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アジア太平洋旅行者の宿泊施設の嗜好・消費調査、リピーターを獲得し収益拡大へつなげるゲスト体験とは?

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世界の観光において成長が目覚ましいアジア太平洋地域の旅行者の動向をつかみ、取り込むことは以前に増して重要となっている。

ホスピタリティ業界向けの最新ソフトウェアをグローバルに提供するAgilysys Inc.がこのほど、ホスピタリティに関する調査レポート「2024 APAC Hospitality Impact Study」を発表した。アジア太平洋の旅行者を対象に、宿泊に関するゲストの嗜好と消費習慣について行った調査からは、「高い満足度がそのままリピーターにつながる訳ではない」という結果が明らかになった。旅行者が求める、真に特別な滞在とは何か。ホテルにおける収益拡大のヒントを探る。
(図版出典:THE 2024 APAC HOSPITALITY IMPACT STUDY)

 

86%の高い満足度でも、リピーター率は37

調査は、オーストラリア、香港、ニュージーランド、シンガポールの旅行者のうち、過去12カ月間(20234月~20244月)にラグジュアリーホテルやブティックホテルに頻繁に滞在した経験をもつ1014名を対象に、20244月に行われた。

調査で注目されたのは、ゲストの満足度が高く(86%)、金額に見合う価値が認められている(61%)にもかかわらず、以前宿泊したホテルを再び選ぶと答えた旅行者はわずか37%、という結果である。市場別の結果は下のグラフの通りだ。香港では同じホテルを選ぶ/選ばないが半々の結果となったが、同じホテルを選ぶと答えた旅行者は、シンガポールでは42%、オーストラリアでは31%、ニュージーランドでは21%だった。

以前泊まったのと同じ宿泊施設を選びますか?(緑=はい、黄=いいえ)
 左より、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール


パーソナライズされた効率的で思い出に残る体験に、支出は惜しまない

宿泊施設への再訪意欲を高めるためには何が必要なのか。その手掛かりとして、旅行者はどのようなことならお金を払うのかを見てみよう。

調査結果では、68%の旅行者は、自分の好みに合わせた体験に対しては支出を増やすと回答した。たとえば、4人に3人は、予約後に客室のアップグレードを提案された場合、最大30%多く支払うと回答している。66%はホテルでのあらゆる体験に対し、待ち時間短縮のためならお金を払ってもよいと考えている。68%は、強力なロイヤルティプログラムがあれば支出を増やすと答えている。

APACの責任者兼マーケティングディレクターのトニー・マーシャル氏の言葉を借りれば、「アジア太平洋の旅行者は、一人ひとりの好みやニーズに合わせた、効率的で思い出に残るような体験に対しては支出をいとわない」。つまりは、「それを提供できないホテルは、かなりの収益をとりこぼしている」ということだ。

「パーソナライゼーション」、すなわち、個人の好みやニーズに合わせたサービスの提供を行ったかどうかが、高い満足度からリピーターへとつなげる重要な要因となる。実際、調査では、ゲストの73%が、個人の好みに合わせた体験ができたのであれば、再訪の可能性が高くなることを示唆している。反対に、82%のゲストが再訪を選ばなかった理由に、サービスに関連した問題を挙げた。スタッフが基本的なサービスの期待に応えられなかったといったものから、思い出に残る滞在の演出への努力が足りなかったというものまで、理由の中身はさまざまである。

 

素晴らしい体験を左右するのは、フレンドリーで親身なスタッフの存在

アジア太平洋の旅行者が感じる「素晴らしい体験」を左右するのが、「スタッフ」の存在である。次のグラフは「素晴らしい体験に最も大きな影響を与えるもの」を尋ねた結果だが、「親しみやすく、親身になって助けてくれる礼儀正しいスタッフ」(38%=緑)との回答が最も多く、「迅速で効率的かつ効果的なサービス」(37%=青)と同じくらい重要視されていることがわかる。他に、15%(グレイ)が飲食、10%(黄)がパーソナライズされた体験と答えた。

素晴らしい宿泊体験を左右するものは?

スタッフとの交流を通し、パーソナライズされた体験ができたとき、旅行者の満足度や支出は高くなる。調査によれば、回答者の46%は、思い出に残る滞在になるよう特別なことをしてくれるフレンドリーなスタッフを評価している。41%は、スタッフによる個人的なアクティビティのおすすめ、40%はお気に入りの部屋を用意してくれたこと、30%はスタッフが自分と交わした会話を思い出してくれたこと、28%はレストランのスタッフが食事や飲み物の好みを覚えていてくれたこと、27%はスタッフが自分を名前で呼んでくれたといったパーソナライズされた体験を評価し、こうした場面でもっとお金を支払ってもよいと考えている。アメニティやサービスの充実が不可欠なのは言うまでもないが、こうした個人的で些細な心遣いが旅行者の印象に後々まで影響を及ぼすことを、レポートでは指摘している。

 

「1室あたりの収益」から「1人当たりの収益」を高める取り組みへ

レポートでは最後に、収益の最大化のための指標についても言及している。これまではRevPAR1室あたりの収益額)の指標が重視されてきたが、あらたな指標であるRevPAG(ゲスト1人あたりの収益額)へのアプローチに移行する必要性を指摘している。これにより、ホテルはゲストのあらゆる支出を把握し、それに応じたサービスの提供ができるようになる。

マーシャル氏は、「競争の激しいアジア太平洋市場において、RevPAG(ゲスト1人あたりの収益額)に集中することで、隠れた収益の流れを明らかにし、ゲストの満足度を高め、長期的なロイヤルティを育んでいくことができる」と話している。

なお、調査では、アジア太平洋の旅行者の結果を見てきた。46%が過去12カ月間に旅行支出を増やしているが、地域によって大きな違いがある。香港、シンガポールは6割近くが増やしたと回答しているが、オーストラリア、ニュージーランドでは3割程度にとどまり、減らした人の割合も多くなっている。グローバルに事業を展開するホテルでは、現地の経済状況や消費者心理に合わせたサービスやマーケティング手法を検討することも必要である。

過去1年間のホテルでの支出額(緑=増加、黄=減少)
 左より、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール

今回の調査対象は、アジア太平洋地域の旅行者だが、ここで述べた考察はアジア太平洋地域だけのものではない。HOSPAHospitality Professionals Association)のCEOジェーン・ペンドルベリー氏がレポートに寄せたコメントを最後に紹介しよう。「もはや清潔で快適なベッドさえあればいいという時代ではありません。ゲストは特別感を感じ、記憶に残り、忘れられない体験をして帰りたいのです。この傾向はアジア太平洋地域に限った話ではありません。同じようなパターンが今、世界全体で大きくなっているように感じます」

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