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消費額が倍増する中国の家族旅行市場、教育的価値のある体験がカギに

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中国を拠点とするデジタルマーケティング会社のドラゴン・トレイル(Dragon Trail)が、中国の家族旅行市場に関するレポートを発表した。中国では、子どもがいる旅行者は、子どもがいない旅行者に比べて消費額が倍になり、重要な市場とされる。

中国の人口のうち0~15歳の子どもが占める割合は18.1%の約2億5600万人(2022年)にのぼる。親は時間も費用も子育てに多くを注ぎ、80%の家庭で、子どもの出費が家計の総支出の30~50%を占める。親子市場全体の規模は、5400億〜8200億米ドル(約81兆~123兆円)と推計される。

中国で子連れ旅行をする親世代に、デジタルマーケティングを通じてうまくリーチを行うため、彼らを正しく理解する7つのポイントを紹介する。
(図版出典:Dragon Trail International, Essential Guide to China’s Family Travel Market)

 

家族旅行のピークシーズンは夏、次いで旧正月と国慶節

中国人が家族で旅行する時期は、学校のスケジュールに合わせて集中している。最大のピークシーズンは、学校が休みとなる夏の時期。夏休みは7月上中旬から、9月の第1月曜日までの約6~8週間で、この時期に家族で旅行する者は、中国の旅行市場全体の半分以上を占める。

次のピークシーズンは、旧正月にあたる冬の時期。親にとっては1年で最長の公休がこの時期で、学校は旧正月が始まる1週間前から4週間休みとなる。また、親が約1週間の公休を取得する10月の国慶節(建国記念日)の連休も、長距離旅行がしやすい時期。5月の労働節(5月1日)の祝日には、親子とも5日間の休暇となり、アジア圏内の近場の旅行に適した時期となる。

なお、以下は、中国本土からのアウトバウンド旅行で人気の旅行先ランキングだ。左側は、子どもがいない旅行者のランキング。1位は韓国で、日本はタイと同列で4位にランクしている。右側は、18歳未満の子どもがいる旅行者のランキングで、1位はタイ。こちらの市場では、日本は2位にランクしている。

▶︎2024年の人気の海外旅行先トップ10
(左=子どもなし、右=子ども連れ)

 

重視するのは教育的価値をもつ体験プログラム

中国の家族旅行を理解するうえで、最も重要な視点は、旅行に教育的価値があるかどうかである。「中国の親は子どもの教育への関心が高く、海外旅行をするなら、何かを学んでほしいと強く望んでいる。たとえ3歳の子どもであっても、教育的プログラムが組み込まれていることが大切だ」と、中国旅遊集団の劉氏は言う。

語学教室、スキー教室、自然保護プログラムへの参加、有名大学の訪問、エキゾチックな料理体験など、プログラムの内容はさまざまだ。アメリカでの大学訪問となれば、ハーバード、スタンフォード、イエール、MIT、イギリスならオックスフォードやケンブリッジといった超一流大学への訪問を希望する。また、博物館のような文化施設での滞在時間は2、3時間程度必要とし、深みのある学びを求めている。

 

旅情報の検索はオンライン

家族旅行市場で中心となる消費グループは、親が1980年代、1990年代に生まれた世代で、この層が、人数、消費額とも最大となる。財布の紐を握るのは20代〜40代の女性で、上海では2023年に第一子の出産年齢が30歳となった。また、教育旅行の主要市場は一線都市(上海、北京、広州、深圳)と新一線都市(成都、杭州、重慶など)で、6割以上を占める。

▶︎中国の教育旅行の市場
(多い順に一線都市、新一線都市、二線都市、参戦都市、四線都市、中華圏・海外)

彼らは、子育ての情報のほか、旅行情報もオンラインで検索することが多く、その割合は子ども連れでない旅行者よりも高い。下図の左側は、旅行先の情報検索にCtrip(中国最大の旅行サイト)とMafengwo(中国の旅行口コミサイト)を使った割合を示しているが、いずれも18歳未満の子ども連れの旅行者(赤いグラフ)のほうが、子ども連れでない旅行者よりも高い数値を示している。また、図の右側は、海外旅行を計画したタイミングを示しているが、子どものいない旅行者は1カ月前、子どものいる旅行者は2カ月前のほうが多いことから、子どものいる旅行者のほうが、早い時期からより綿密な計画を立て始めるといえる。

▶︎子ども連れ(赤)と子どもなし(グレー)の旅行者の旅行情報と予約時期の比較


SNSも活用されている。WeChatでは、旅行関連企業は、国際子どもの日とされる6月1日を皮切りに子連れ旅行の情報を発信する。WeChatの公式アカウントで情報発信を行うほか、KOLを活用し、家族をターゲットとしたマーケティングも有効だ。また、中国版インスタグラムと呼ばれるRED(小紅書)の活用も中国の家族旅行者へのアプローチに有用だ。家族旅行の決定権は母親が握るケースが多く、女性がユーザーの70%を占めるREDでは、情報交換が活発に行われている。子連れ旅行に最適の国、都市、子どもとのハイキング、子連れディズニーランドといった項目ごとに、実に詳細な説明や提案がされているほか、大勢のKOLやKOCがいる。

 

子どもの年齢に合った学習プログラム

ひと口に「子ども」といっても、年齢によって旅のあり方は変わる。大きくは、3-6歳、7-12歳、13-18歳に分ける必要があるだろう。

いずれの年齢層でも、教育や学びの体験は大切だが、3-6歳で重視されるのは、楽しい時間とリラックス。この年齢層をもつ親が海外旅行に行くとしたら7~10日間と、ほかの年齢層よりも短く、また、旅行先は近隣国となる。テーマパーク、クルーズ、ビーチリゾートやクラブメッドでの体験といった内容が、この年齢層にはぴったりだ。

子どもが7歳以上になると、旅行は7~13日間くらいまで長くなり、もう少し遠くまで足を伸ばすことになる。文化、歴史、自然が豊かな外国で何かを学び成長することが重要で、7歳以上から博物館のツアーを組み込めるようになる。また、9歳くらいからは、タイの象の保護区やケニアの国立公園を訪れるといった、動物保護をテーマにした自然体験に、家族は関心をもつようになる。

子どもが13歳になると、海外の学習プログラムやスポーツトレーニングといった「スタディツアー」に参加させることを検討し始める。一緒に旅行する中で、博物館や史跡での専門家によるツアーや集中講義、大学訪問といった教育的な体験を求める傾向がある。

 

快適で安心できる環境にお金をかける

家族旅行が魅力的な市場である理由として、消費額の高さが挙げられる。純粋に旅行人数が増えるだけでなく、高級ホテルやプライベートツアーを予約するなど、快適さを手に入れるためにお金を払おうとする傾向も強い。

下のグラフは、次回海外旅行をする際の予算を示しているが、赤い棒グラフが示す子どものいる旅行者の予算は、1万元(約20万9000円)以下より、3~5万元(約62万8000~104万7000円)の割合のほうが多い。

▶︎次回の海外旅行の予算


Ctripの報告によれば、2024年の国慶節の休暇中、家族旅行者の消費額は平均の2倍を示した。

中国の家族旅行者は、宿泊施設について、「豪華、高級、5つ星、好立地、グローバルホテル、良いサービス、キッズフレンドリー」をキーワードに探し、こうしたホテルは安全で、健全で便利だと考えている。また、プール付きのホテルで、広いベッドが2つある部屋が望ましいと考えている。

 

クルーズが家族旅行の新しい習慣に

クルーズは、3世代での旅行に特に適した商品で、「今後の旧正月でクルーズ旅行が新しい習慣になるだろう」と、劉氏は話す。祖父母と小さな子どもが一緒に過ごすには最高の場所であり、若い親たちもくつろげる。5つ星の設備と質の高い食事を提供する宿泊施設が求められる。

REDに掲載のMSCクルーズのメインコンテンツの一つは家族旅行

 

食事も重要な体験

食事については、特に祖父母が同行する多世代旅行では、ふだん慣れ親しんだ中華料理を楽しめることが重要だ。一方で、旅先のローカルな味も体験したいと望み、子どもたちにはその土地ならではの料理を学んでほしいと思っている。たとえばイタリアでのピザづくり教室や地元の生活を見て学べる地元の市場巡りツアーなどが挙げられる。

また、小さい頃から洋食を日常的に食べている若い世代は、料理教室だけでなく、外国の料理を食べること自体を子どもたちが新しい味や文化に親しむための学びの機会ととらえているという。

ここまで見てきたように、中国の家族旅行市場は、教育的価値を重視し、快適さや安心感への投資を惜しまない点で独自の特徴を持つ。親世代の価値観やデジタルツールの活用を理解し、多様な体験を提供することが、成功への鍵となるだろう。

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