択
旅行者の目的地選びに気候変動と不確実な天候の変化が影響を及ぼしている。Booking.comの調査では回答者2万7000人のうち半数以上が、自宅の気温が高いため、次の休暇は涼しい場所、特に水を楽しめる旅行先に行くと答えている。こうした「クールケーション」は、アイスランド、フィンランド、スコットランド、ラトビアといった旅行先の人気につながっている。
また、持続可能性は旅行業界全体に大きな影響を与えており、持続可能な旅行の選択肢が増加している。旅行者はサステナビリティとラグジュアリーを両立できると考えており、ハイエンドの宿泊施設における持続可能性への配慮は、今後旅行者にとってより高い優先度を持つようになるだろう。
持続可能性は、運輸業界にも大きな影響を与えている。鉄道の旅が、特に豪華なニッチ路線や風光明媚な列車の旅で復活を遂げている。航空便の制限強化が鉄道需要の高まりにつながったこともあるが、旅行者がより持続可能な交通機関を求めていることも一因だろう。
5 「グリーンウォッシュ」と 「グリーンハッシング」
持続可能性を宣伝する企業が増える一方で、一部の企業は「グリーンウォッシュ」と非難されることを恐れて、サステナビリティの目標や成果について意図的に沈黙を守るケースもある。これを「グリーンハッシング」と呼ぶ。例えば、2022年10月に環境コンサルティング会社サウスポール社が発表した報告書によると、サステナビリティ責任者を擁する調査対象企業1200社のうち、ほぼ4分の1がサステナビリティの成果を “必要最低限 “しか公表していなかった。
他の調査でも、企業は良くも悪くも気候変動に関するデータの多くを公表していないことが判明している。米国では2024年、より厳格な規制が実施される予定であり、EUでは2025年から、以前よりも多くの企業に対して気候変動に関する情報開示を義務付ける。
アドベンチャートラベル企業は、グリーンウォッシュの一線を越えることなく、正確な方法で持続可能性への取り組みを詳細に説明する必要がある。旅行者が前向きな選択をするように教育し、旅行業界全体をリードすることが重要だ。
6 ウェルネスと有意義な旅行
パンデミックの間にウェルネスへの注目が高まり、旅行者は有意義で自己成長をもたらす体験を求めている。ウェルネス・ツーリズムは2022ー2027年の年平均成長率が16.6%と予測されている。
すべてのウェルネス・ツーリズムがアドベンチャートラベルとみなされるわけではないが、このカテゴリーにおける支出のうち、「第一次」ウェルネス旅行、つまりウェルネスを主な目的とした旅行とみなされるのはわずか15%に過ぎない。年間支出額の残り85%(推定5億5490万米ドル)は、「第二次」ウェルネス旅行、つまりウェルネスの要素を含みつつ他のアクティビティも行う旅行であり、その多くはアドベンチャートラベルと重なる可能性が高く、2024年に注目すべき重要な市場セグメントとなる。
7 人工知能(AI)
2024年のアドベンチャートラベルに影響を与えるトレンドの一つとして、人工知能(AI)が挙げられる。前述のATTAの調査では、AIが最も影響を与えるトレンドであると答えたのは、全体の約3分の1(36%)にとどまっているが、旅行業界で広範にかつ着実に根付いており、注目に値する。
エクスペディアなどは、2024年には消費者がAIを利用して旅行を計画するようになると予想しているが、AIツールは人間の創造性や思考リーダーシップに取って代わるものではない点には留意する必要がある。ただし、AIの能力と利用事例の急激な増加もあり、注視すべきトレンドであり続けるだろう。
すべての人のためのアドベンチャートラベル
アドベンチャートラベル業界は多様な個人のニーズや嗜好に対応できるように進化している。女性の一人旅は増加傾向にあり、特に50歳以上の女性が一人旅の自由と、それを可能にする経済的・社会的な変化を活用するようになり、業界もようやく注目し始めている。
もう一つの注目すべきトレンドは、特定の世代へ対応することだ。Z世代(1997年~2012年生まれ)は、親なしで旅行するようになり、サファリから食、文化ツーリズムまで、アクティブで持続可能な経験を求めている。一人旅の増加はこの世代でも見られ、ある若者向けトラベルブランドでは単独予約の62%が女性という。一方で、「スキップジェン」旅行も増加している。これは祖父母が孫と一緒に旅行する(つまり、親世代を「スキップ」する)形態で、人気を集めている。
さらに、旅行における多様性を奨励する組織が数も範囲も拡大していることも注目したい。
レポートは最後に、ここでは2024年の展望について述べたが、ここで取り上げた変化の波は、今後数十年にわたり業界や社会に影響を与えるだろうと、結んでいる。
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